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プロローグ

 それは町と村の間になる、国にも忘れ去れているような古い洋館だった。


 うっそうと茂った森の中にある、道とも言えないような獣道を辿った先にある、闇が染み付いたような暗い屋敷。蔦に覆われた屋敷は歴史を感じさせる佇まいをしているが、決して古く痛んでいるわけではない。

 むしろ、歴史のある貴族がずっと使い続け、今も住んで手入れをしていると言われてもおかしくない風格を持っている。その屋敷に染みついている暗さと蔦を別にすれば。


 悲鳴。微かに悲鳴が屋敷の中から響いている。

 だがそれを聞くものはいない。人里離れた、この屋敷に近づくものなどいないのだ。


 きりきり、きりきりと。

 悲鳴と一緒に、屋敷自体が軋む。


 もしも誰かがこの有様を目にすれば、屋敷が悲鳴を上げているのだと勘違いするかもしれない。


 やがて、屋敷の悲鳴が消える。


 しばらくして、屋敷の扉を開けて、一人の気弱そうな青年が出てきた。


 線の細い、ごく普通の青年だ。服装も、屋敷から連想されるような立派なものではなく、ごく普通の麻の服だった。屋敷の住民とは一見思えない。

 青年の目は暗かった。


 暗い目で、両手に巨大な皮袋を抱えて屋敷から離れていく。


 青年が歩くたびに、皮袋の「中身」が揺れ、ちゃぷちゃぷと音をたてる。


 屋敷を離れてどこかへ行った青年は、しばらくしてから屋敷の前に戻ってくる。

 両手で抱えていた皮袋は、折りたたまれ片手に無造作に持たれていた。明らかに、中身がなくなっている。


 屋敷に戻ろうとした青年は、一度その動きを止め、暗い目で屋敷を見上げる。


「まだ足りないのか」


 恨めしく青年は呟き、何かを諦めるように目を閉じて頭を振ると、また足を動かし、今度こそ屋敷へと入っていった。


 後には、何も残らない。

 森には獣の遠吠えだけが響いている。


 いや、本当は、その獣の遠吠えも屋敷から聞こえてくるものかもしれなかった。

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