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猫にこんばんは  作者: 犬鳴 椛子
第二章 神様にこんばんは
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夜にご対面

 フミャ達が着替えている間に辺りはすっかり夜になっていた。

 そして、この会社以外も外はすべて真っ暗だった。というより、何故この会社以外、他に明かりすらないのかが逆に不思議である。


 チェフは光のない真っ黒な窓の外を見ながら、いつもそう思っていた。

 その時、フミャは自然に言った。


「チェフ……。お外……真っ暗……」

『うん……。実はさ、うちもずっと気になってたんだ。なんで、他に明るい所が一つも無いのかって……。でも、神様は教えてくれないのよ……。秘書のうちにすら……ね……』

「ふ〜ん……」


 フミャは首を傾げて、少し納得した。


「フミャの……とこは……とっても……明るい……」

『まぁ、天国には今のところ、ココしか建物が無いから、致し方ないわよ』


 チェフが少し苦笑いして答えたが、フミャの一言は全く違うものだった。


「違う……。天国……じゃない……。人……いっぱいいた……とこ……」

『えっ……? もしかして、人間界の事……?』

「うん……」


 予想外の回答にチェフは戸惑った。そして、ついチェフは聞いてしまった。


『あ、えっと……フミャ? 人間界で何があったのか、ちょっとでいいから教えてくれないかしら……?』


 しばらく、フミャは下を向き、黙り込む。それはフミャが友人を亡くした、あの辛い過去だったからである。


『あっ……えっと……その……ごめんね? 聞いちゃいけなかったね……』

「うぅん……。チェフなら……話す……。んっ……チェフ……だから……話すの……」


 その手は震えていた。しかし、チェフがフミャの手をしっかりと握って、励ました。


『大丈夫だよ。うちはフミャの味方だから』

「うん……」


 フミャは嬉しく、そして、悲しみながら、これまでの過去をゆっくり語った。

 そう……かくかくしかじかと……。


『そうだったのね……。辛かったわね……』


 チェフはフミャを抱き締めた。お互いに友人がいない身だったからこそ、分かり合えたのだろう。

 その時、チェフが一つ提案をした。


『ねぇ、フミャ?その友達に会えるなら会ってみたい?』

「ふみゃ……?」


 突然の提案でフミャは戸惑った。しかし、チェフは話を続けた。


『神様なら、きっと会わせてくれると思うわ。なんたって、神様だもの!』

「友達……会える……?」

『そうよ! 挨拶もしてなかったわね。正装に着替えたし、早く行かないと神様も怒ってるわよ。きっと』


 そう言うと不慣れな着物を着せられていたフミャは、手を引かれて、再び、エレベーターに乗り込んだ。もちろん、秘書専用のエレベーターで。

 数秒後、エレベーターが最上階に到着した。辺りはシーンとしていて、何も置かれて無く、正面に扉が一つだけあるだけだった。


『じゃぁ、行くわよ……』


 チェフは息を飲んだ。

 もしかしたら、お仕置きが待ってるかも知れないから怖いのだろう。勇気を振り絞り、チェフはドアをノックした。


《入りたまえ》


 神様が威厳のある声で言った。その声にフミャも少し緊張が増した。


『失礼します』


 しかし、チェフは迷いなく、ドアを開け、フミャと中に入った。


『ラント様、こちらがフミャをお連れいたしました』

《ふむ、君がフミャくんだね? 会いたかったよ》

「あっ……はぁ……」


 フミャは戸惑いを隠せなかった。

 何故なら、スケートリンク並みの広さはあるオフィスの一番奥から、こちらに向かって話をかけてきてるのだから。

 一体、どこから、こんな声が聞こえるのだろう?そう考えていた時だった。


《チェフよ。ドアの横のヘッドホンで少し音楽を聴かせて、リラックスさせてあげなさい。とても、緊張しているようだからね》

『かしこまりました。はい、フミャ。これを付けて?』


 チェフはドアの横にあったヘッドホンをフミャの耳に当てた。少し否定したフミャだが、心地の良い音楽に魅了された。


《さて、チェフ……。そのヘッドホンは完全防音だから、心置き無く言わせてもらおうか……》

『あっ、はい……』


 チェフは少し身体に力を入れた。すると神様は大きく口を開いた。


《一体、どれだけ待たせたら気が済むんだよ! 全くもう! 前回はぼくが出るって話だったのに、きみたちときたらさぁ! ちゃっかり、出番無かったし、最後しかなかったしぃ! どうしてくれるんだよぉ! ぼくは神様だぞぉ! もう少し、丁重に扱ってくれてもいいじゃないかさぁもぉ!》

『はぁ……。何かと思えば、そんな事ですか……。ランプ様もお子様なんですから……。なんか、緊張して損しましたよ』


 神様の反応にチェフは呆れ顔だった。


《ランプって言うなとあれ程言ってるだろう! ラントだ!ラ・ン・ト!ちゃんと頭に叩き込んどけやぃ!》


 神様の名前は「ラント」という。確かに何かを照らしそうな名前だ。


『そんなの愛称でしょ? 何なら、《ライト》に改名したって良いんですよ?』

《い、いや、どこかの天才腹黒殺人犯みたいな名前はよしてくれよ……》


 ラントが急に逃げ腰になった。それをさり気なく楽しむチェフだった。


『あと初対面に《いかにもぼくが神様です!》みたいな威厳を持った言い方は止めてくれません? 後々、イメージが崩れますよ?』


 尤もな指摘をされてしまった神様のラントは、がむしゃらに反抗した。


《う、うるさいな! そんな事、後にどうにでも出来るし!》


 それを聞いて、チェフはさらに呆れ顔になった。


『やれやれ……。まるでお子様ですね……』

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