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岩見優司のリア充(?)な日常  作者: 霧島こう
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第八十四話 テストの時間

第八十四話 テストの時間


 テストは定刻通りに始まった。時間ピッタリに七三分けのメガネをかけたスーツ姿の男が教室に入ってきて、解答用紙と答案用紙を配っていく。妹会長の席に配る時に、何で子供が受けに来ているのだと、訝しむことすらない。ずっと仏頂面のままだ。クラスの中に一人はいるよな。本人は特に怒っていないのに、不機嫌そうな顔をいつもしている奴。


 用紙を配り終えると、抑揚のない声でテストの説明を始めた。話はたいへん分かりやすいのだが、何か物足りない。というか、面白みに欠ける。小島先生のけだるそうな授業に体が慣れてしまっているせいか、こういう真面目一辺倒の講義を、体が受け付けなくなっているらしい。


 などと、ツッコミを入れている場合ではない。直後に始まるテストに集中しなくては。いくら俺が勝負に巻き込まれただけとはいえ、あまりひどい点数だと恥ずかしい。


 テストは午前中に国語、数学、社会、休憩をはさんで、午後に理科、英語をやって終了という日程だった。黒板に書かれた日程表の中で、最後の「終了」の文字が魅力的に見えて仕方がないのは俺だけではないはずだ。


 さて、ここからはテストの内容を簡単に記載していく。まず、国語のテスト。昔から漢字や文法問題は難なく解けたので、本日も例に漏れることなく、スラスラ解いていく。長文読解や、古文の問題に時間がかかるといういつものパターンだった。


 数学の時間は、地獄だった。根っからの文系人間である俺にとって、理数系は死活問題で、特に数学が駄目だった。制限時間ギリギリで何とか、全問回答したものの、自信は全くない。


 対照的に三つ目の社会のテストの時はスラスラ解けた。特に歴史の問題はペンを持つ手が止まることはなかった。小学生のころ、日本の歴史を漫画で熟読していた努力が功を奏した瞬間だった。


 ……何て面白味がないのだろうか。個人でただ淡々とテストを解いた話をするだけなので、笑う要素ゼロ。他人との絡みも一切ないので、精神的にきついな……。


 慣れない環境だと、疲労していくスピードが速い。しかも、学校の定期テストより、段違いに難しい問題を解かされるのだ。脳みそがあっという間に悲鳴を上げる。


 三教科が終わったところで、昼休憩になった。休憩時間になったのを良いことに、脳みそが沸々と泡立っているのを感じた俺は妹会長の手を引いて、塾の外へと避難することにした。緊急避難ってやつだ。


 電話をかけてまゆとも合流するつもりだったが、廊下で俺たちを待っていたまゆと運良く遭遇できた。ここで待っていれば会えると思って待っていたとのこと。


「勘が冴えているな」


「そりゃあ、あなたの彼女ですから♪ 優司くんの考えていることは把握しているつもりよ❤」


 俺が茶化すと、まゆがまた物議を醸す嘘発言をした。


 余計なことを口走るなと、まゆを制止しようとしたが、発言してしまった後ではもう遅く、また周囲から殺気の矢が飛んできた。数は今朝の時より格段に増えている。俺はこれ以上まゆの口から爆弾発言が出ない内に外へ出ようと、まゆと妹会長の手を引いて全速力で歩いた。


 駅前まで歩くつもりだったが、途中の路地裏で、個人経営とみられるハンバーガーのファーストフード店を見つけたので、そこで昼食を摂ってしまうことにした。


 店に入って、中を簡単に見回すと、思いのほかガラガラだった。休日の飯時にこんなに閑古鳥が鳴いていると、味に不安を感じてしまうが、その代わりとして席は選び放題だった。


 奥のボックス席を悠々と陣取って、各々のハンバーガーセットを運ぶと、空腹だったこともあり、早速ハンバーガーにかぶりついた。味は懸念していたほどひどくはなかった。……美味いとも言えないけど。


 とりあえずハンバーガーを完食して、空腹を収まらせた後、まゆに彼氏発言のことについて聞いてみた。


「優司くんが退屈そうだったから、少しイタズラしてやろうと思ってね♪」


 その可愛いイタズラのせいで、俺は生きた心地がしなかったんだぞ。笑ってごまかそうとするな!


「もし、優司くんがまんざらでもないようだったら、そのまま付き合おうとも思って♪」


「やっぱりそういう意図か~~~~!!!!!」


 絶対に下心があると睨んだ通りだった。くそ! 絶対にデレてやるものか!


「あとさ、教室で俺のことについて聞かれなかったか?」


「どうして分かったの? そうね。優司くんと別れてから、ずっと質問攻めだったわ。質問に答えなくていいのは、テストを受けている時だけだったから、大変だったのよ!」


 変な嘘をつくからだ。まさか、事実無根の嘘を平然と話していないだろうな。


 俺も大変だったんだぞ。幸いなことに、面と向かって話しかけてきたのは、隣の席の男だけだったが、俺を良く思っていない人間はあのクラスだけでも、二桁はいるように感じた。


「こんな状態じゃ、テストに集中できないな。点数はひどいものになるだろう……」


 ちゃっかり言い訳をさせてもらう。午前のテスト(特に数学)の出来が悪く、残り二教科で挽回できるめどはとてもたてられなかったが、これでどういう結果になろうが大丈夫だろう。


