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タイムリープするお嬢様――二度目の婚約破棄はもう遅い。あなたが破滅する始まりです  作者: 御咲花 すゆ花
2話 クラリス・レーヴェル

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8/30

6 奪う妹、奪われる姉

5話でやめようと思っていましたが、閃いたのでつづけます。

 その日はすべてが報われるはずだった。

 これまでの涙。

 積み重ねた努力。

 研鑽の日々。

 王立魔導研究院――その発表会場は、かつてないほどの熱気に包まれていた。

 貴族、研究者、王宮関係者。

 錚々たる顔ぶれが集う中、壇上の中央に立つ一人の少女は、みなの期待の視線を一身に浴びていた。


「本日はお集まりいただき、誠にありがとうございます」


 澄んだ声が会場に響く。

 クラリス・レーヴェル。

 伯爵家の長女でありながら、長年にわたり魔導研究に打ち込んできた努力家だ。

 そして今日、彼女はついにその成果を発表する。


「……。ここまで来たのね」


 独り言ちたつぶやきは、マイクに乗っていないためだれにも届かない。

 胸の奥で静かに思ったに等しかった。


「……」


 だれよりも早く起き、そしてだれよりも遅くまで机に向かった。

 才能はなかった。

 そのぶんだけ必死にやった。

 理解されず、笑われたことも一度や二度ではない。

 それでも諦めなかったのは、認めてほしかったからだ。

 自分の力を。

 自分の努力を。

 クラリスの視線が、客席の一角へと向く。

 そこには誇らしげに腕を組む婚約者ケヴィンの姿がった。

 今日こそは……。

 言葉には出さず、クラリスは小さく息を整える。


「それではこれより――」

「お待ちください」


 発表を始めようとした瞬間に、凛とした声が空気を切り裂いた。

 ざわりと会場が揺れる。

 何事かと振り返る。

 そこに立っていたのは、自分の妹だった。


「……。エ、エミリア?」


 訳がわからない。

 困惑気味にクラリスが名前を呼ぶ。

 今がどれほど大事な場面か、それがわからない妹ではないだろうに。

 クラリスのことなど気にせず、エミリアは薄い笑みを浮かべて、ゆっくりと壇上へと歩み寄って来る。


「お姉様。その発表は、代わりに私が行いますわ」

「……。……え?」


 一瞬、意味が理解できなかった。


「どういう、こと……?」

「そのままの意味です」


 エミリアはにこやかに微笑む。


「だって、その研究は、もともと私のものですから」


 静寂。

 不自然な沈黙が会場を包む。

 だが、次の瞬間にはざわめきが爆発していた。


「な、何を言っているの……?」


 かすれる声で、クラリスが問い返す。

 冗談だと、そう言ってほしかった。

 出来の悪いジョークだ、と。

 しかし、クラリスの期待は鮮やかに裏切られる。


「お姉様こそ、人の研究データを勝手に盗むのはやめていただきたいものですわね」

「研究を盗む? 私が?」

「ええ、そうです。証拠もございますわ」


 差し出されたのは、分厚い研究記録。

 見覚えのある紙束だった。

 しかし、その表紙に記されてあるはずの名前は、自分のものではない。


「エミリア・レーヴェルと、ここにちゃんと書いてあるでしょう?」


 ぐらりと、視界が大きく揺れた。

 立っていられない。


「それ……私の」

「お戯れを」


 クラリスの言葉は、ぴしゃりと遮られる。


「これは最初から、私が進めていた研究ですわ」

「そんな、はず……!」


 否定しようとして、でもうまく言葉が出て来なかった。

 悪夢なら早く覚めてほしかった。

 エミリアの手で、ページがめくられる。

 そこに並ぶのは、どれも記憶にある内容だ。

 しかし、その細部は微妙に書き換えられてある。

 日付。

 署名。

 記録の順序。

 すべてが、エミリアに都合のいい形へと改竄されていた。


「ご覧の通りです」


 吐き気がした。

 口元に手をやる姉のことなど微塵も気にせず、エミリアは堂々と言い放つ。


「お姉様は私の研究を盗んだのです」


 どよめきが、さらに広がる。


