17 毒を仕込んだ中庭
ソフィアとのお茶会は、穏やかな午後に設けられた。
恋の話は恥ずかしいからと、場所を人の少ない中庭にしてもらっている。
「キャサリン嬢とお会いできて光栄です。おじいさまからよくお名前を伺っておりました」
「まあ、そうでしたの?」
「ええ。クラリス嬢の件で大変お世話になったと……それはもう、うれしそうに話すものですから」
くすくすと笑うソフィアの隣で、アルバートが照れたように咳払いをした。
「そういうことは黙っておくものだよ、ソフィア」
「だって本当のことなんですもの」
悪びれない孫娘に、老研究者は苦い顔をしながらも目を細めている。
キャサリンは静かに呼びかけた。
「ソフィア嬢。ドリアン子爵とは、どのように知り合われたのですか?」
ソフィアの顔が、ふわりと明るくなった。
「じゃあ、おじいさま。そろそろ……」
「若い2人だけで楽しんでください」
アルバートには退散してもらう。
彼から情報が漏れるとは思っていないが、念のためだ。
キャサリンに向き直ったソフィアが話しはじめていた。
「昨年の春のお茶会で。向こうから声をかけてくださったんです。最初はびっくりしてしまって……だって、お名前はよく存じ上げていましたから」
「社交界では名の通った方ですものね」
「ええ。なのにどうして私にと思ったんですけれど」
ソフィアが少しだけ恥ずかしそうにつづけた。
「研究が好きだと話したら、それがいいんだと言ってくれて……。変わっていると笑われることが多かったので、素直にうれしかったんです」
「そうでしたの。……ドリアン様との一番の思い出は何ですか?」
ソフィアが嬉しそうに話し始めた。
初めて二人で出かけた植物園のこと。
雨が降り出して、小さな東屋で雨宿りをしたこと。
そのとき、自分が子供の頃に亡くした母親の話を、初めてだれかに打ち明けたこと。
「ドリアン様は、ただ黙って聞いてくださったんです。何も言わずに。それがとても嬉しくて」
ソフィアの声は柔らかい。
「素敵な思い出ですわね」
「はい。このことがあったから私はドリアン様を……」
ソフィアが頬を赤く染めた。
キャサリンは静かに答えながら、頭の中で照合していく。
エマが調べた内容と、今ソフィアが語った話。
――一致しない。
ドリアンはソフィアの侍女に対して、婚約者が最近悩んでいることを探るはずだ。
しかし、植物園の話も母親のことも、侍女は詳しくは知らなかったはずだ。
つまり、ドリアンが事前につかめる情報ではない。
「ドリアン様も今でもその話を?」
さりげなく、キャサリンが問いかける。
「もちろん、覚えていてくれていると思います」
はっきりと言い切るが、ソフィアの顔は浮かない。思うところがあるのだろう。
「ドリアン様とは、最近どのようにお時間を過ごされていますの?」
「婚約の準備もありますし……でも、できるだけ会うようにはしています。ドリアン様はお忙しい方なので、なかなか難しいこともあるのですけれど」
「忙しい方なのですね」
「ええ。急に予定が変わることも多くて……でも、それだけ多くの方に必要とされているということですし……」
ソフィアが、少しだけ間を置いてから続けた。
「……。たまに、寂しいと思うこともありますけれどね」
「では、ちょっとふざけてみましょうか?」
「ふざける?」
「ええ、そうです。寂しい思いをしているのですから、ちょっとくらいわがままを言ってもいいでしょう? そのほうがかわいく見えますから」
「ど、どうすれば……」
「近く、そのときの植物園にドリアン様を呼びだしてください。当時の再現をするのです。婚約者同士なんですもの、すぐにソフィア嬢のしてほしいことくらい伝わりますわ」
「なるほど……」
キャサリンがあえて同意しやすい言い方をしたからこそ、抵抗感が少なかったのだろう。
ソフィアが、ゆっくりとうなずいていた。
これと並行して持参金の話を、アルバート経由で侍女に流す。
――今度こそ仕留めさせてもらうわ。
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