#2・僕と彼女と運動会
十月冒頭の日曜日。今日は天候にも恵まれ、辛木中学校の運動会が開催されていた。
午前中が終わったところで、皐月の所属する北軍は二位。一位の東軍との差は小さく、一位は射程圏内だ。
皐月が出場する種目は三つ。全員参加の徒競走と、選択出場種目の椅子運び。それに学年別リレーだ。リレーは学年毎に五人選抜されており、皐月はその中に選ばれたのだった。確かに走るのには自信がある。現に徒競走も一位だった。ちなみに椅子運び―五個の椅子を次々と前に移させながらその上を走る―のほうは真ん中ぐらい。まぁ恥はかいてないので良しとする。別の組は盛大に転び、笑いを誘っていたから。
昼からやることといえば、学年別リレーと応援合戦、それに部活対抗リレーだけだ。部活対抗リレーは遊びのようなもので、何か賞品があるわけでもない。一年生と二年生から二人ずつ、三年生からは三人選出せねばならず、一年の間で行われたジャンケンで皐月は見事に敗北したのだった。なお、大部分の運動部と異なり、水泳部は男女別になっていないので、男女それぞれ一人ずつ。そのため、もう一人の一年生は女子である。
小学校の時は赤組対白組という単純な図式だったが、東西南北の四チーム対抗戦となると、やはり勝敗の行方が気になってしまい、ついつい全力プレーに。練習の時はかったるいと思っていたくせに、いざ本番になったら盛り上がってるなんて、我ながら単純な性格だと思う。
今から一時間の昼休み。今日は霞と父の雷電が来ているので、町内会毎に分かれたテントに向かう。
「よー、キサ坊、エドワード。お疲れさーん」
洋一と一緒にテントへ向かっていると、東軍の白いハチマキを締めた友人が肩を組んでくる。小学生の頃からの付き合いで、もう一人の親友、井上成美だ。背が高く、このメンバーの中では一番の長身だ。その長身を活かしてか、バレー部に所属しており、坊主頭のよく似合う、なかなかの男前である。洋一とは中学生になってからクラスが別になったが、成美とは一緒のままだ。
なお、各軍はハチマキの色で区別されており、北軍は紫、南軍は緑、西軍は赤、東軍は白となっている。
「おー、なるちゃんじゃん。お疲れー」
「やっぱキサ坊は足速ぇなー。ぶっちぎりだったじゃん」
「まぁメンバーに恵まれてたなぁ。陸上部とかいたら勝てなかったよ」
そんなことを言いながら、意地悪そうに洋一のほうを見る。彼は陸上部ながら六人中三位であった。まぁ、彼は走り高跳びが本業だということは知っているが。
「いや、メンバーが悪い! みんな速すぎだってば!!」
洋一と一緒に走った面子といえば、野球部二人にテニス部、バスケ部に陸上部と、見事に運動部ばかりであった。そのなかで三位となれば、まぁ上出来だろう。客観的に見れば、洋一は十分俊足だった。
なお、成美は二位であった。なんだかんだでこの三人は運動神経が良いのである。
「そういやさ、キサ坊。今日は霞さん来てんの?」
「来てるよ。弁当持ってくるって言ってた」
「ぃよっし!!」
成美がガッツポーズ。彼は皐月の部屋に何度も遊びに来ており、霞とはそのときに何度か会っている。無論、人間に化けている時の姿にであるが。
「なんでなるちゃんが喜んでんのさ」
「だって霞さん綺麗だろ。飯も美味いしさ」
「そ、そうかな」
「なんでキサ君が喜んでんのさ」
洋一が笑った。霞が褒められて、なんだか自分のことのように嬉しくなる皐月であった。
「でも飯は分けないからな」
「マジかよ、けちくさいこと言うなって」
「さっちゃん、井上君、エド君、お疲れさま」
なんてことを言いながらテントに戻ると、赤いハチマキを首にかけた少女が一足先に居た。皐月の部屋の隣に住んでおり、幼馴染でもある千代田千歳だ。少々おとなしい部分もあるが、学年屈指の美少女である。小学校から引き続き、皐月とは同じクラスだ。