「違……私じゃ」

「家族のすることだと大目に見ておりましたが、手柄を横取りされたんじゃ叶いません。ここからは、本来の研究者である私が発表をつづけましょう」


 どれだけクラリスが弁明しようとも、もはや彼女の言葉は届かない。

 会場は完全に妹であるエミリアに支配されてしまっていた。


「まさか……」

「姉が妹の成果を……?」

「嘆かわしいですな」

「クラリス嬢には期待していたんですがね、がっかりです」


 突き刺さる視線。

 疑念と軽蔑が混ざった空気に気圧されてしまって、クラリスは本来の力を発揮できなかった。


「違う……違うのよ……!」


 必死に声を上げる。


「それは私が……ずっと……」

「見苦しいぞ、クラリス」


 言葉を遮ったのは、低く冷たい声。

 聞き覚えしかない声に、ゆっくりとクラリスが顔を上げる。

 婚約者のケヴィンだった。


「あなた……まで?」


 自分を信じてくれないのかと、絶望的なまなざしをクラリスは向けていた。


「証拠は揃っている」


 彼はため息混じりに言う。


「エミリア嬢の記録、そして複数の証言。これ以上どうやって申し開きをするつもりだ?」

「でも……私は……!」

「もういい。失望した」


 はっきりと、言い捨てられた。

 その一言は、クラリスの胸を深くえぐる。

 とどめを刺すには十分な一言だった。


「努力家だと思っていたが……他人の成果に手を出すとはな」

「そうじゃないの……お願い、信じて」


 自分はいったいだれのために頑張っていたのか。

 だれに認められたくて努力していたのか。

 だれに褒められたかったのか。

 ケヴィンその人ではなかったのか。

 すべてを見失いそうだった。

 自分に冷ややかな視線を向けたまま、男が一歩前へと踏み出す。


「このような不正を働く者を、我が家に迎えることはできないな」


 冷酷な宣告。

 これ以上ないほどの絶望が、クラリスを襲った。


「ここにクラリス・レーヴェル、お前との婚約を破棄することを宣言する」


 音が消えた。

 何も聞こえない。

 何も感じない。

 ただ、不吉な言葉だけが頭の中を何度もなんども反響した。


「どうして……」


 幸せな未来を待っていた。

 笑顔に満ちた生活が来ると信じて疑わなかった。

 それなのに、これでは正反対ではないか。

 視界がじわりと歪む。


「本当によろしかったんですの?」


 エミリアの手が、なまめかしくケヴィンの腕にそっと触れた。


「ああ。問題ない」


 ケヴィンもまた自然な仕草でそれに応える。

 まるで最初から、そうであったかのように。

 ……ああ。

 理解してしまう。

 嫌でもわかってしまった。

 最初からこれは決まっていたことなのだと。

 努力も時間も何もかも、この日自分から奪うために計画していたことなのだと。


「……どうして」


 ぽつりと言葉が零れる。

 その問いは、だれに向けたものなのかもわからない。

 返って来る答えはない。

 ただ勝ち誇ったように、エミリアがクラリスを見て笑っていた。


「やだやだ、見苦しいですわね」

「情けないですわ」

「恥ずかしい……」

「伯爵の娘ともあろう者が」


 すべてを失ったクラリスに、冷たい言葉だけが降り注ぐ。

 会場にいただれ一人として、クラリスに味方はいない。

 その中でただ2人、別の見方をする人物がいた。

 1人は娘。

 もう1人はその侍女である。


「いかがでしたか、お嬢様」

「ええ。助かったわ、エマ」

「いえいえ。たまたまちょうど妙な噂を耳にしたものですから」

「どちらにしろ、上出来よ。さあ、始めましょうか」


 キャサリン・エルフェルトが不敵に微笑んだ。


 ――二度目の婚約破棄はもう遅い。あなたが破滅する始まりです。

 コメントまでは望みませんので、お手数ですが、評価をいただけますと幸いです。この後書きは各話で共通しておりますので、以降はお読みにならなくても大丈夫です(臨時の連絡は前書きで行います)。

 次回作へのモチベーションアップにもつながりますので、なにとぞよろしくお願いいたします。(*・ω・)*_ _)ペコリ

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