夕焼け色の電車
赤に近い橙色、夕焼け空を写し取ったような色をした電車が静かに駅に到着します。
「こんばんは、久しぶり」
「こんばんは、1年ぶりですね」
乗客はお年寄りからほんの小さな子供まで。彼らは顔を合わせて、懐かしそうに挨拶しては電車を降りて行きます。
「戻りの電車は明後日ですよ。遅れないで下さいね」
深い紺色の制服を着た車掌さんが、降りて行く人達に声を掛けます。
それに応えて手を振る人、軽く会釈をする人、様々な合図をして駅から人が流れ出て行きます。
駅を出ると道が蜘蛛の巣の糸のように、幾つにも分かれています。
一人で行く人、四五人固まって行く人、行列のように並んで行く人…道毎に様々な模様を描いています。
笑う人、神妙な顔をする人、何やら考えている人。
道の先には、幾つもの集落があります。
一人、また一人と集落の中へ入って行きます。
小さい橋が架かる川、人の身長より高くなる草の原っぱ、ひいひい言いながら自転車を漕いだ坂道…坂道の上には、昔ながらの駄菓子屋さん。
それらを過ぎると、青々と広がる田圃。これから色づく稲が風に吹かれてユラユラとなびく。全てが一体となって、緑の大きな湖のような風景です。
見慣れた家が近付いてきます。
ところどころ、穴の空いた土塀。土塀の先に大きな門。門には大きな提灯が下がっていて、提灯には暖かな火が灯されていました。
「ただいま」
「おかえりなさい」
「ゆっくりしていきなさい」
「待っていたよ」
皆の優しい声と、お線香の薫り。
今日は八月十三日。
旅に出た人が家へと帰ってくる日です。