「おー、千代田もお疲れ」
成美がハチマキをほどきながらブルーシートに座る。同じ団地に住んでいるということもあって、彼らと千歳は顔見知りである。
「みんな足速かったね。羨ましいなぁ」
千歳がはにかんだ。かく言う彼女も、大人しそうな外見とは裏腹に剣道部に所属しており、運動神経は地味に良い。成績も良く、まさに文武両道である。剣道は中学から始めたので、彼女曰くまだまだ下手くそだそうだが。
「ちーちゃんはどうだった?」
人前で千歳のことを愛称で呼ぶのが少々恥ずかしかった時期もあった。今では二人が幼馴染ということが周知されており、特に何とも思わない。
「うーん、三位だった。まぁまぁ、かな?」
「ホントにまぁまぁだね」
四人は談笑しつつ、それぞれの家族のもとに座った。皐月も霞と雷電のいる場所に座る。
「はー、腹減ったー」
「おう、お疲れさん」
「暑かったじゃろう? まぁジュースでも飲むとよいぞ」
地元球団の団扇を持った霞が水筒の中身をコップに注ぐ。皐月はそれを受け取ると、一気に飲み干した。冷たいスポーツドリンクだ。生き返った心地である。
「ふー……もう一杯ちょうだい」
「はいはい。そうがっつくでないぞ」
霞はくすくすと笑いつつ、もう一度スポーツドリンクを注ぐ。今度も一気飲み。
「よっしゃ、飯だ飯。腹減っただろ」
「うん。いやホントに腹減ったよ……」
普段は二時間目が終わったぐらいで早弁していることが多いが、今日は運動会ということで早弁はできない。なので凄く腹が減っている。
霞が弁当箱を取り出した。ピクニックや運動会なんかのときに皐月、いや、弥生が小学生の頃から使っている、如月家伝統のものだ。
霞が蓋を開けてみると、中には鶏の唐揚げに玉子焼き、それにイモコロッケと皐月の好物ばかりであった。実に美味しそうである。
「じゃ、いただきまーす」
好物のコロッケを紙皿に取り、ソースをかけて一口。粗めのジャガイモが実に美味しい。
「うん、美味い」
「そうか? よかった」
霞がはにかみ、自分のおかずをいくつか取る。雷電のからかうかのような視線が少々恥ずかしい。
「キサ坊、ミートボールと唐揚げをトレードしてくれ」
「絶対嫌だ」
成美からあまりにも損な取引を持ちかけられたので、隣で食事している彼の頭をはたく。彼の隣には彼の妹がいた。五つ下らしく、重度のお兄ちゃんっ子だそうだ。彼曰く、未だに一緒に寝たがるので色々と大変らしい。そんな訳かどうか、成美の頭をはたいた皐月を睨んできているので、苦笑して視線を逸らした。最近読んだ漫画に書かれていた、君子危うきに近寄らず、なんて言葉を思い出す皐月であった。
「ところでこれ、全部霞が作ったの?」
「そうじゃな。弥生殿は『私は食べらんないから』と言っておったのう」
弥生は友人とボーリングだそうだ。まぁ、こんな場に高校生の姉に来られても恥ずかしいだけだが。
なお、霞はたまに弥生のことを冗談混じりに「義姉上」と呼んだりもする。
「姉さんらしいなぁ」
「まぁ、運動会の弁当を婆ちゃんに頼らなくてよくなったのは嬉しいな。月野からここまで来てもらうのは気が引けるよ」
弥生が中学を卒業するまでは、運動会の弁当は祖母に作ってもらっていた。祖母が住んでいる月野町から辛木市までは車で一時間弱の距離だ。祖母はウキウキで作ってくれていたが、雷電としては負い目を感じていたらしい。
「で、皐月よ。昼からは何するんだ?」
「部活紹介と部活対抗リレー。あと、学年別リレー」
「ふむ、走ってばかりじゃな」
「こいつの取り柄はそんぐらいしかないからな」
雷電の笑いを否定できないのが悲しい。なお、皐月の学力は中の上といったところで、球技の腕も人並みだ。
「いや、それだけではないぞ。皐月は……」
「ストップ、ストーップ!!」
なんだか人前で惚気られそうだったので、霞を慌てて制する。霞は少し不満げな表情を浮かべていた。
