表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
岩見優司のリア充(?)な日常  作者: 霧島こう
2/220

第二話 盗撮騒ぎ

ヒロインがようやく登場。さて、誰でしょう?

第二話 盗撮騒ぎ


 翌日、学校は大騒ぎだった。


 前日、俺達が帰った後で、事件が起きた。


 盗撮騒ぎが起きたのだ。


 念のために断っておくが、俺と早智の犯行ではない。


 目撃した女子によると犯人は男で顔を隠していたせいで年齢も顔の特徴も分からないらしい。着替えをしていたら、何者かの視線を感じ、不審に思って振り返るとロッカーの中でこっちをにやにやしながら見ている男と目が合ったらしい。


 女子生徒が悲鳴を上げると、男は弾かれたようにロッカーから飛び出して走り去ったということだ。悲鳴を上げている暇があるのなら、その場で取り押さえればいいものを。

盗撮されていたことで、更衣室内は騒然となったらしい。


 翌日には、騒ぎは校内に伝染して、今は犯人探しで水をひっくり返したようなカオスな状況だ。お前は大丈夫だろうという容貌の女子や、男子まで騒いでいる始末だ。


 本来なら、俺には関係ないと言って、帰路に就くところだが、そういうことも言っていられない状況に陥ってしまった。


 もう一度念のために言っておく。犯人は俺ではない。だが、俺を犯人だと疑う奴はいる。


 同じクラスの女子で、生徒会役員の蒼井七海だ。


 帰りのホームルームが終わり、帰ろうとしていたところに近寄ってきて、ちょっと話があるから来いと腕を掴まれて、生徒指導室まで連行された。返事をする暇すらありはしない。


 部屋に入ると、先客が二人いた。どちらも女子で、同じクラスの人間。その内の一人は早智だった。


「あんたも呼ばれたの?」


 早智は憮然とした顔で言った。


「何もそんなに怒らなくていいのよ」


 対照的な涼しい声で、七海は言った。涼しいというより、感情がこもっていないと言った方が適切かな?


「人を犯人扱いしておいてずいぶんな言いぐさね」


「犯人って?」


 話が見えない。


「今学校で噂になっている盗撮騒ぎの犯人よ。岩見君も耳にしているでしょ」


 朝のホームルームで担任の女性教師が話していたから、情報は得ている。わざわざここに連れてこられたという

ことは、俺が疑われているということも薄々だが、勘づいている。


「ちょっと七海」


 部屋にいたもう一人の女子生徒が七海をたしなめる。


「大丈夫。事情聴取するだけよ」


 事情聴取って、刑事ドラマじゃあるまいし。しかも、俺たちが犯人だと確信しているかのようじゃないか。


「先に言っておくけど、俺はやっていないぞ。早智も同じだ。何を聞くつもりか知らないけど、時間の無駄だぞ」


 恐らく真犯人も取り調べで似たようなことを言うと思うが、とりあえず犯行を否定した。


 昨日の放課後、早智との馬鹿話の弾みで、やる方向に傾きかけたことは事実だが、口にするとややこしくなりそうなので、黙っておこう。


「あなたたち二人が盗撮をやろうと話しているのを聞いたって生徒がいるのよ」


 誰だ、そいつは。仲間を売るような真似をしやがって。


「私だって本意じゃないのよ。同じクラスの人間を疑うのは、私だって心苦しいの」


 気のせいだろうか。言葉とは裏腹に、ちらちら俺よりも早智の方に鋭い視線を送っている。どこまで話を聞いているのか不明だが、早智を犯人だと思っているようだ。


 止せばいいのに、早智も七海を睨んでいる。元々喧嘩っ早い性格だからな。ただでさえ、濡れ衣を着せられて気分の悪いのに加えて、この二人は不仲という噂も耳にしたことがある。我慢も限界に近いのだろう。


