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9/21

謎な喧嘩

 遥翔は夕飯まで横山さん達と一緒に済ませて、街から家の近くに着くバスの乗り場を教わり帰ってきた。

 午後6時半。

 ひどく遅いわけでもないが、14時に試合が終わってそれからなので結構長い時間遊んでいたことになる。

 家まで歩いていると、街から歩いて帰って来たのかバスにはいなかった汀(みぎわ)が後ろから声をかけてきた。

「今帰りか?何してたんだよあいつらと」

 横山さんと相澤さんは、去年のクラスメイトだ。

 サッカーが好きな子達で、試合はよく見に来てくれているので話は合う子達だった。

 しかし、少々男子に声がけすることの多い子達でもあり、その辺はちょっと遠慮したい子たちでもあったのだ。

 だからその2人と遥翔(はると)が今まで遊んでいたのは胸がざわつくし、校庭でも『悪さすんなよ』なんて言ってしまった。

「ん?プリ送ったっしょ。ゲーセンでゲームしたり、クレープ食べたりしてからハイゼリアに行ってご飯食べてきたよ。楽しい子達で飽きなかった」

 言いながらクレープの画像や、クレーンゲームで取ったものの画像を次々に見せてくる遥翔に向かって、

「何もされなかったか?」

 と、いきなりそんな言葉が出てしまった。

「え?」

「あ…いや、なんでもない」

 足早に歩き始めてしまった汀を追うように小走りになる遥翔は、

「何もってなに、俺が?女の子に?なんでよ」

 笑いながらではあるが、サッカーやってる子の早足に追いつくのはしんどい。

「ね、ちょっと…なんでそんな早足…はあ…しんどいって」

 ハッと気づいて足を止め

「わり…」

 と、やっと歩調を合わせてくれた。

「何もってなに?あの子達そんな子じゃないでしょ」

 戦利品のなんだかわからないぬいぐるみを手で揉みながら、笑ってしまう。

「女の子になんかするのはこっちじゃん普通。いやしないけどね?」

 『当たり前だ』と汀は言ってから

「あいつらはちょっと、男子に馴れ馴れしくしすぎるとこあるから…」

 着替えも持って行ったのか、今の汀の格好はパーカーに黒のジャージパンツ。それもかっこいいなあなどと見てしまう遥翔も、やっぱりちょっと今日は変だと気を引き締める。

「まあ、馴れ馴れしいって言っちゃうとそうかもしれないけど、楽しい子達じゃん。ハイゼでも話途切れなかったし、別に嫌な感じなかったよ?それでなんで怒ってる風なの、汀は」

 正直汀が何を気にしているかはわからない。それはそうだ、汀にもわからないのだから。

「あ、それ!」

 不意に汀は立ち止まり遥翔の胸に指を当ててきた。

「え、どれ?」

 指を見た後顔を見上げる。

「呼び捨て。いや、いいんだけどなんで急にそうなった?」

 中1の時、あんなの拒否った『みー君』呼びも、今となってはどうでも良くなったらしく、今回来てからはみー君はる君で呼び合っていたから、気になったのだろう。

 実際は、汀がシュート決めたときに人前だったから「みー君」と言わずに名前で呼んだだけのことだ。

 確かにシュートの時があまりにもかっこよかったから、みー君という呼称がもう似合わないなと思ったことも半分はあったのだが、今はその話はしていない。

 いま教えるのも癪だから言わないでおく。

 「でも、今はみー君だね」

 シュートのかっこよさで名前で呼んだということを知らない汀は、『どういうことだよ』と隣で首を傾げて笑っている。その笑った感じもイラっとした。

「さっきから、なんだか俺が横山さん達と出かけたのが気に入らないみたいなこと言ってるけど、どういうことなん?訳わからなすぎて、みー君子供みたいだぞ」

 少し棘のある言い方に、流石に汀も驚いた。

「なに?どうした?なんか怒ってる?」

「怒ってるっていうか呆れてる。さっきからなんなんだよ。まだ話終わってないよ。ごまかしたってだめだぞ」

 イライラしてるのはなぜだと自分に問えば『さっきからのらくら返事しないみー君にだ』

「みー君は、横山さんか相澤さん(あの2人)のどっちかに気があるの?俺が2人と出かけたから 気にいらないってこと?高野さん一生懸命アピールしてるのに知らんぷりで?」

 自分だって、女子と出かけたからってそこまで言われる筋合いもなかったし!遥翔も嫌味の一つも出てしまう。

「は?なんでそうなるんだよ。高野が出てくるのもなんで?はる君だっておかしいよ。見ず知らずの今日出会った女子と晩飯まで食ってきてさ。なんなんだよ」

 なんなんだよと言われても、別に今日会ったからってご飯食べちゃ悪いってこともないだろうし。

「だから何拗ねてんだって訊いてるんだよ。みー君があの2人のどっちかに気があるんだったら、悪かったなって思うだろ普通。でも高野さんは、側から見ててもみー君しか見てないって判るのに、気づかないみー君鈍感なんじゃないの?横山さんか相澤さんのどっちかが好きなら、高野さんにもちゃんとその意思表示しなよ」

