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タイムリープするお嬢様――二度目の婚約破棄はもう遅い。あなたが破滅する始まりです  作者: 御咲花 すゆ花
1話 キャサリン・エルフェルト

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2 すべてを知る者として

「お嬢様、よろしいですか?」

「……ええ、どうぞ」


 控えめなノックの音と共に、専属侍女のエマが入室した。

 銀の盆に乗せられた紅茶からは、やわらかな香りが立ちのぼっている。

 その何気ないやり取りにも、胸の奥がわずかに揺れて熱を発した。


 ――この光景も、すでに失ったものなのね。


 いつまでも感傷には浸れない。

 カップを手に取り、一口すする。

 落ち着いたところで、キャサリンは静かに口を開いた。


「エマ。少し確認したいことがあるのだけど……」

「はい、何なりと」

「舞踏会は、7日後で間違いないわね?」

「その通りでございます、お嬢様」


 ――やっぱりか。


 気のせいではない。これもあの一夜へと繋がっているのだ。


「あともう一つ。ここ最近、私宛に殿下以外の手紙が届いたことは?」

「ジェームズ様以外にでございますか……?」


 エマは一瞬考えこみ、そしてすぐに首を横に振っていた。


「いえ、そのようなものはなかったかと」

「……そう」


 当然と言えば当然かもしれない。


 ――あの手紙は用意されたもの。


 今はまだ存在しないはずの記憶をなぞる。

 あの恋文。

 あの筆跡。

 あまりにも証拠が出来すぎている。


 ――私が書いたという偽物。


 少なくとも、事前にキャサリンの元へと届いた返事ではないらしい。


「ごめんなさい、エマ。もう一つお願いができたわ」

「はい」

「ここ数日でジェームズ様や……ミレイユ嬢が、どんな動きをしているのか。調べてちょうだい」


 ぴくりとエマの眉がわずかに動く。

 だが、すぐにいつもの無表情へ戻った。


「……かしこまりました」

「できるだけ詳しく。だれと会っているか、どこへ出入りしているかを知りたいの」

「承知いたしました」


 短く一礼し、エマが部屋を出ていく。

 その背を見送りながら、キャサリンは深く息を吐いた。


 ――まずは情報を集めないと。

 出遅れている。

 すでに相手の計画は始まっているだろう。

 だからこそ、前回のキャサリンは何も知らなかった。

 あっさりと追い詰められてしまった。

 けれど、結末を知っている今回は違う。

 机の上に、キャサリンは紙を広げた。

 ペンを取り、記憶を整理するように書き出していく。

 端的に、それらは舞踏会当日に起きる出来事だった。

 婚約破棄の宣言。

 提示される恋文。

 ミレイユの証言。

 数名の貴族による追認。


「……ずいぶんと、手の込んだことを」


 一つひとつは小さなものでも、組みあわされば逃げ場のない罠にもなる。


 ――あの場ですべてを覆すのは、不可能に近いわね。


 そうであれば、話は単純だ。


「同じ土俵に乗る必要はないわ」


 ペン先が止まる。

 視線を上げ、キャサリンは窓の外を見た。

 穏やかな陽光。

 何も知らない世界。

 自分は信じすぎていたのだ。

 ジェームズ殿下を。

 その周囲を。

 そして、自分の立場が盤石なものであると驕った。


「信じるだけでは守れない」


 その代償を二度と払うつもりはない。

 処刑台の冷たさが、ふと思い出された。

 ゆっくりとキャサリンは目を閉じる。

 そして、はっきりとした結論を出した。


 ――戦いましょう。


 静かな闘志だった。

 だが、その決意は決して揺らぐことはない。


 ――すべて明るみにして差し上げます。


 あの2人が仕組んだもの。

 偽りの証拠。

 裏で繋がる関係。

 すべてを白日のもとにさらし、そして最後には自分が勝つ。


 ――婚約破棄までは受けたほうがいいかしらね。


 皮肉的にキャサリンは微笑む。

 そうして、指先で紙の上の一点を軽く叩いた。

 そこには、大きく舞踏会と記されている。


「主導権は私がいただきましょう」


 あの人に向けるべきものは、何一つ残っていない。

 だれももいない部屋で、その名を呼ぶ。

 かつては愛を込めて呼んだ名前を。

 今はただ、ただ冷たく。


「ジェームズ様、あなたはもう終わりです」


 言葉が静かに空気へと溶けていった。

 コメントまでは望みませんので、お手数ですが、評価をいただけますと幸いです。この後書きは各話で共通しておりますので、以降はお読みにならなくても大丈夫です(臨時の連絡は前書きで行います)。

 次回作へのモチベーションアップにもつながりますので、なにとぞよろしくお願いいたします。(*・ω・)*_ _)ペコリ

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