「わかってるわかってる」
雷電がからかうかのように笑った。
食事を終えると、昼休みは残り三十分。ブルーシートに横になっていると、成美が話しかけてきた。洋一は席を外している。大方あおばのところだろう。
「キサ坊、部活リレー出んの?」
「うん、出るよ。ジャンケンで負けてねぇ」
「水泳部は水着で走るんだろ?」
部活対抗リレーには「運動部はユニフォームで走る・部ゆかりの物をバトンにする」というルールがあった。例えば、野球部ならバット、バスケ部ならバスケットボール。書道部なら筆、美術部なら画板といったところだ。水泳部は水泳帽である。
「そうだねぇ」
「よっしゃ!」
成美がガッツポーズ。その理由はよくわかる。
「……水着で走るのは男子だけだから」
「嘘だろ!?」
成美が落胆。皐月は見慣れている女子の水着姿だが―さらに言えば、水泳部の女子はあまり可愛くない―、成美は楽しみだったのだろう。いや、成美だけでなく、水泳部以外の男子は。
「井上君、残念でした」
側に座っていた千歳がくすくすと笑った。
「んだよ、千代田は出んのか?」
「出るよ。……ジャンケンで負けたからだけど」
どの部もそうらしい。
「へー。剣道部は防具つけるんだろ?」
「みたいだね。さすがに面と小手はつけないけど」
「何だ、根性ねぇな」
「だってすっごく暑いんだよ!? 一回先生がキレて、防具つけて外で練習させられたことあったけど、もう死ぬかと思ったよ……」
その光景なら見たことがある。しばらくの間、グランドで練習している部活では話題になっていた。
「って、こんな時間だ。着替えてくるね」
千歳が立ち上がって、武道館のほうに歩いていった。小学生の頃に比べれば、彼女はだいぶ明るくなった。つくづくそう思う。
「そっかー。水着で走るのはキサ坊だけかー」
「いやもう、勘弁して欲しいんだけどね……」
何が悲しくて全校生徒の前で水着一枚で走らなければならないのだ。こんなルールを考えた奴を殴りたい。
「しゃーない。親父に写真撮ってもらうか」
「やめて」
皐月と成美の話を聞いていたのか、霞が鞄からカメラを取り出した。なんとも言えぬ笑顔を浮かべている。
「やめて」
霞と一緒に風呂に入ったこともあるし、着替えシーンも見られているし、皐月の裸体なら何度か見ているだろうに。
とりあえず、霞のカメラを鞄に戻す皐月であった。
そんなこんなで、昼休み後一発目に行われる部活紹介と部活対抗リレー。部活紹介は三年生がユニフォームを着てグランドを行進し、運動部と文化部からそれぞれの代表の部がトロフィーや優勝旗なんかを校長に渡す、といったものだ。今年は夏期大会で県大会出場という好成績を残した男子テニス部と、文化部のほうは書道部が代表するらしい。こちらの理由はよくわからない。
パレードが行われている間、皐月は競泳用の水着に着替えて入場門に待機していた。他にもユニフォーム姿の二年生や一年生がいる。やはりというか、水泳部男子だけ浮きすぎだ。恥ずかしいったらない。靴を履こうか悩んだが、先輩と相談した結果、裸足で走ることになった。
パレードをしている水泳部は男女ともに体操着である。男子はリレーのときだけ水着になる。
「さっちゃん、ホントに水着で走るんだね……」
剣道着姿の千歳が話しかけてきた。少々大きめな白い胴着を着ている。左袖には青い糸で「からき」と刺繍してあった。胴と垂れをつけていて、胴の色は青い。
「ホントだよ。こんなカッコしてるのウチだけだよ」
プールは運動場の隅にあり、その前に生徒のテントがある。そのため、成美や洋一、佐介といった友人連中に着替えの出待ちをされ、さんざん笑われたものだ。
「大変だね……。……えーっと、がんばって」
千歳が苦笑する。何をがんばれというのか。
「ところでそれ、試合用?」
千歳の剣道着は明らかに普段使っている様子がなかった。
