深夜の忘れ物センター
**『忘れ物センター』**へようこそ。
「失くしたものを取りに来たはずなのに、そこにあったのは今自分が手にしているものばかりだった――」
日常の隙間に潜む奇妙な違和感と、静かな悪寒を描いたショートショートです。もし自分の「所有物」がすべて手元と引き換えにそこに並べられているとしたら、今あなた自身が失ってしまったものは一体何でしょうか。
ぜひ、主人公と一緒にこの不気味な謎の先を覗いてみてください。
シャッターの下りかけた窓口の奥で、ぼんやりと明かりが灯っている。
カウンターの小さなベルを鳴らすと、奥から静かに影のような係員が現れた。
しかし、忘れ物センターにあったのは僕がなくしたものではなく、僕が持っているものばかりだった。
ポケットに入っているはずの家の鍵、手首に巻かれている腕時計、そして今朝確かにかばんへ入れた文庫本。受付の棚には、僕の「所有物」が寸分違わず並べられている。
「お客様、どれかお引き取りですか?」
職員の淡々とした声にハッと息をのんだ。僕が今日失くしたのは、一体何だったのだろうか。自分の持ち物がすべてそこにあるという事実は、僕自身がどこかに置き去りにされてしまったような、奇妙な悪寒を背中に走らせた。
『忘れ物センター』あとがき
「物」に囲まれて生きる私たちが、もし最後まで手放せないものだけを残して自分自身を忘れてしまったら――そんなふとした日常の怖さから生まれた物語です。
断捨離やミニマリズムが広まる現代ですが、私たちが本当に失いたくないものは、手で触れられる「所有物」ではなく、目に見えない「記憶」や「時間」なのかもしれません。
手元にある物たちの重みを感じながら、少しだけゾッとするような余韻を楽しんでいただけたなら幸いです。
御一読ありがとうございました




