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岩見優司のリア充(?)な日常  作者: 霧島こう
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第三話 罰ゲーム的な告白(前編)

ひょんなことから告白することになってしまった岩見優司。異世界に行ったりもしませんし、魔法少女なんかも出てきません。こんなやつがいたら面白いだろうなあという話を載せています。作業の合い間にでも、読んでいただければ嬉しい限りです。

第三話 罰ゲーム的な告白(前編)


 突然のことだが、告白することになってしまった。相手は美咲陽菜。悪友によると、学内人気ナンバーワンらしい。ちなみに、その悪友も陽菜を狙っている。


 その日、俺は宿題を書いてくるのを忘れていた。前日の夜遅くまで、テレビゲームに夢中になっていて、頭からすっかり抜け落ちてしまったのだ。


 同じ教師の担当している授業で、前回も宿題を忘れているので、連続はまずいと思い、不本意ながらも悪友に宿題を写させてもらうことにした。


 真っ白なノートを持って、声をかけた悪友の名前は保池正志。生粋の日本人だが、変わっていて呼びにくい苗字だと思ったので、ホイケルというあだ名でみんなから呼ばれている。


 といっても、呼び始めたのは俺だけど。だって呼びにくいんだもん、保池。周りにも受けが良くて、みんなもホイケル、ホイケルと呼ぶようになった。ちなみに、ホイケル本人は、この呼び方がお気に召さしていない。


「また美咲さんの写真鑑賞か? ホイケル」


「うるさい。周りに聞こえるから、声のトーンを落とせ」


 こいつの美咲さん好きは周知の事実だ。本人にも知られているので、今更隠す意味もないと思うが、言われた通りにした。へそを曲げられて、宿題のコピーを拒否されると困る。


「あと、美咲さんを下の名前で呼ぶな。彼女を下の名前で呼ぶことを許されるのは、親兄弟と女友達と、彼氏にのみ許された特権だ」


 女ならOKということか。あまり名誉な気がしない。


「それで? 今日は何の用だ」


「宿題、頼む」


 写真鑑賞に忙しかったようなので、単刀直入に言った。こちらとしては、ホイケルのノートに用事がある。本体であるこいつなどどうでもいい。


「自業自得だ」


「全くだ。分かったから、宿題」


 薄々気づいているとは思うが、分かっていない。俺の頭は、やつの宿題を写すことでいっぱいだ。


「断る。自業自得だ。たまには怒られろ」


「写真の件を美咲さんにちくるぞ」


 ホイケルの顔色がみるみる青ざめていく。こいつ本人は陽菜に知られていることを知らないので、恐れている。


「ほらよ……」


「恩に着るよ」


 無念そうに、ホイケルは努力の結晶を俺に手渡してきた。それを受け取ると、急いで、白紙の自分のノートに写し始めた。




 休憩時間、食堂で同じA定食を食べながら、ホイケルにお礼を述べた。


「いやあ~、助かったよ」


「ふん!」


 ホイケルは憮然としているが、やつのノートのおかげで最悪の事態は回避できた。


「お礼をしなきゃな。缶コーヒーでいいか?」


「美咲さんに告白しろ」


「は?」


 てっきりもっと高いものを要求してくると思っていたら、不可解な要求に、さすがの俺も絶句した。


「俺が美咲さんを愛しているのは知っているな?」


「ああ」


 高校生の分際で、愛しているという言葉を真面目に吐くホイケルに吹き出しそうになったが、寸前で堪えた。


「毎日毎日彼女のことを考えると、胸が張り裂けそうになる。もう限界に達しそうだ。それで告白することにした」


 胸が張り裂けそうなら、医者に行った方が早くないか? いや、恋煩いは医者にも治せないと本に書いてあるのを読んだことがある。


 こいつが陽菜に告白するのはわかるが、そこからどうして俺が告白するという展開に飛ぶんだ? 自分と俺を取り違えた訳でもあるまい。


 疑問を投げかけると、ホイケルは罰の悪そうな顔で、ぼそっと答えた。


「データが欲しいんだ」


「何の?」


「お前の失敗を分析して、後日改めて俺が告白する」


 こいつ、俺を人柱にする気か。


「冗談じゃない。そんな恥さらしなことが出来るか! そんなにデータが欲しいんだったら、早智にでも告白してみたらどうだ? あいつも一応女だろ。シミュレーションの相手としてはクリアしてるんじゃないのか」


