14 孫娘への接触
ソフィア・ホーウッドは、祖父のアルバートにそっくりだった。
穏やかな目元。
人当たりのよい笑顔。
だれに対しても真っ直ぐに向き合う、飾り気のない雰囲気。
もっとも、白髪の老研究者と二十歳の娘では、与える印象はまるで違ったのだが。
「キャサリン嬢とお会いできて光栄です。おじいさまからよくお名前を伺っておりました」
「まあ、そうでしたの?」
「ええ。クラリス嬢の件で大変お世話になったと……それはもう、うれしそうに話すものですから」
くすくすと笑うソフィアの隣で、アルバートが照れたように咳払いをした。
「そういうことは黙っておくものだよ、ソフィア」
「だって本当のことなんですもの」
悪びれない孫娘に、老研究者は苦い顔をしながらも目を細めている。
その様子を眺めながら、キャサリンは静かに紅茶を口に運んだ。
――本当に、大切にされているのね。
そしてソフィア自身も、その愛情を疑うことなく受け取っている。
だからこそ、祖父の心配を笑い飛ばしてしまえるのだろう。
「ソフィア嬢」
キャサリンが静かに呼びかけた。
「……?」
「婚約者の子爵とは、どのように知り合われたのですか?」
ソフィアの顔が、ふわりと明るくなった。
「昨年の春のお茶会で。向こうから声をかけてくださったんです。最初はびっくりしてしまって……だって、お名前はよく存じ上げていましたから」
「社交界では名の通った方ですものね」
「ええ。なのにどうして私にと思ったんですけれど」
ソフィアが少しだけ恥ずかしそうにつづけた。
「研究が好きだと話したら、それがいいんだと言ってくれて……。変わっていると笑われることが多かったので、素直にうれしかったんです」
「そうでしたの」
キャサリンは微笑みながら、内心で静かに息を吐いた。
――そこから入ったのね。
研究好きの娘が、自分の個性を肯定してもらえた瞬間に感じる喜び。
それがどれほど効果的な入り口か、ドリアンはよく知っていたのだろう。
「最近は、どのようなお時間を過ごされていますの?」
「婚約の準備もありますし……でも、できるだけ会うようにはしています。ドリアン様はお忙しい方なので、なかなか難しいこともあるのですけれど」
「忙しい方なのですね」
「ええ。急に予定が変わることも多くて……でも、それだけ多くの方に必要とされているということですし……」
ソフィアが、少しだけ間を置いてから続けた。
「……。たまに、寂しいと思うこともありますけれどね」
さらりと言って、すぐに笑顔で取り繕う。
その一瞬のかげりを、キャサリンは見逃さなかった。
――気がついている?
はっきりとした形ではないにしても、どこかおかしいという感覚が、ソフィアの中にも確実にある。
ただそれを、自分の勘違いだと打ち消してしまっているのだ。
キャサリンが、カップをそっとソーサーに戻した。
「ソフィア嬢。一つだけ、お聞きしてもよろしいですか」
「はい」
「ドリアン様は、あなたのどんなところが好きだと言ってくれていますか?」
ソフィアが、少し考えた。
「研究熱心なところと……あとは明るいところでしょうか」
「それはいつ頃、言ってくださいましたの?」
「最初の頃は、よく言ってくれていましたよ。最近も……」
言いかけて、ソフィアが止まった。
自分の言葉に、自分で気がついてしまったのだろう。
「最近は……あまり言ってくれていないかもしれませんが……」
小さな声だった。
キャサリンは何も言わなかった。
指摘もしない。
ただ、静かに聞いていた。
しばらくして、ソフィアが顔を上げた。
「でも、忙しいだけですから」
確認するような、すがるような一言だった。
キャサリンはそれに答えない。
代わりに、穏やかに微笑んだ。
「ソフィア嬢。少し試してみませんか」
「試す?」
「あなたが本当に大切にされているかどうかを、ご自身の目で確かめるのです。婚約をした相手なのですから、このくらいはおふざけの延長ですわ」
ソフィアの表情が揺れる。
不安と、どこかほっとしたような、複雑な色が混じっている。
キャサリンがあえて同意しやすい言い方をしたからこそ、抵抗感が少なかったのだろう。
「……。それはどのように?」
「簡単なことですわ」
キャサリンが静かに続けた。
「ただ少しだけ、正直になっていただければいいのです」
窓の外で、風が木の葉を揺らした。
ソフィアが、ゆっくりとうなずいていた。
コメントまでは望みませんので、お手数ですが、評価をいただけますと幸いです。この後書きは各話で共通しておりますので、以降はお読みにならなくても大丈夫です(臨時の連絡は前書きで行います)。
次回作へのモチベーションアップにもつながりますので、なにとぞよろしくお願いいたします。(*・ω・)*_ _)ペコリ