「うん、そうだよ。えへへ、白胴着と青胴、初めて着ちゃった」
千歳が剣道を始めたのは中学校からで、彼女曰く補欠にも入っていないとのことだ。そのためか、試合用の胴着を着た彼女は嬉しそうだ。
「へー、カッコいいな」
「でしょ?」
千歳が嬉しそうにくるりと一回転。袴がそれに合わせてひらひらと舞った。
「でもそれ、走るときはどうするの?」
「それはこう、袴を持ち上げて。時代劇で見たことあるでしょ?」
千歳は袴のポケットに手を入れて、斜め上に持ち上げてみせる。なるほど、確かに走りやすそうになったようだ。
「部活対抗リレーに出る選手は整列してください」
アナウンスが流れたので、周りは部活毎に整列を始めた。いつまでも喋っているわけにはいかないだろう。なお、運動部と文化部は別々に走る。
「じゃ、さっちゃん、がんばろうね」
「おー。ちーちゃんもコケないようにね」
「ちょっと不安かも……」
千歳と別れて、水泳部のところに整列する。すると、二年生の先輩が話しかけてきた。
「おい如月、今の子は?」
「あ、見てたんすか。剣道部の幼馴染っすよ」
「へー。一年にあんな子いるなんて知らなかったな。可愛い子じゃんか」
「あいつ大人しいっすから」
千歳は中学生になってからだいぶ明るくなったとはいえ、それでも人見知りの気があることに変わりはない。そのせいか、容姿の割に評判は聞かない。
「一年はいいなー。レベル高くてさ」
その話は二年だけでなく、三年の先輩からも聞く。他の学年のことはよくわからないので、レベルが高いかどうかの判断はできない。
「じゃー如月、せっかくだから一位取れよ」
「いや、この後学年別リレーもあるんすから、勘弁してください」
雷電ではないが、本当に走りっぱなしである。とりあえず、水着で恥ずかしいことだし、特に賞品があるわけでもないし、運動会の結果に関わるわけでもないしで、このリレーは手を抜こうと思う皐月であった。
運動会も終盤。残すは学年別対抗リレーと騎馬戦のみ。北軍は二位のままで、残り二種目の結果次第では十分に優勝を狙える。
案の定、部活対抗リレーでは恥ずかしい思いをした。笑いは取れていたので良しとしよう。そう思わなければたまらない。
「学年別対抗リレーに出場する選手は入場門に整列してください」
いよいよ出番だ。皐月は椅子から立ち上がると、軽く伸脚をする。
「お、キサ君の出番だね」
「おー。今回ばかりは鉄人応援するなよ」
洋一に耳打ちすると、彼は苦笑で返答した。あおばは南軍であり、リレー選手に選ばれている。
まぁ、自分が同じような立場に立たされたら、こっそり彼女を応援してしまいそうだが。
整列して、選手入場。皐月は第一走者だ。なお、走順は男女男女となっている。
バトンを受け取って、スタート位置へ。順位によってスタート位置が決まっており、北軍は外側から二番目のコースだ。一緒に走るメンバーは東軍が野球部に西軍がバスケ部、南軍が陸上部と精鋭揃い。勝てる自信はないが、選ばれたからにはベストを尽くさねば。
「位置についてー」
指を地面につけて、クラウチングスタートの姿勢。ピストルはまだかな。徒競走のときよりもずっとずっと緊張する。
「よーい」
腰を上げる。その直後、ピストルが鳴った。駆け出す。スタートダッシュは上出来。あとはトラックを一周、どこまで体力が持つか。
今のところ、一位はさすがの陸上部。二位が皐月、そして、野球部、バスケ部と続く。その差は小さく、なかなかのデッドヒートだ。
最初のコーナーを抜け、裏ストレートの側には生徒のテントが並んでいる。レース展開もあってか、声援は大きかった。北軍のテント前を駆け抜けると、本当に大きな声援を受ける。なんとか期待に応えねば。
それは走者全員が同じ気持ちなようで、順位は膠着したまま裏ストレートが終わり、曲がり始める。そこには霞がいるテントがあった。
