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タイムリープするお嬢様――二度目の婚約破棄はもう遅い。あなたが破滅する始まりです  作者: 御咲花 すゆ花
4話 リディア・ウルペッカ

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22 婚約者の功績

 季節が一つ、動いた。

 春の終わりに仕込んだ調合たちは、夏の盛りに形を変え、秋の入り口でようやく確かな輪郭を持ちだした。7年越しの研究に手応えを感じはじめていた。


 リディアは今日も机に向かう。

 調合室の窓から差しこむ光は、少し前まで白かったのに、いつの間にか金色を帯びている。

 季節がどれだけ変わっても、部屋の景色にはほとんど差がない。

 薬草の束。

 試験管の列。

 びっしりと書き込まれた手帳。

 そして、少しずつだが着実に、完成へと近づいている調合の記録。

 指先が震えた。

 興奮からだった。


「……。これなら!」


 思わず、口から声が出る。

 今日試みた調合は、これまでのどれとも違う感触があった。

 副作用の原因として疑っていた成分の効果を、別の薬草で中和することに成功したのだ。


「でも、まだ……」


 確認が必要だ。

 再現性を確かめなければならない。

 それでも今日、夢の薬に大きく前進した。

 もうすぐ手が届く。

 本当に、助けられるかもしれない。

 リディアは大きく息を吸って、ゆっくりと吐いた。

 あと少し、もう少しだけ……。




✿✿✿❀✿✿✿




 夕刻、ヴィクターが調合室を訪ねて来た。

 珍しいことだった。

 いつもは夜遅くにひょいと顔を出す程度だが、今日はずいぶんと早い時間だ。

 しかも、どこか改まった様子で扉を開けている。


「少しいいか? 話をしたい」


 椅子を勧めると、ヴィクターは素直に腰を下ろした。

 そうして、向かいに座ったリディアをまっすぐに見つめる。


「あの薬なんだが……そろそろ、王宮への申請を考えてもいい頃じゃないか?」


 リディアは首を傾げた。


「申請? まだ完成していないよ」

「だが、もうおおよそのものはできているんだろう?」

「それは……そうだけど、ちょっとまだ問題が残っていて――」


 言いかけたリディアを、ヴィクターが穏やかにさえぎる。


「それについては、申請しながら改良を続ければいいさ。王宮への認可が下りるまでには、時間がかかるからな。その間に調整すればいい」


 理屈としてはわからなくもない。

 だが、少し横暴な気がする。


「今のままじゃ、まだ患者に使えないよ。認可が下りても、未完成の薬じゃ届けられないよ」

「もちろん! 薬は完成してから届ければいい。申請と完成は別の話だ」


 ヴィクターの言葉は、一つひとつは筋が通っているとリディアも思う。だが、すんなりと受け入れるには、やはり抵抗を感じた。


「……」


 ヴィクターが少し声のトーンを変えた。


「それから、申請はランドール家の名義で出そうと思う」


 リディアの手が止まる。


「どういう意味?」

「そのままの意味だ。いくらリディアが有名とはいえ、平民の薬師で申請するよりも、侯爵家の名義が入ったほうが話が通りやすい。王宮というのは、そういう場所だからな。それはリディアだってわかっているだろう?」


 否定はできない。

 それが現実だということはリディアも知っている。

 貴族社会の壁は厚いのだ。

 腕を磨くだけでは難しい部分がある。

 その意味では、ヴィクターの言っていることは正しかった。

 リディアは慎重に言葉を選ぶ。


「……。……でも、これは私の研究だよ。7年かけて積み上げてきたものなの」


 リディアはそこで一旦、言葉を区切る。

 あの子供たちが救えるのであれば、名義にこだわる意味はないのかもしれない。

 だが、子供たちもリディアが薬を作っていることを知っているのだ。完成させるのはリディアだと信じている子供だっている。


 期待に応えたいというのとは少し違うが、信頼を裏切るような真似はしたくない。自分の名前が入っている薬を、子供たちが安心して飲める薬をリディアは届けたかった。


 だからこそ、はっきりとヴィクターに告げる。


「私の名前を残してくれない?」


 ヴィクターはかすかに表情を曇らせた。困ったような、それでいて意外そうな顔だった。


「リディアは俺の婚約者だろう? 婚約者の功績は夫の功績でもある。そういうものじゃないか」

「……」


 リディアは返す言葉を探した。

 だが、見つかりそうになかった。

 コメントまでは望みませんので、お手数ですが、評価をいただけますと幸いです。この後書きは各話で共通しておりますので、以降はお読みにならなくても大丈夫です(臨時の連絡は前書きで行います)。

 次回作へのモチベーションアップにもつながりますので、なにとぞよろしくお願いいたします。(*・ω・)*_ _)ペコリ

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