上へ参りま〜す。
『足は大丈夫? フミャ?』
あれから、時間が経ち、フミャの足の痺れも取れただろうと思い、チェフは心配して聞いてくれた。
「うん……。楽に……なったよ……」
『そっか……。それなら良かったわ』
俯きながら、チェフは謝罪をした。そして、心の内をフミャに明かした。
『ごめんね……。うち……友達とかあまりいなくて……。あなたを見かけた時に、友達に出来るチャンスがうちにも来たんだと思ってさ……。あなたに声をかけたんだ……。でも、まさか猫だったとは思わなくてね……。それでも友達になれるならって、思って……ちょっと強引にいっちゃったんだ……』
よく分からなかったが、チェフの顔は寂しそうだった。しかし、
悪い人じゃない事はフミャも良く分かっていた。すると、フミャはチェフの頰を優しく舐めた。
『ひゃっ! な、何をして……!』
チェフはびっくりして、フミャの顔を見た時、フミャは言った。
「チェフは……お友達……」
フミャはニッコリと笑ってそう言った。
決して、チェフを拒む様子など全くなかった。
『フミャ…………』
チェフは今にも泣きそうな涙を必死に堪えた。しかし、フミャには気付かれていた。
「チェフ……。泣いてる……?」
思いっきり、図星を突かれたので、チェフは思わず、反論してしまった。
『ば、バカ言ってんじゃないわよ……! このうちがな、泣くわけ……』
「ふふっ……」
フミャがそのツンデレなチェフを見て、クスリと笑った。
フミャにはもうチェフの事は、全てお見通しの様だった。
『い、良いから、サッサと行くわよ……!』
「うん……♪」
フミャは笑顔で答えた。
チェフは、何事もない様なふりをして、ごまかしながら、神様の元へ向かった。
(数十分後……)
『さて、着いたわよ! フミャ! ここがうちが働く会社よ!』
そこは薄ピンクの高く、立派な大きいビルだった。はたから見れば、趣味の悪いビルにも見えた。
「ふみゃぁ……」
フミャはあまりの立派さに唖然としていた。
『神様はここの一番上よ。ここにはね、うち専用のエレベーターがあるのよ! なんたって、神様の秘書だからね!』
「えべれたー……? 初めて……聞いた……」
猫がエレベーターを使う事はまずないので理解できるはずがなかった。
『まぁ、すぐに上り下りが出来る箱って考えてくれたらいいわ。さぁ、神様の元へ……っと思ったんだけど……。やっぱり、その格好じゃ、神様に失礼よねぇ……』
「この服……?」
フミャは「I LOVE サバ」Tシャツをバサバサと揺らした。
『ちょ、ちょちょ! あなたねぇ! 今は服は着てるけど、その下は素っ裸なんだからね!?』
「ふみゃぁ……?」
フミャにとって、裸は恥ずかしい事でも何でもなかった。
なので、言ってる事が理解できず、フミャは首を傾げた。
『う〜ん……。よしっ! 決めた! うちの服をあげるから、ちゃんと着いてきなさいよ!』
「えっ……うん……。でも……服……いらないよ……?」
『あなたが男の子だったら、まだ少しで良かったけど、女の子だものね。女の子には服が無いとダメなのよ! 絶対!』
「わ……わかった……。服……着る……」
あまりの気迫に圧倒されて、賛成せざるを得なかった。素が強引でも致し方ない事であったからである。
『じゃぁ、こっちよフミャ』
彼女はフミャの手を握り、エレベーターの中に連れ込んだ。エレベーターの扉が閉まるとフミャが急に慌てて出した。
「チェフ……! 大変……! 閉められたよ……!?」
慌てるフミャに落ち着いて、チェフは答えた。
『大丈夫よ。これは、上に上る準備よ。さぁ、あなたもこの重力を身体に感じなさい!』
そう言うと、最上階の一つ下のボタンを押した。
その瞬間、エレベーターがグンッと動き始めた。
「ひにゃっ!?」
フミャは悲鳴をあげて、身体にを縮めた。
『どう? 秘書専用のエレベーターは!? 他のエレベーターよりも速いから、身体が重く感じるでしょ?』
なんだか自慢そうだが、確かに重たかった。
フミャには凄い圧迫感があり、潰れるんじゃないかという不安しかなかった。が、しかし、すぐに目的地に到着した。
『着いたわ。ほら、立てる?』
「ハァハァ……」
何もかもが初めての経験だったので、もう頭がパンパンで整理が追い付かないフミャだった。
『ちなみに言い忘れたけど、今日から、あなたはここに住むのよ? それで、ここがうちらの部屋よ』
扉を開くと、そこはやたらと広い空間でスケートリンク一つ分の広さはあった。ここまで広いとフミャは元は猫なので、狭い場所を探すのに一苦労だし、移動も一苦労である。
「広い……」
フミャはチェフの後ろに隠れた。
『広いのは嫌いかしら? じゃぁ、この中の部屋でも良いなら、ちょっと狭い部屋があるよ?』
「そこが……良い……」
『なら、そこでお着替えしましょうか。』
チェフは微笑み、その部屋まで案内した。
「ふみゃ……」
『不安? 大丈夫よ。それにここは男子禁制だし、神様でも覗けない様になってるから、何も心配いらないわ』
そう言って、部屋の中へ入った。すると、そこはフミャに最適な広さの部屋だった。
「わぁ……。きれいなお部屋……」
フミャは部屋を見て、感動した。綺麗に整った部屋はフカフカの絨毯に白い壁で仕切られ、引き戸の棚もあった。
『フミャにこの部屋をあげるわ。あなたはもうただの友達じゃないの。親友よ。』
チェフは微笑みながら、言った。
「しんゆう……?」
『とっても仲が良い大切な友達のこと。よろしくね。フミャ』
「うん……! チェフ……! しんゆうだよ……!」
『ありがとう。じゃぁ、着替えようか』
「わかった……!」
チェフとフミャは良い関係を築き、服を着替えた。
(その頃、神様は……)
「チェフくんもフミャくんと来ない……。忘れられてないよね……? ぼく……」
一人寂しく待っていたのだった。