「皐月、そこじゃ!! あと一息、がんばれ!!」
霞の声がはっきりと聞こえた。なんだかそれで、凄く力が沸いてきた気がした。陸上部を抜けない距離じゃない。もっと腕を振って、地面を強く蹴る。差が少し縮まった。
コーナーを抜けると、残すは最後の直線。あと一息だ。なんとか抜く。少しでも有利な形でバトンをつなぐ。
第二走者が見えてきた。女子バレー部の古賀だ。長い手足をいっぱいに伸ばしている。
陸上部との差はほとんどない。なんとかこのままバトンを渡す。
「古賀、頼んだッ!!」
陸上部とほとんど同時にバトンを渡す。古賀がスタートしたのを見届けて、コースから離れた。疲れがどっと襲ってくる。思わず前屈して、肩で息。
「如月、速かったなー……」
同じく肩で息をしている陸上部が話しかけてきた。確かに自分の力以上のものが出た気がする。それはみんなの声援のおかげ、という思いがあるが、口に出すのは恥ずかしい。
「走んの、得意だからね……」
呼吸を整えながらサムズアップ。レース状況はほとんど変化なしだ。勝負はここからだろう。
「ホント、水泳部なのがもったいねぇよ」
陸上部に走りで誉められるのは光栄だ。皐月は自信ありげな表情を浮かべ、無言で太股を指差した。
時刻は十七時。日は暮れ始めていて、辺りは薄暗い。
結局、学年対抗リレーは、一年二位、二年三位、三年一位と好成績であり、その後の一瞬だけ東軍を抜いたのだが、最後の騎馬戦で逆転され、最終的には二位のままで終わった。応援団は悔しそうにしていたが、それは皐月も同じ気持ちだ。来年こそは優勝しよう。そう思った。
ともあれ、テントで座っていた椅子の脚を洗い、教室に運び込む。グランドは先ほどまでの歓声が嘘のように静まり返っていて、祭りの後を感じさせた。町内会のテントのみ片付けられており、残りのテントや机なんかは代休を挟んだ火曜日に片付けが行われるとのことだ。
すでに解散の号令は出ているので、帰り支度の終わった生徒から下校していく。皐月も鞄の中からジャージの下を取り出して、体操着の半ズボンの上から穿いた。今日は授業がないので体操着で登校していたのだ。
「キサ坊、帰ろうぜ」
同じような服装の成美が肩を叩いてくる。成美だけでなく、周りはみんな同じような服装だ。
「お、そうだね」
「エドワードは?」
「あー、ちょっと『用事』があるんだってさ」
解散前、洋一に一緒に帰らないか聞いてみたら、デレデレした表情で「用事がある」とのたまった。あのときはなんだかイラッとしたものだ。運動会の後、彼女と一緒に下校とはまったくもって羨ましい。
……いや、自宅に彼女が待っているなんて状況も大概か。人のことは言えない。
「あぁ、『用事』ねぇ……」
そういえば成美も洋一が付き合っていることを知っているんだった。苦笑いというか、羨ましそうな笑みを浮かべている。
ともあれ、鞄を背負い、靴に履き替えて自転車置き場へ。
「キサ坊、やっぱリレー速かったな。目立ってたぜ」
「そうかな? まぁ、みんなの声援が力になった……みたいな」
「なーにカッコつけてんだよ」
成美が笑いながら皐月の頭をはたいた。あながち嘘ではないのだが、冗談ということにしておかないと恥ずかしい。
「明日何か用事あるか?」
「いーや。部活もないよ」
「じゃー遊ぼうぜ。また明日電話するわ」
「うん、りょーかい」
なんて会話を交わしつつ、ヘルメットを被って自転車に乗る二人だった。
「それでじゃ、皐月は本当に速うて、本当に格好良かった!!」
「いや、あれは霞の応援があったから……」
「……あんたら、私が料理人なら、餃子の中に爆弾仕込んでるわよ」
外食先の中華料理屋で、弥生はそう毒づいた。
サブタイトルつけました。
まぁあれですね、運動会の思い出といえば暇なときにやってた棒倒しとか○×とか。
あと看板描いたりもしました。