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タイムリープするお嬢様――二度目の婚約破棄はもう遅い。あなたが破滅する始まりです  作者: 御咲花 すゆ花
1話 キャサリン・エルフェルト

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7/31

蛇足 主の勝利は、最初から決まっていた

 お嬢様が、目を覚まされたあの朝。

 私はいつも通り、紅茶を用意して部屋を訪れた。


「お嬢様、よろしいですか?」


 返ってきた声は、いつもと同じ。

 けれど、どこが違うことを私は確かに感じていた。

 気配。

 あるいは雰囲気とでも呼ぶきか。

 うまく形容することができないが、異質な何かを私は感じ取ったのだ。

 それは扉を開けた瞬間、確信へと変わった。

 そこにいらっしゃるのは、これまでのキャサリン様ではないと、侍女としての本能がそう告げていた。

 視線。

 立ち居振る舞い。

 空気。

 目に見えてわかる差異は、ほんのわずかなものだが、これを見誤るようではお嬢様の侍女など務められない。


「舞踏会は、7日後で間違いないわね?」


 最初の問いで、私は理解した。

 これから何かが起こるのだ、と。

 そしてそのことをお嬢様が承知していることも。


「その通りでございます、お嬢様」


 それならば私から問うことは何もない。

 これまでと同じだ。

 お嬢様が語らないのであれば、そこにははっきりとした理由がある。

 気を揉むことに意味はない。

 私の役目は今までと変わらない。

 お嬢様をお支えすること。

 それだけだ。




✿✿✿❀✿✿✿




「ここ数日でジェームズ様や……ミレイユ嬢が、どんな動きをしているのか。調べてちょうだい」


 そう命じられたその日から、私はすぐに動きだしていた。

 情報は足で稼ぐものだ。

 そして人で稼ぐものでもある。


「久しいですね、マルク」


 王宮の裏手。

 人気のない回廊で、1人の男に声をかけた。


「……。エマか? 珍しいな、こんなところに」


 振り返ったのは下級役人。

 表向きはただの事務方。

 だが、情報の流れには聡い男だった。


「少々、伺いたいことが……」


 声を落として私は話す。

 それを聞くにつき、ただ事ではないとマルクも姿勢を正した。


「内容によるな」

「書記官の動きです」


 ぴくり。

 マルクの表情がわずかに曇る。


「……。穏やかじゃないな」

「ええ。ですが、報酬は弾みますよ」


 努めてにこやかに私は言った。


「……」


 短い沈黙。

 そして、観念したようにマルクがため息をついた。


「どこまで知りたいんだ?」


 取引が成立した。




✿✿✿❀✿✿✿




 数時間後。

 私の手元には、十分すぎるほどの情報が揃っていた。


「……やはりですか」


 グレイソン書記官。

 最近の不審な金の動き。

 頻繁な外出。

 何よりも、男爵家との接触が決定的だった。


「わかりやすい方々で助かりました」


 これほど露骨であれば、たどるのは容易いでしょう。

 問題は、得られた情報をどう使うか。

 証拠はただ集めればいいというものではない。

 出すタイミング。

 組み合わせ。

 見せ方。

 それらすべてが揃って、初めて意味を持つ。効果的になる。


「……。お嬢様なら、どうなさるでしょうね」


 考えるまでもないのかもしれない。

 あの方は、すでに戦場を見据えていらっしゃる。

 ならば私は、その盤面を少しだけ整えるだけでいい。




✿✿✿❀✿✿✿




 ほどなくして私は、お嬢様から一通の手紙を預かっていた。


「これを例の書記官へ」

「……承知いたしました」


 内容は確かめない。

 しかし、その意図だけは私にもはっきりと理解できた。

 これは罠だ。

 確実に獲物を仕留めるための猛毒だった。




✿✿✿❀✿✿✿




 舞踏会当日。

 私はお嬢様の後ろに控えていた。

 きっとすべてお嬢様の予定どおりに運んでいるのだろう。

 お嬢様は一切の迷いなく、この場を支配していく。

 言葉一つ。

 視線一つ。

 それら全部が計算され尽くされたかのようだった。


 ――お見事です。


 思わず、内心で感嘆した。

 グレイソン書記官が崩れた瞬間、私はお嬢様に祝福を挙げていた。

 そうして、全部が終わったあと、バルコニーで夜空を見上げるお嬢様の背中を、私は少し離れた場所から見守った。


 風に揺れるドレス。

 静かな横顔。

 そこにはもう、かつての面影は一切なかった。

 お嬢様は新しいステージに向かわれたのだ。

 最初からわかっていた。

 初めてお仕えしたときからずっと、この方はだれにも負けはしないと感じていた。

 たとえ一度は敗れたとしても、必ず立ちあがる方だと私は信じていた。


「お嬢様」


 静かに声をかける。


「どうしたの、エマ?」


 振り返ったお嬢様の表情は、とても穏やかだった。


「お見事でございました」


 短く告げる。

 それ以上の言葉は余計だろう。

 お嬢様は一瞬だけ目を細め、そしてふっと口元を緩ませた。


「ありがとう」


 私は深く一礼する。

 この方に仕えていることを、私は誇らしく思った。

 これからも、たとえこの先にどのような未来が待ち受けていようとも、私は変わらずにお嬢様のそばに立ちつづけるだろう。


 主の勝利を疑うことなど、一度もなかったのだから。

 コメントまでは望みませんので、お手数ですが、評価をいただけますと幸いです。この後書きは各話で共通しておりますので、以降はお読みにならなくても大丈夫です(臨時の連絡は前書きで行います)。

 次回作へのモチベーションアップにもつながりますので、なにとぞよろしくお願いいたします。(*・ω・)*_ _)ペコリ

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