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タイムリープするお嬢様――二度目の婚約破棄はもう遅い。あなたが破滅する始まりです  作者: 御咲花 すゆ花
2話 クラリス・レーヴェル

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7 逆転の共犯者

 気がづけば、クラリスは会場の外にいた。

 いつどうやって、会場から離れたのか。いまひとつ思い出せない。


「……」


 動く気力なんてないのに足が勝手に動く。

 人目を避けるように、そして逃げるように。


「……。うっ」


 喉の奥が詰まった。

 けれど、涙は出ない。

 泣きたいのに、うまく泣くことさえできなかった。

 頭の中で、だれのものかもわからない声がくり返された。

 盗人。

 恥知らず。

 失望した。


「……」


 全部否定したかった。

 違うと言いたかった。

 それなのに、あの場では証明することができなかった。

 自分が拠り所とすべき道具は、すべてエミリアのものになっていた。

 書き換えられた記録と整えられた証言。

 そんなものを用意されてしまっては、どれだけ言葉を尽くしても即座に覆せるわけがない。


「……どうして」


 同じ言葉が、また口から零れた。

 だれよりも努力した。

 それだけは、確かだったはずなのに、どこを間違えてしまったのだろう。


「その結末、もう一度味わいたいとは思いませんわよね」


 不意に、力なく歩くクラリスに声がかかった。


「……え?」


 顔を上げる。

 そこに立っていたのは、1人の娘だ。

 月明かりに照らされた、整った横顔。

 上品なドレス。

 揺れる金の髪。

 令嬢だとすぐにわかった。

 その顔にも見覚えがある。


「……。キャサリン、公爵令嬢?」


 思わず、その名前を口にしていた。

 社交界でも名高い存在。

 けれど、こうして直接言葉を交わしたことはまだなかった気がする。


「お見事でしたわね」


 クラリスを見たキャサリンが、くすりと笑った。


「……?」


 言わんとする言葉の意味がわからず、クラリスは呆然とキャサリンを見つめ返す。


「見事に、すべてを奪われて」


 言葉が胸に突き刺さった。


「……っ。わざわざ、そんなことを言いに来たのですか?」


 かすれた声で、どうにか返事を絞り出す。

 もう十分だ。

 聞きたくない。

 これ以上どうして自分が責められなければいけないのか。

 だが、キャサリンはゆっくりと首を横に振っていた。


「いいえ。むしろ、その逆ですわ」


 キャサリンが動いたぶんだけ、彼我の距離が近づく。

 その瞳はどこまでも静かで、そして何かこの世のものではないものを見通しているようだった。


「逆……?」

「ええ、そうですわ。あなた、やり直したいのでしょう?」


 心の中を見透かされた気がした。


「やり直す? 何を馬鹿な……」

「素直になって」


 迷いのない即答。

 キャサリンの真っ白な指が、なぞるようにクラリスの頬に触れた。

 怪しげなその動きに、クラリスが息を呑む。

 それに構わず、キャサリンが淡々と話をつづけた。


「奪われたもの、失ったものを取り返すのです」

「……」

「本来、あなたのものだった全部をね」

「……そんなこと」


 できるわけがない。

 そう言いかけて、でも言葉が止まった。

 相手は公爵令嬢なのだ。

 底意地の悪い冗談を言うためだけに、自分のもとへ来たとはどうしても思えなかった。


「……」


 できるのだろうか。

 目の前のキャサリンが言うように、本当に取り戻すことなんて。


「できますわよ」


 胸中の疑問に、あっさりとキャサリンが断言する。


「もし、もしも……もう一度機会があるならば――」


 言葉を遮るように、キャサリンがクラリスの唇にしーっと人差し指をあてた。

 キャサリンが薄く微笑む。


「ただし、同じやり方は少々無謀ですわね」

「……同じやり方?」


 キャサリンの視線が、まっすぐにクラリスを射抜く。


「ええ、そうです。あなたは正面から戦い、そして証明しようとした。それでは勝てません」

「……」

「相手は最初から、あなたを打ち負かすために準備を整えているのですから」

「じゃあ、どうすれば……」


 すがるような問い。

 こんな根拠もない話に飛びつくなんて、どうかしていると自分でも思う。

 だが、クラリスに迷いはなかった。

 満足げに、キャサリンの目元が細められる。


「同じ土俵に乗る必要はないのです。奪われる前に、奪わせましょう」


 意味がよくわからない。

 けれど、その言葉には妙な説得力があった。

 その後もキャサリンの説明はつづいていく。


「相手が失敗するように導くのです」


 それはあまりにも冷静で、あまりにも計算された考えだった。

 キャサリンがどうして自分に手を貸してくれるのかはわからない。それに、どうやってやり直すのかも。


 だが、クラリスはその手を握っていた。

 唇を噛みしめ、震える指でしっかりとキャサリンの手を取る。


「お願いします……私に力を貸してください!」

「もちろんですわ。始めましょうか」


 その笑みは優雅で、ほんの少しだけ、悪役のような美しさを持っていた。

 コメントまでは望みませんので、お手数ですが、評価をいただけますと幸いです。この後書きは各話で共通しておりますので、以降はお読みにならなくても大丈夫です(臨時の連絡は前書きで行います)。

 次回作へのモチベーションアップにもつながりますので、なにとぞよろしくお願いいたします。(*・ω・)*_ _)ペコリ

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