僕と先輩とPV
「後輩君、部活をすることになった」
「え。するって地図旅行部をですか?」
「そのとおり、活動報告をしてないせいで存続の危機にある。創部して二ヶ月のこの由緒ある部活を守らなければ」
「ゆの字もありませんし、潰れても良いんじゃないですか?」
「馬鹿野郎! この部活は我が高校の伝統を受け継ぎ、外国へ飛ぶ夢をもつ若人達が夢に近づくための一歩となるのだ!」
「と、先生にも言ったんですよね。まぁ、あの馬鹿教師は納得しそうですが」
「というわけで、部活動紹介PVを作ろう!」
「なんで!」
「昼休みに流してもらおう!」
「恥をかくだけだ!」
「どんなの作る? つーか、PV作らないと活動したくなーいー」
「子供か! 分かりました、今日をつかって作り上げちゃいましょう。その代わり明日はちゃんと活動するんですよ」
「はーい」
僕は別に部活を残さなくても良いんだが、楽しそうだしいっか。
△▼△
「やっぱり夕日に向かって走ったほうが青春って感じで良いよね」
「右下にFINが出てきそう!」
「私が撮るから後輩君だけ走って」
「青春してねぇ!」
「そして夕日に向かってキャンパスライフゥゥゥゥゥゥ!」
「圧倒的パクリ!」
「徹底的パクるのよ」
「ほああぁっぁぁ!」
「そう、その調子よ!」
「馬鹿か! 乗った僕も馬鹿か!」
「次行こう!」
「撮ってたの!?」
△▼△
「部活紹介もしないとね。私が書いてきたのを読み上げるから、後輩君がカメラマンお願い」
「準備できましたよ」
「わわわたしぇたちちちゅりょきょうぶは「ひどい! 先輩があらぶってることしか伝わらない!」
「な、なら、後輩君がやってみなさいよ。私がカメラマンやるから」
「えーと、それじゃあ。僕達地図旅行部は世界の果てまで部員皆と一緒に旅行しようというものです。部員それぞれが役割を持って楽しく旅をしましょう、といっても想像で「人生何回目!? どうしてカメラ前なのに冷静でいられるのよ!」
「学芸会や学園祭とかではステージに上がるのが好きだったので、これぐらいは平気ですよ」
「私は学芸会の時は舞台セッティングだけだったのに!」
「役ですらない!」
「後輩君は地面Bぐらいだと思ったのに」
「Mが喜びそうな役ですね! ……それじゃあ、部活風景を撮った後に先輩の声を入れましょう」
「なるほど、それならば大丈夫」
△▼△
「地図帳の用意とカメラを録画の状態にしましたけど、どうやるんですか?」
「まずは後輩君が地図から行きたい場所を指差して」
「んー、フランスですかね。建造物が特に好きなんですよ」
「後輩君、目をつぶって想像してごらん。君はもうフランスのパリにいる。フランス宮廷の黄金時代を象徴する豪華な宮殿とうたわれるベルサイユ宮殿の中に立っている。なんか芳醇な香りがしてきて君はなんかいいなーと思ったりする」
「飽きるのが早い! 今撮ってるんですよ、真面目にやらないと新しく入ってきてくれませんよ」
「別に、私と後輩君だけでいいもん」
「PVの意味が無くなるわ! まったく、何を考えているのか分かりません」
「後輩君は私と二人はいやだ?」
「嫌じゃないですよ。飽きませんし、楽しいです」
「それじゃあ、私のことが好き?」
「はい、大好きです」
「やっぱり友達として?」
「え、もちろんですよ。異性としてなら先輩はもっとカッコイイ人がいると思います。なんて、おかしいはなしですね自惚れました」
「後輩君のことは異性として好きだよ、十年前のあの日から」
「僕と初めて会ったの高校生になってからですよ!? やっぱりストーカーマンの名はだてじゃない!」
「それをもってこないでよ! 後輩君のいじわるー!」
「叩かないでください。これ撮られてるんですよ」
「編集すればいいのよ。きっと楽しそうな部活風景になってるわ!」
「悪徳な編集断固反対!」
「後輩君が一人夕日に向かって叫んでるシーンのみを流すわよ!」
「ひどい!」
△▼△
「結局なにも成果はありませんでしたね。動画を編集してたら先輩が電源コードを足に引っ掛けて転んで、データが吹っ飛んでしまいまし
たし」
「まぁ、きにしなーい!」
「今は怒る気もありません。外も暗くなってきたので帰りましょう」
「ごめん、教室に忘れ物してきたから先に帰ってて」
「待ってますよ」
「いいからいいから。見せたくないものなの」
「わかりました、今日はお疲れ様でした。明日はちゃんと部活動しましょう」
「うん、おつかれ」
△▼△
先輩が僕に見せたくないものとはなんだろうか。まぁ考えてたってしょうがない。
というか、いきなり異性として好きだとか恥ずかしくて話を逸らしてしまった。
十年前から好きだったか……。