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タイムリープするお嬢様――二度目の婚約破棄はもう遅い。あなたが破滅する始まりです  作者: 御咲花 すゆ花
4話 リディア・ウルペッカ

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25 無自覚な悪意

 ヴィクターが動いたのは、それから10日後のことだった。

 リディアへの相談もなく、未完成の処方を完成品として王宮に申請した。

 名義はランドール家。

 内容はリディアが7年かけて積み上げて来た研究の成果だった。


「……」


 ただし、副作用の問題は解消されていない。

 ヴィクターには、悪いことをしているという自覚がこれっぽっちもなかった。

 妻の功績は夫のものでもある。

 それを信じて疑ったことは一度としてない。

 申請を急いだのは、早く薬を届けたかったからにすぎなかった。副作用のことも、リディアの気にしすぎだと思っていた。


 根拠はない。

 無自覚な悪意だ。

 ただ、そう思っていた。


「上出来ね」


 その報告を聞いたセリーヌは満足げに微笑んだ。

 ヴィクターの屋敷を辞したあと、馬車で1人になった瞬間だけ、その笑みが少しだけ違う色を帯びた。

 思ったよりも、ずっと簡単だった。

 残りの手順は、すでに頭の中にある。

 証拠書類の改竄。

 偽証言の準備。

 リディアを「横取りしようとした詐欺師」に仕立て上げるために、細かい仕込みを用意してある。


「忙しくなるわね」


 やることは多いが、難しくはない。

 相手は所詮、平民の薬師だ。

 後ろ盾もなく、社交界での地盤もない。

 ひとたび貴族の証言と書類が出れば、言葉一つも覆せはしないだろう。

 セリーヌは馬車から外を見つめながら、段取りを頭の中で組み立てていった。

 焦る必要ないのだ。

 落ち着いてやれば、必ずうまいく。


「あの薬師さえいなければいいのよ」


 いつかと同じ台詞を、リディアはくり返した。




✿✿✿❀✿✿✿




 リディアが申請のことを知ったのは、偶然だった。

 王宮に出入りする薬師仲間から、何気なく話が耳に入って来たのだ。


「そういえば、リディア。ランドール家が新薬の申請を出したっていうけど、あれってあなたの研究じゃなかった?」


 言葉が胸に刺さる。


「いつの話ですか?」

「先週だったかしらね。……もう受理されて、時間が経つはずだけど」


 しばらく、声が出なかった。

 ヴィクターが「わかった」と言ったのは、まだ記憶に新しい。

 待ってほしいとも言った。

 副作用が残っているから、処方は早計だと。


「そう……ですか」

 どうにかそれだけ答える。

 薬師仲間が何か言っていたようだが、よく聞こえなかった。

 頭の中では、ヴィクターの声が反響している。


『わかった』


 それは穏やかで、迷いのない声だった。

 いったい、ヴィクターは何にわかったと言っていたのだろう。




✿✿✿❀✿✿✿




 リディアはその夜、調合室に1人で座っていた。

 机の上には、まだ完成していない処方の記録が広げられている。


「……どうして」


 声にならない問いが、暗い部屋に溶けた。

 怒りなのか、悲しみなのか、自分でもよくわからなかった。

 ただ、胸の奥に重たいものがある。

 ヴィクターに悪意がなかったと信じたいが、今ではそれもどうなのか怪しい。


「……」


 きっとヴィクターは、良かれと思ってやっただけなのだろう。

 そう信じたい。

 少なくとも、薬を早く届けたかったことだけは本当だろう。

 だが、もしも症状の重たい子供に使われてしまったら……。

 誰が責任を取るのだろうか。

 そもそも、責任なんか取れるのだろうか。

 命を奪いかねないリスクがまだ残ったままだというのに。


「……はあ」


 リディアは自分の手のひらを見つめた。

 7年分の、薬草の染みが残っている手だ。

 このままではいけない。

 そこははっきりとわかっているのだが、どうすればいいのかという手段を、リディアには見つけられなかった。

 コメントまでは望みませんので、お手数ですが、評価をいただけますと幸いです。この後書きは各話で共通しておりますので、以降はお読みにならなくても大丈夫です(臨時の連絡は前書きで行います)。

 次回作へのモチベーションアップにもつながりますので、なにとぞよろしくお願いいたします。(*・ω・)*_ _)ペコリ

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