「誰が一応女よ」


 また面倒くさい奴が出てきた。


「あ! 今私のことを面倒くさい奴だと思ったでしょ。ねえ、そうよね。そう言いなさない」


 言うが早いか、早智は俺の首を絞めてきた。


「ぐ……。首を絞められたら何も言えないだろ、馬鹿」


「馬鹿は余計よ」


 首を絞める力をさらに強めた後、早智は手を離した。この一応女め。本気で締めやがって。少しむせったじゃないか。死ぬかも……とは思っていないけど、苦しかった。


 強引に話に加わってきた早智は、ホイケルから話を聞くと、意地の悪そうな笑顔を浮かべた。


「優司、告白するんだ? へえ~、あの朴念仁の優司君も遂に恋をしましたか。やっぱりお年頃ということなんですねえ~」


「話を聞いてなかったのか? こいつが勝手に言い出しただけだ。俺は恋をしていないし、誰にも告白したりはしないよ」


「いいじゃない。あの天然草食系男子の岩見優司が女の子に告白するのよ。こんな面白い事件はないでしょ」


 朴念仁の次は天然草食系男子か? ここにも馬鹿が一人いた。どいつもこいつも人をおもちゃにしやがって……。怒りと呆れで、頭が痛くなった。


 馬鹿二人の「告白大作戦」は、適当に流すつもりだったが、特に早智が勝手に動いた。


「優司。美咲さんの机に、本日の放課後に屋上で待ってますって手紙を入れておいてあげたから。感謝しなさいよ」


 授業が終わって帰ろうとしているところに、やってきたと思ったら、爆弾発言。勝ち誇ったように笑う早智を、本気で殴りたくなった。しかも、本日の放課後って、これからすぐじゃないか。告白を行う俺が直前に聞かされるって、どんな状況だよ。


「お前なあ……」


 怒りを爆発させようとする俺の前に、第二の馬鹿がやってきた。


「よお! 落ち込む準備はできたか?」


 そんな準備は不要だ。


「万が一成功したら、付き合えばいいじゃない! ククク……」


 くそ! こいつら、絶対に楽しんでいる。俺が恥をかくところを。


「ほら! こんなところでもたもたしていないで、屋上にレッツゴーだぞ。美咲さん、待ってるよ。女の子を待たせるなんて、男として最低だぞ」


「最低だぞ」


「いや、俺が知ったの、たった今なんだけど」


 一応抗議をしてみたが、二人の馬鹿に通じるわけもなく、俺は手を引かれるままに、屋上に直行する羽目になった。


 どうして俺がこんな目に……。





 早智の有り余った行動力のせいで、数分後には、屋上に立たされていた。望まない告白をして、恥をかかされるためだ。


 急だし、手紙なんて無視して来ないことをひそかに願っていたが、こちらが指定した時間より十分も早く陽菜はやってきた。なんて律儀な子なんだ。


「さっきね。鹿内さんから、優司君が話があるみたいだから、屋上に来てくれって言われたの」


 心なしか、陽菜は嬉しそうだ。お金がもらえるとでも思っているのだろうか。人気のないところに呼び出して、二人きり。どんな話をするのか、いくら恋愛の噂を聞かないお嬢さんの陽菜でも、察して欲しいものなのに。


 ガッカリするだろうなあ。「お金がもらえると思っていたら、告白? 無駄骨もいいところよ。私の貴重な体力と時間を無駄にしたわ。どうしてくれるの?」などと、数分後に陽菜から浴びせられるだろう、罵詈雑言を想像しながら、ため息をつきそうになる。


 仕方がない。嫌なことはとっとと済ませよう。深呼吸して一気に話し始める。


「え~となあ……。手短に話すから聞いてくれ。突然、呼び出してごめん! 来てくれてありがとう。用件を言うとだな! ずっとお前のことが好きだった。俺には取り柄らしい取り柄はない。あるのはお前に対する想いだけだ。一生大切にするって誓う。だから、俺と付き合ってくれ、陽菜!」


 我ながらよくもまあ、ここまで嘘八百を並べたものだ。一生大切にする? 想いは人一倍? 付き合う気もないくせに。物陰で早智とホイケルにも聞かれているんだぞ。後でどう言い訳するんだよ、俺?


 しかし、言い切った。後は振られるだけだ。向こうで早智とホイケルがこっちを見て笑っているのが見えた。あいつら……、人に恥をかかせやがって。後で覚えてやがれ。


勘の好い人ならこの後の展開が予想できているかもしれません。告白の言葉は自分で考えていて、恥ずかしくなりました。美咲さんの返事は次回に持ち越します。

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