僕と先輩と昼飯
「先輩、お昼にカップメンって馬鹿に見えますよ」
「昼がカップメンの銀河系に住んでいる生き物に土下座しなさい!」
「規模がウルトラ級!」
「それとカップメンに青春や愛情、友達関係、家族、人生を捨てて来た人たちにも!」
「その人達は馬鹿って言います!」
「カップメンは日本の技術が集まった崇拝するべき、神に匹敵する食べ物なのよ!」
「先輩馬鹿ですね!」
「でも、美味しいのは後輩君も認めるでしょ?」
「まぁ、はい、別に味を攻めてたわけではないですし。というか、今先輩が食べてるのはなんのカップメンですか?」
「青いたぬき」
「どらえもんを食ってたんですか」
「いや、本当にあったの。ほら、今朝コンビにで買ってきたやつ、見てごらん」
「スープが真緑! 具も無い! うどんも白い! 青の要素が無い!」
「他の商品名の色も最初から中身とは関係ないものでしょ」
「それはそうですけど、青なんだからインパクト欲しいですよ。というかそれ美味しいんですか?」
「食べてみる? 私の箸を使うことになるけど」
今日は購買でパンを買ったので箸は持っていない。
「ありがとうございます」
「少しはためらって! 私にも女としてのプライドのようなものはあ「くそまじじいいいいい!!!」
「だ、大丈夫? 後輩君」
「まずいまずいまずい、かつおだしとまるで合ってない! 美味しさのフルオーケストラが楽器を使ってガチチャンバラを口の中で始めてる!」
「正気になって後輩君!」
「水を……」
「私の水筒飲んで!」
「ありが……とうご、ざいまくっそまじいいいぃぃぃ! なぜか青いたぬきと味が似てる……! 先輩、その水筒の中身ってなんですか……?」
「えっと、青汁よ」
「その青か!」
「え、ちょっとまって後輩君! なんですっきりした顔で永眠を迎えるような安らかな表情なの!?」
△▼△
「よくそんなもんが商品化しましたね。死人が出るまずさですよ」
「後輩君がそんなに青汁が嫌いだとは思わなかったよ。とても美味しいのに」
「別に嫌いではありませんよ。かつおだしとの相性が規格外に合わなかっただけですし」
「え、美味しいじゃん」
「先輩は舌も馬鹿になったんですか」
「なんか目が怖いよ後輩君! なに、私を恨んでるの? 恨むなら作った人を恨んで!」
「先輩のなかで美化されてたカップラーメン職人を裏切った!」
「人それぞれだよ、美味しいか不味いかなんて。そういう後輩君は何食べてるの?」
「コッペパンです」
「っち、つまんな」
「食べ物でおもしろいつまんないはどうでもいいんですよ。一つ一つ丹精込められて作られたもので、僕達の生きる糧になることを知って、ありがたいと思えてれば十分です」
「っち、つまんな」
「同じ反応はおかしいですよね!」
「そういえば後輩君っていつも購買で昼飯買うわよね?」
「まぁ、親が忙しくて作ってくれないんですよ。僕は料理なんてできないし」
「わ、わ私がお弁当作ってあげようか? 今日はたまたま寝坊しただけで、早く起きれば二人分なんて楽チンだよ」
「舌が馬鹿先輩の弁当は遠慮します」
「絶対美味しいの作るから! お願い!」
いつになく真剣な瞳を見せた先輩は美しいと思った。
可愛い性格で可愛い表情をするのに、真剣になればここまで人が変わったようになるのか。
「え、ええっと、ななんで見つめてるの、それと急に黙られても。そんなにいやだった?」
瞳が潤みはじめると、いつもの先輩の表情になっていて少し残念な気持ちになった。
「わかりました、お願いします」
「いやったーー! これで毎日後輩君とお昼ができる!」
「だから真剣だったのか!」