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再再会とモヤる気持ち

 一方汀の方は

「え…えええ~?」

 去ってゆく車を見送って、暫く凝視してしまう。

「はる君はいつも急だなあ…」

 顔を見て一年前のキス事件を思い出してしまい、叫びたい気持ちを抑えて家に向かう足が自然早くなった。

「どうしよう、うちに来るって言ってた。ん…でももう1年半も前のことだしな…はる君は気付いてないし、自然でいよう。うん、自然で。大丈夫大丈夫」

 そう言い聞かせるように呟きながら歩く足は一層早くなり、家に戻った瞬間そのままお風呂場に向かいシャワーを浴びる。

「え?俺何してんの?」

 部活があったわけでもなく、取り立ててすぐにシャワーを浴びるようなこともないのに。

「なんであんた急にシャワってるの?」

 笙子が浴室の外から声をかけてきた。

「え?わかんね」

「何よそれ」

 変なの、と笑いながら笙子は去っていくが、本当になんでだろう…などと考えながらシャンプーを手に取る。

「ま、まあはる君がきたら、積もる話もあるから風呂が遅くなるだろうなって俺は思ったんだ、うん」

 自分でも訳のわからない言い訳をして、汀はシャンプーで髪をワシワシ洗いはじめた。

 しかし、今回はやはり自分から行った方がいいかもしれない、と思いたつ。

 なんせあちらは人目があるから、少し安心だった。この家だと笙子がいらん気を遣って絶対に部屋に通してくる。

 そんなことになったら…自室で2人きりになんてなったらまたなんかやらかしそうで怖かった。

 今まででやっと薄れたのに、昼間あっただけでボンッと甦ってしまった記憶。柔らかく、ガリガリ君のソーダ味がした唇。

「う~~~~」

 もう何分も髪をガシガシやっていて、いい加減地肌が痛くなってきた。

「あれ、いってえ」

 思わず指を見てしまい、血が出ていないのに安心した。

 ともかく、飯食ったらお隣にGOだ。

 意気込んでシャワーでシャンプーを流そうとした瞬間

「いてててっ」

 やはり地肌は傷んでいたようだった。


「こんばんは~。いまいいですか~?」

 いつも汀は縁側からやってくる。

 だからそこから声がしたら汀だとは思いはしたが、遥翔は聞きなれない声に少し戸惑った。

 知っている汀の声はこんな声だっただろうか。

 廊下に向かってカーテンを開けた時、本当に汀で声変わりにドギマギした。

「今行こうって話してたんだよ。なんだよ、俺行ったのに~」

「いやいや、せっかく帰ってきてる人を来させるわけにはね~」

 声に驚いたのは何とか隠して汀を招き入れるが、もっとびっくりしたのは

 廊下に並んで立った時、汀の身長が自分より高かったこと。

 自分176cmあるのに?俺よりでかいの?

「みーくん!でっか!」

「そうなんだよ。去年辺りから急に伸び始めてさ、関節いてーのよこれ」

 肩を軽く回しながら苦笑い。

「身長も俺超えるし、変わった声も俺より低いのはなんだか悔しいなあ…。やっぱりスポーツは大事だな…高校行ったらなんかやろうかなぁ」

 1歳上なのに、身長を抜かれたことは少しショックだ。

「背はいずれにしろ、運動と声は関係なくねえ?はる君だって前会った時より背も伸びてるし、声も少しは低くなってるよ」

 ー慰められたって嬉しくないよ…ー

 そう言いながら、縁側になる廊下に座って話すのがいつもなので座布団を持って来てくれた頼子に礼を言って、2人腰を下ろした。

「はる君どんくらい?十分だと思うけど」

「176かな。まあ測ったのは去年の10月頃だったけど、もう止まったんじゃないかな」

「十分じゃん?俺はいま181かな。友達とふざけて昨日測ったばっか。最新情報」

 ニヤッとしてピースをする。

「181!?まだ中学生なのに!生意気だー」

 右手で汀の腕を押し返して遥翔は悔しそうだ。

 お互いーなんだ普通に話せるじゃんーとホッとしていた。

「はい、いちご。みーくんも食べな」

 食後に再びイチゴが登場

「このいちご、ほんと美味しいよね」

 ガラスの器に入ってきたのを見て、遥翔が一つフォークに刺した。

「これって“もっともっと”でしょ?美味しいんっすよね」

 さすが地元の子。地元産のイチゴは把握している。

「”もっともっと“っていちごの名前?」

 フォークに刺したイチゴを見つめてー変な名前だねーと遥翔がつぶやいた。

「もっとくれもっとくれってなるくらい美味しいってことみたいだよ」

 モゴモゴしながら汀が教えてくれた。

「あ~そう言う…確かにもっと欲しくなる味だよね。酸味と甘さが絶妙!」

 『なにを食レポみたいなこと言ってんだよ』と汀に言われて

「素直な感想ですぅ~」

 と一個汀の口に押し込んでやった。

「うん、美味い」

 などといじわるした甲斐のない返事に再び遥翔も笑ってしまった。

 暫くはいちごの話や、受験の話などで盛り上がっていたが、遥翔はふと思い立ち汀に向き直る。

「ねえみーくん、前回来た時にさ最後の日に俺寝ちゃってごめんね」

 そこを謝られて、汀の最後のイチゴを噛む口が止まる。

「え?なんで謝るんだよ。何も気にしてないよ、そこは…」

 言ってから、しまったと思ったがやはりそこを突かれることに。

「そこはって…やっぱり俺、なんかやっちゃった?だったらほんとごめん。次ぎの日も、何も言わないで来なかったから、怒ってるのかなって思っててさ。一年半謝りたかったけど…俺何した?」