「駄目よ。まだテストは終わっていないんだから。最後まで諦めちゃ駄目!」


 諦めないことに定評のあるまゆが励ましてくれる。最初から諦めている俺は、曖昧な笑みを浮かべながら、適当な相槌だけ打った。


「まあ、ふぁいごにふぁらうのは、わふぁしだけろね……」


 最後に笑うのは自分だと言いたいらしい。口にものをたくさん詰めながら話すせいで、明瞭快活なだけが取り柄である妹会長の発言が聞きづらかった。




 その後、休憩時間一杯、店で駄弁っていたが、そろそろ塾に戻らないといけない時間になってしまった。


「ああ、またあそこに戻らなきゃいけないのか……」


 休憩時間をフルに使って、テンションを上げたが、塾に戻ることを考えると、憂鬱な気分が戻ってきてしまった。


「そんなことを言わずに! あと、たったの二教科だけなんだから!」


 いや、それもあるけど、俺が懸念しているのは、周りから向けられる嫉妬と言う毒が念入りに練りこまれた、殺気の矢を恐れているのだ。もうそろそろ俺のデリケートな心臓が停止してしまうかもしれない。


「さてと。お腹も一杯になったし、そろそろ本気を出しちゃおうかな!」


 塾に戻り道すがら、妹会長は実力全開宣言をした。


 本人はゲームのラスボスが最終形態に進化するのと同じイメージで言っているのだろうが、俺にはどうしてもニートがよく言っている「明日から本気出す」の類に聞こえてしまう。俺の周りにも、テスト前日に同じことを言っている奴がいるが、宣言通りに出来た例がない。そんなに都合よく実力以上の「真の力」を出せたら苦労しない。


 塾に戻ると、また入口のところでまゆと別れて、妹会長と午前中と同じ教室に移動した。


 俺が教室に入ったと同時に、スイッチが入ったように、一斉に俺へ視線が向けられる。妹会長は自分が注目されていると勘違いして、「人気者はつらいね!」とか言っているが、まゆファンからの視線だということは明らかだった。彼らを刺激しないように注意しながら、自分の席に着いた。


 隣の席の男は何も言ってこない代わりに、俺をじっと見つめてきた。頼むからテストに専念させてほしいと内心ため息をついたが、テストが始まると沈静化してくれた。


 理科のテストが始まると同時に、妹会長の席から音がした。何事かと思って見てみると、解答用紙にすごい勢いでペンを走らせている。ちゃんと考えているのか、疑ってしまうほどのスピードだ。


 テスト開始から十分ほど、その状態が続いた後、ペンが走る音はピタリと止んだ。カンニングと間違われないように、そっと妹会長の方を見ると、机に突っ伏して寝ていた。まさかもう解き終わって、見直しまで済んだというのか。


 相変わらず絶不調の俺をよそに、英語のテストも、妹会長の勢いは止まらなかった。さすがに、リスニングの時は大人しく聞き耳を立てていたが、終わると同時に、またペンが爆音と共に動き出していた。


「終わった……」


 頭の中が真っ白になった。もう当分テスト用紙は見たくない。


 帰りの道で、テストの結果は二日後にネット上に公開されるということを教えられた。


「何でよりによってネット上に……」


 自分の恥ずかしい画像をネットで公開されている気分だ。おそらく、今日の結果を早智やホイケルにばらすと脅されれば、今の俺は屈するしかないだろう。


「元気がないね、優司くん♪」


「テストの結果を考えるとどうしてもな」


「ふん! 日ごろから勉強してないから、そういうことになるんだよ!」


 妹会長にだけは言われたくない言葉を浴びせられた。こいつも絶対にテスト前まで勉強しないタイプなのに。でも、午後のテストは全然雰囲気が違っていたよな。まさか……。


「ひょっとして……。お前、成績がいいのか?」


「なっ! いきなり失礼しちゃうね! こう見えても私は才女なんだよ!」


「会長の言う通り。一年では入学以来トップを維持しているんだから、成績は抜群よ」


「マジか!」


 性格通り、成績の方も小学生並みだとばかり思っていたので、かなりショックだった。だって、学年トップと言うことは、俺より上だということなんだぞ。よりにもよって、妹会長が……。


「あ! 私に成績で負けていることにショックを受けている顔だ!」


「よく分かったな」


「ううぅぅ~~!! 私を子ども扱いして~……。ムキ~~~~!!!」


 そんな挙動だから舐められるんだよ。でも、やはり成績で負けているのはショックだな。


「ん? 待てよ?」


 ということは、まゆは妹会長の実力を知った上で勝負を挑んだということか。てっきり妹会長の成績が悪いのを良いことに、自分に有利な勝負を持ち込んだものとばかり思っていた。


「そんなことしないわよ。終わった後で、不得意だったとか、言い訳されないように、わざと向こうの得意分野で挑んだの。あの性格なら、得意分野での勝負なら、たとえ負けても言い訳はしないで、素直に悔しがるでしょ♪」


 そこまで計算していたとは。全ては勝った時に、気持ち良く相手を罵倒するため……。最初の怪文書攻撃と言い、まゆって、やっぱり怖い女だな……。


「くっくっく……。もうすぐ君の吠え面を拝めると思うと楽しみで仕方がないよ!」


「その言葉、そっくりそのままお返しするわ♪」


 あ~あ、テストの点数で勝負できるほど余裕があるなんて羨ましいな。俺は自分のテストに話題が移らないように、全神経を集中させているというのに。


優司の成績は、学生時代の私の成績を参考にしています。バリバリの文系だったので、優司と同じように数学が大嫌いでしたw

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