表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
タイムリープするお嬢様――二度目の婚約破棄はもう遅い。あなたが破滅する始まりです  作者: 御咲花 すゆ花
3話 ソフィア・ホーウッド

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

17/34

12 老研究者の訪問

 クラリスからの手紙が届いたのは、穏やかな午後のことだった。


「お嬢様、レーヴェル伯爵家より文が届いております」

「クラリスから?」


 エマから手紙を受け取り、キャサリンは目を通す。

 近況報告と、他愛ない研究の話。

 そして最後に、一文だけ添えられていた。


『近く、ホーウッド教授よりご連絡が入るかと思います。どうかよろしくお願いいたします』


「……。ホーウッド教授」


 その名前には、聞き覚えがあった。

 先の発表会場で、エミリアの欺瞞を真っ先に見抜いた白髪の老研究者だ。クラリスが信頼して、自分の研究データを預けた相手でもある。


 王立魔導研究院でも最長老格にあたる人物だった。


「どのようなご用件でしょうね?」

「さあ」


 エマからの質問に、キャサリンは手紙を折り畳みながら答える。


「来てみればわかるでしょう」




✿✿✿❀✿✿✿




 数日後、アルバート・ホーウッド教授が約束どおりキャサリンの屋敷を訪ねて来た。

 白髪をきちんと整え、年季の入った上着を丁寧に着こなしている。

 研究者らしい実直な佇まいの老人だった。


「突然の訪問をお許しください、キャサリン嬢」

「いいえ。クラリス嬢からも話は聞いております。どうぞ」


 応接室に通し、向かい合って座る。

 エマが紅茶を用意して、静かに部屋の端へと下がった。

 アルバートはしばらく、カップを両手で包むようにして黙っていた。


「……」


 話し出すための間を作っているのではなく、どこから話せばいいのかを迷っているようだった。

 相手が相手だ。

 フィリップのときとは違う。

 キャサリンも急かさない。

 ただ、静かに待った。


「……孫娘のことで、お力をお借りしたいのです」


 やがてアルバートが、ゆっくりと口を開いた。


「孫娘?」

「ソフィアと申します。20歳になりました」


 その名前を口にした瞬間だけ、老人の表情が柔らかくなった。

 自分でも気がついていないのだろう。

 ごく自然な変化だった。


「今年の春に婚約が整いまして……相手はドリアン子爵という方です」

「存じております。社交界での評判はよろしいようですわね」

「ええ」


 アルバートが、そこで言葉を止めた。

 続けようとして、止まる。

 また続けようとして、さらに口が開き切らなかった。


「……。何か、ご不満が?」


 さすがに不自然だ。

 キャサリンが穏やかに問えば、アルバートは困り果てたように眉を寄せた。


「不満というほどのものでは……ないのかもしれません。証拠もない。ただ……」

「ただ?」

「どうにも、腑に落ちないのです」


 絞り出すような一言だった。


「研究者として長く生きてまいりました。違和感というものは、たいてい何かを示しています。けれど今回ばかりは、その何かが見えなくて……」


 アルバートが深いため息をついた。

 要領を得ないが、深刻らしいことはキャサリンにも伝わっていた。

 クラリスが自分を紹介したのも無理はないだろう。


「……。ソフィアは疑うことを知らない娘です。だれに対しても真っ直ぐで、相手の善意を信じる。それが長所でもあり……」


「心配の種でもある?」


 キャサリンが言葉を引き取ると、アルバートが小さくうなずいた。


「ソフィアのそばにいるドリアン子爵を見ていると、どこかが引っかかるのです。笑っているのに、どこかその笑みが薄いような気がして……老いた祖父の見当違いであればそれでいいのです。しかし、もしも……」


 言葉が途切れた。

 仮定の先を口にすることが怖いのだろう。

 その話を無理に言わせるほど、キャサリンは無粋ではなかった。


「教授」


 キャサリンが静かに呼びかける。

 アルバートは沈鬱な表情でキャサリンを見返していた。


「一つだけ、お聞かせください。もし最悪の結果が待っていたとして……それでもソフィア様に、幸せになってほしいですか?」


 老人は一瞬だけ目を細めた。

 そして、迷いのない声で答える。


「当然です」


 キャサリンが、静かに微笑んだ。


「わかりました。お力になりましょう」


 アルバートの肩から、すっと力が抜けていくのがわかった。

 長く抱えてきたものを、ようやく少し降ろせたような、そんな様子だった。


「……。クラリスの言うとおりの方でしたな」


 ぽつりとアルバートがつぶやく。


「なんと言っていましたの?」

「頼りになる方だと」


 キャサリンは少しだけ目を細めた。


「あの子らしいですわね」


 窓の外では、穏やかな風が木々を揺らしていた。

 コメントまでは望みませんので、お手数ですが、評価をいただけますと幸いです。この後書きは各話で共通しておりますので、以降はお読みにならなくても大丈夫です(臨時の連絡は前書きで行います)。

 次回作へのモチベーションアップにもつながりますので、なにとぞよろしくお願いいたします。(*・ω・)*_ _)ペコリ

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