 向けた体を正座にして、遥翔は言い募ってくるがそうこられると困るのは汀の方だ。

「い、いや言葉のあや。俺こそ次の日急な部活で見送れなかったじゃん?俺はそこを謝りたいなって思ってたよ。寝ちゃったことなんか気にしてないって。そしてはる君はなにも悪い事してないよ」

 だから正座やめて、と足を崩させて『うまく誤魔化せたかな…』と様子伺い。

「そう?ならいいんだけどね。ずっと気にしてたから俺。謝るにも連絡…そうそう、俺達LIME交換してなかったんだよね。今しよう。忘れないうちに」

 遥翔は居間のテーブルに置いていたスマホを取りに戻った。

「そういえばそうだったな~」

 汀もスエットのポケットからスマホを取り出し、連絡先を交換しあう。

「これで普段も話できるね。今回みたいに会うまで考え込まなくてもいいし」

「そんなに考えてたのかよ。気にしすぎ」

 はる君はやられた方なのに…とは口が裂けても言えない。

「ところでいつまでいるの?俺明後日から春休みだけど」

「3月いっぱいいようかなって思ってる。4月に入ったらもう課題出ててさ…入学前からしんどいわー」

 それを聞いていた祖父も

「12日くらいいるんだな、嬉しいねえ。次はまた来るまで長そうだからゆっくりしてきなさい。勉強も大変そうだしな」

 と、喜んでくれていた。

「じゃあ俺の試合も見にきてよ。今回は3年になるからだいぶ上手くなったし。卒業した先輩と試合するんだよ。毎年恒例なんだ」

 いちごのフォークを、食べ終わった器に置いて今度は汀が遥翔に向き直る。

「ほんと?いいの?見にいくいく!予定教えて」

「今度の土曜の…」

 スマホに予定を入れ込みながら、2人は変なわだかまりもなくなり元の仲のいい幼馴染に戻っていた。


 土曜日は快晴だった。

 春らしく、暑くもなく寒くもない日で見ている遥翔もコートの下は軽装で十分である。

 汀の学校に来たのは初めてで、笙子が送ってくれて校庭を教えてくれはしたのだが笙子はパートがあると帰ってしまった。

 誰も知ってる人がいない中で、多少心細くはあったが遥翔は校庭を隔てる金網の最前列で観戦を始めた。

 暫くは練習風景を眺めながら、手足も長く育った汀を見つけて『普段のみーくんじゃないみたいだ』などと、何故か誇らしそうな気持ちでいた。

 181cmの身長は誰よりも高く、探さずともすぐに目に入る。

 ホイッスルが鳴り、選手たちがセンターライン上に並ぶ。

 新3年と2年生混合在校生チームと元3年生卒業生チーム。

 周りから

「サッカー部元3年は、県大会決勝まで行ったしな」

 とか、

「あの先輩キーパーは、6校もスカウト来たっていってたぞ」

 などと様々な情報が入り、観戦するにはいい席だなあと遥翔はしみじみと校庭を見つめた。

 『と言うことは、汀たち後輩には先輩チームって強敵ってことなんだな』

 情報を総合してそう推察し、遥翔はグーを握って『がんばれ!』と小さな声でエールを送る。

 丁度センターラインの延長上で観戦できた遥翔は、金網を掴んで試合に没頭した。

 在校生チームも、ずっと見てきた先輩だからか抑えるところもわかっている感じで、先輩チームも結構手こずっているようだ。

 それでも前半の15分には先輩チームに1点取られてしまい、在校生チームは気持ちも新たに攻め入る時間も多くなっていく。

「いけっいけーっ!あーーーっ惜しい!」

 遥翔からもついそんな声も出てしまう程の白熱した試合で、前半は1-0で折り返すことになった。

 ベンチに引き上げた各チームは各々の飲み物を飲んだり、今回は監督が審判役なので選手同士で後半の攻め方でも話しているのか、お互いが話し込んだりしている。

 そんな中、汀の元へ1人の女子がタオルを持って駆け寄っていくのが見えた。

 他に2名女子がタオルを配っていて、マネージャーの子なのだろうが、汀に持って行った子は汀にだけタオルを渡しているように見える。

 周りの選手もそれを不思議と思わず、ニヤニヤとそれを見つめていた。

 遥翔の胸がツキンと痛んだ。

 『え?なんだろ?』

 タオルを受け取って苦笑いの汀と、恥ずかしそうな女の子。その2人を冷やかすような周りの仲間達。

 普通に見れば彼女かな?で済むのに、遥翔の胸はなんでかモヤモヤとなっておちつかない。

「高野って、本庄の専属マネージャーみたいだよね」

 隣に座っていた女子が、そんな話をし始めた。

「だって、本庄目当てでマネージャーになったんでしょ?あの子」

 どうやらあの女の子は高野さんと言うらしい。髪を後ろで高めに結った、目の大きい可愛らしい子だ。

「へえ…みーくん彼女いたんだ」

 小さくそう呟いてみる。

 なんだか胸がもっとモヤモヤした。なんでかな。と思う。


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