 普段なら言わない言葉がどんどん溢れてきて、びっくりしているのは遥翔本人だ。

「はあああああ?俺があいつらに気があるとかそんなんあるわけないじゃん!高野も別になんとも思ってねえよ!はる君こそほんとは今日なんかあったんじゃねえの?気にしてておかしい」

「はあ?なんかってなんだよ!言ってみろよ!なんかってなんなんだよ!」

「チュウポーズとかさ!初対面でするか?何考えてんだよ」

「本当にしてんじゃないってわかるだろ!汀こそ何言ってんの?」

 そこから汀はダンマリだ。

 色々自分でも訳のわからない気持ちが言葉になって出て来てしまって、今の汀の頭は大混乱中だ。

 それは遥翔も同じなのだが、黙っている汀に益々イライラが募ってきた。

「高野さんもさー、かわいそうだな!こんな鈍感男に思いを寄せてて!しかもなんとも思ってないって、あーーかわいそう!!」

 こっちもこっちでなんだか責める言葉しか出てこない自分に、少々苛立っている。

 道路の側(はた)で大喧嘩を始めてしまった2人だが、内容はとてもくだらない。

 内心変な喧嘩だとお互い思いながらも止まらなくて、それがなんでなのかはわからずに、口が攻撃をしてしまう。

 こんなことが言いたい訳じゃないんだけど、の気持ちのまま……。

「俺ははる君心配しただけなのに!」

 汀なりになんとかまとめようとして出た言葉だったが、

「だから、女の子と出かけた俺がなんで心配なんだって。それとも俺が女の子にホイホイついて行く男だからって心配してるの?」

「そうじゃなくて!」

「俺は、高野さんにその気もないのにデレデレしてるみーくんの方がある意味心配だよ!」

 誤解を解こうと言い募ろうとした矢先にそう言われ、汀もカチンときた。

「デレデレって…俺そんなつもり全くねえし!なんだよさっきから!」

 睨み合って一歩も引かない態勢だが、ふと我にかえる。

 自分らは何を言い合っているのか……。

 が、ここで引けないのがこの年代。

「もういい!先に帰る!」

「帰れよ!どうせ俺じゃあ早さに追いつけませんからね!」

 ちっと舌打ちなんかもして汀は今度こそ早歩きのような速度で歩き出し、遥翔はその場で腕を組んで背中も見ずに横を向いていた。 


 そのまま各々の家に戻った二人は、汀は憤然と夕飯を貪り、遥翔は祖父母に一応連絡はしたが夕飯を食べなかったことを謝ってお風呂へと向かった。

 まださっきの喧嘩が気持ち的には尾を引いてはいたが、湯船に浸かってゆったりしてみると、なんであんなに腹が立ったのか、と疑問がわくし汀の怒り方もなんだか訳がわからなかった。

 しかし自分が苛立っていたのは、今日連れ立って歩いていた女の子とのことを疑われたことでもなく、そして高野さんというマネージャーの気持ちを汀がわかってないということでもなかった。

 高野さんという女の子が堂々と汀に近づいて、世話を焼いたりしていることへの羨望であることには、遥翔は気づいていた。

 湯船に顔をつけて、抱えた膝に額を乗せる。

 息が苦しくなって顔を上げて、もう一度…とそれを5回繰り返して、漸く顔を上げて今度は壁の上部にある電気を見つめた。

 前々から思ってはいたことだったが、もしかしたら自分は汀が好きなんじゃないかな…と漠然と理解し始める。

「これは…まずいぞ…」

 受験期に一緒にいたクラスの女子も、きっと今回の高野さんみたいに自分に好意があったのかもしれないとは薄々感じてはいたけれど、なんだかその気になれないまま有耶無耶にしていたら、遥翔が早めに合格が決まった時点で離れて行ってしまった。

 それが嫌とか寂しいとか思わなかった自分もなんだか変だなとは思っていた。

「でも、友達が持ってくるエロ本は好きだけどな…」

 クラスメイトが持って来ていた雑誌等を見ても、普通に反応するし…と基準はそこか?みたいなところで自分をチェックする。

「ん~~~~」

 今度は口まで湯船に潜らせてみた。

ーみー君、かっこよく成長しすぎなんだよ…ー

 多少汀(ひと)のせいにしたにせよ、これは絶対に隠さなくてはいけない感情だ…。

 しばらく湯船に口を沈ませていたが、色々考える。

 きっと一過性のものだとは思う。そんな気になっちゃうこともあるとは聞いたことあるしな…何かに代替しないと…

そうやって考えた挙句一つ結論を出した。

 この気持ちは汀のことはずっと弟と思ってた自分に代わり、別に面倒見そうな人間が現れたことへの嫉妬なのだ!と。

 そう思えば、納得もいくし、気持ちも楽だ。

「うんうん、俺の嫉妬はそういう嫉妬か…うん、それで行こう」

 そう呟いて、汀のことは好きだけれど一過性だから恋愛ではないと自分に思い込ませて、どこかモヤる心の場所は密かに仕舞っておくことにした。

ーお風呂上がったら、謝ろう…LIMEで…ー

 今はまだ面と向かって謝れると思えないから、取り敢えずメッセージで謝ろうと思った。

 まだあと10日ここにいる。

 楽しく過ごしたいからそうすることにした。


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