「犯行があったのは、昨日の午後四時くらいね。その時、あなたたちはどこにいたの?」


「アリバイを聞いているの?」


 険しい顔で早智はつっかかった。早智に話させていると、取っ組み合いのけんかを始めそうな雰囲気だったので、及ばずながら、昨日共に行動していた俺が代弁することにした。


「昨日、早智と一緒に駅前の店で、エロDVDを物色していた。かなり長い時間、店にいたから、店員さんに確認すればアリバイの証明に……」


 そこまで言ったところで、早智に後頭部を思い切りグーで殴られた。女の割に、力があるので、痛い……。


 反射的に早智を睨むと、顔を真っ赤にして「馬鹿!」と罵倒された。続いて七海を見ると、向こうも顔を羞恥で真っ赤にしている。


 何だよ。聞かれたから、正直に答えたのに。ここは俺のファインプレーに感謝するところだろ。全く訳が分からん。


「アリバイはアリバイだろ。これで俺たちの無実は証明されたんだ。もう行っていいだろう?」


 七海は険しい顔で黙っている。まだ疑っているらしい。ひょっとしたら、何が何でも俺たちを犯人にしたいのかもしれない。


「ちょっと七海! 優司君たちにはアリバイがあるのよ。犯人の可能性は低いわ。だからここまで強く接することはないじゃない」


 顔を真っ赤にしながらも、七海を必死に宥めているのは美咲陽菜という女子だった。一部の男子生徒に絶大な人気を誇り、アイドルでもないのに、ファンクラブを作ろうという動きまである。顔は美少女の部類に入るだろう。定期テストの総合順位は毎回俺の一つ上をキープしている。陽菜は俺のアリバイ談義を信じてくれているようだ。


 早智と七海で互いに睨んだままでこう着状態に陥った。


 そこにドアを開けて、後輩と思われるメガネ女子が入ってきた。今時珍しいお下げだ。


「蒼井さん。犯人が見つかりました」


 服装も校則から一ミリも外れていない。教師には好かれるが、同年代の男子からは敬遠されるタイプだ。「(彼氏を)欲しがりません 卒業までは」という悲痛な決意が聞こえてきそうだ。


 ん? 分析をするのに夢中で、反応が遅れたが、犯人が見つかったって?


「犯人が見つかったですって? 本当なの?」


 七海も聞き返す。


「はい。近所に住む独身の中年変態男で、ネット上に動画で流すつもりだったようです。風紀委員の男子に頼んで見張ってもらっています」


「そう……」


 中年変態男。ずいぶんな言われようだ。あのまま濡れ衣を着せられたままなら、俺もああいう感じで罵倒されていたのか。


 七海は、俺にだけ疑った非礼を詫びると、メガネ女子を引き連れて教室を出ていった。早智には死んでも頭を下げたくないらしい。「私にも謝りなさいよ~」と早智が叫んでいた。


 ふと去り際に陽菜がこちらを見たのに気付いた。表情には謝罪とは別の感情がこもっているような気がした。俺と目が合うと、陽菜は顔をやや赤らめて、視線を外した。さっきのエロDVDの一件をまだ気にしているのだろうか。今時の女子高生には珍しく純情な性格なのかもしれない。


 七海と陽菜が廊下の向こうに消えていくと、早智は安堵の息を漏らして、その場にうずくまった。


「何よ。間違いだったんだから、一言くらい謝りなさいよ」


 早智は腹の虫が収まらないのか、まだブツブツ文句を言っている。


「陽菜に助けられたな。しばらくはあいつの家の方角に足を向けて眠れそうにないな」


 疑いが晴れた以上、俺はもうどうでも良かった。


「そういえば、美咲さん。去り際にあんたのことを見ていたわね」


 陽菜の視線には、早智も気づいていた様子。


「そのようだな。ただの偶然だろ。恨まれることもしていないし」


 ちなみに、俺と早智のことを七海に話したのは、同じクラスの男子生徒だった。あの後、早智が持ち前の情報網をフルに活用して探しだしたのだ。七海のことが好きで、ポイントを稼ぎたい一心で、俺たちを売ったらしい。かわいそうなことに、その男子生徒は早智から制裁を受けることになるのだが、それはまた別の話。


次回、告白までストーリーを進める予定です。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