27 発表の当日
発表当日の朝、リディアは診療所に寄った。
習慣だからという理由だけではない。
今日という日を前にして、もう一度、子供たちの顔を見ておきたかったのだ。
「……」
少年カイムのベッドの前。
椅子を引いて、リディアはしゃがみこむ。
顔色は、先週より少しだけいい気がした。
「今日、発表があるの」
リディアが声をかけると、カイムは目を丸くした。
「もう完成したのか?」
「ホントはあと少し……なんだけどね」
正直に答えた。
嘘をつくつもりはない。
「でも、必ず完成させるわ。約束する」
カイムがゆっくりとうなずく。
その顔がリディアの胸に深く刻まれた。
「……」
診療所をあとにして王宮へと向かう道すがら、リディアは少しの間だけ足を止めた。
空は高く晴れている。
風が髪を軽くなでた。
今日、何かが起きてしまうかもしれない。
そんな不安が数日前からずっとあった。
心配しすぎだろうか。
具体的なことはわからなかったが、気がかりなことは多かった。
「きっと大丈夫よね」
リディアが静かに息を吸う。
足を踏み出す。
王宮への道を、一歩ずつ歩いていった。
✿✿✿❀✿✿✿
王宮の発表会場は、すでに多くの人で埋まっていた。
貴族、医師、王宮の関係者。
錚々たる顔ぶれが席につき、ざわめきが会場全体を包んでいる。
新薬の発表というだけあって現場の空気には、濃密な期待が含まれていた。
「思ったより人が多いですね」
その端の席に、目立たないように座っている2人の人物がある。
キャサリンと、その侍女のエマだ。
「こんなものじゃないかしら? まあ、それだけ注目されているのかもしれないわね」
エマが尋ねれば、キャサリンが会場を見渡しながら答える。
医師たちの表情。
貴族の身振り。
そして壇上の近くに座っている、ヴィクターの姿。
「……」
端整な顔立ちに、自信がめいっぱい表れている。
今日の発表を心から楽しみにしているようだった。
悪意のかけらもない、晴れやかな顔だ。
――それが一番、始末に悪いのよ……。
キャサリンが首を振って、胸中でため息をつく。
視線を動かし、キャサリンがリディアを探す。
――見つけた。
顔を合わせたことはまだないが、ソフィアから特徴は聞いている。
関係者席に腰を下ろしているので、間違いないだろう。
会場のやや端で、背筋を伸ばして座っているのがリディアだ。
「……」
緊張しているのか、あるいは覚悟を決めているのか。
その横顔からは、どちらとも読み取れるために判別がつかない。
確かなのは、今日の発表をリディアが楽しみにしていないという点だけだろう。
「エマ、セリーヌ嬢はいる?」
「はい。右手後方、3列目です」
即答だった。
キャサリンは視線をそちらに向けないまま、うなずく。
「動きに注意しておいて」
「もちろんです」
頼もしい侍女の返事に、キャサリンはようやく口元を緩ませた。
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