20 ダメ押し
「……。なぜ? 君が……」
愛人のナターシャだ。
「必要だろうと思って、呼んでおきました」
にべなくエマが言い放つ。
ナターシャはかつかつと早歩きでドリアンのもとへと歩み寄ると、容赦なくその頬に平手打ちを食らわした。
バチン!
静謐な植物園に、とても響いてはいけないほどの大音量が鳴る。
「ふざけんじゃないよ! 金づるだから仲良くしてやっていたのに、なんてざまだい! 二度と顔を見せるんじゃないよ」
去り際にドリアンの腹を蹴っ飛ばしてくことも忘れない。
「……。エマ?」
キャサリンが小声で問えば、簡潔な答えがすぐに返って来る。
「職業柄、護身術を覚えているようです」
「いい気味ね」
地面に這いつくばり、みっともなくソフィアの足元にすがるドリアン。
そんなドリアンを、ソフィアは汚物を見るような目で見下ろした。
「待ってくれ……ソフィア。僕が悪かったんだ。……だから、どうか」
「もう遅いのです。さようなら」
ぺちゃり。
植物園の中にいる鳥が、糞を落とす。
それはちょうどドリアンの頭の上に落ちる。
「ぷっ」
笑ったのは見知らぬ観光客だ。
「ちょっと、やだ失礼よ」
そう注意する女性も、声が震えている。
笑いをこらえられないといった様子だ。
恥辱で顔を真っ赤にしたドリアンが、その場から立ち去ろうとして、勢いあまって転んだ。
今度こそ場に盛大な笑いが起きていた。
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夕刻、帰り際にソフィアが短く言葉を残していった。
「キャサリン嬢」
「なあに?」
「次は、自分で解決できるようになります」
きっぱりとそう言った。
キャサリンも答える。
「そうなれるように応援していますわ」
ソフィアが深く一礼して、去っていく。
その背中を見送りながら、エマは静かに口を開く。
「またお一人、仲間が増えましたね」
「そうね」
キャサリンが空を見上げた。
夕焼けが、王都をやわらかく染めている。
「さて、次へ参りましょうか」
「はい、お嬢様」
2人は連れ立って、歩き出した。
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その後の処理は速やかに進んだ。
ドリアンは言い逃れを試みたが、書状と証言の前では無意味だった。
院内に噂を流そうとしていた協力者も、エマがすでに手を打っていたために動けなかった。
ドリアンは社交界での信用を完全に失い、ソフィアのもとを去った。
数日後、アルバートがキャサリンの屋敷を訪ねてきた。
「……何とお礼を申し上げればよいか」
老研究者は、深く頭を下げた。
「クラリス嬢の件に続き、今回も……本当にありがとうございました」
「いいえ。クラリスからの紹介でしたから」
キャサリンがさらりと答えると、アルバートが顔を上げて微笑んだ。
「クラリス嬢の言う通りの方でしたよ。頼りになると」
「あの子は言いすぎですわ」
それでもキャサリンの表情は、悪くなかった。
「ソフィア嬢は今、どんな様子ですか?」
「傷ついてはおります。当然ですが……それでも、自分で決めたことだからと前を向く準備をしているようです」
アルバートが穏やかな目で続けた。
「前を向いておりますよ。あの子らしい」
キャサリンも静かにうなずいた。
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