11 その先の未来へ
あの騒動から1週間後。
王都の空気は、すっかり落ち着きを取り戻していた。
もちろん、それは表向きの話である。
「聞きました? レーヴェル家の件」
「ええ、とんでもない話でしたわね」
ひそやかに交わされる噂。
だが、その内容は決して穏やかなものではない。
「妹の方は、完全に社交界から締め出されたそうよ」
「当然ですわね。不正の上に虚偽発表だなんて」
「婚約者だった方も、大変らしいですわね」
「責任問題でしょう?」
くすくすと笑う声。
同情は一切なかった。
それがこの世界の現実である。
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「クラリス様、本日の打ち合わせ資料でございます」
「ありがとう」
差し出された書類を、クラリスは寝ぼけ眼で受け取った。
王立研究院の一室。
以前とは違う空気。
そこにいる誰もが、クラリスを優秀な研究者として見ている。
だからこそ、これまで以上にクラリスは忙しくなったとも言えた。
「……不思議なものね」
あれほど遠かった場所に、今こうして立っている。
「こちらの理論、非常に興味深いです」
「ええ。ですが、まだ改良の余地が残されていますわ」
自然に交わされる会話。
疑いも、軽視もない。
ただ純粋に、研究者として評価される。
あるべき姿があった。
研究院からの帰り道、クラリスはふと足を止めた。
最近は研究院にこもりっぱなしで、ろくに屋敷に戻っていなかったのだが、さすがに伯爵家の娘がいつまでも泊まり込みはまずかったらしい。
ほかの者が気を遣うからと、上司にそれとなく帰宅を促されてしまった。
「……」
ほっと息を吐く。
見慣れた通り道も、以前とは違う景色に見える。
色が鮮やかになった気がする。
まさか実際に鮮明になったわけではないだろうが、クラリスの視界は晴れやかだった。
「本当に、変わったのね」
「満足そうですわね」
背後からの声に、慌てて振り返る。
そこにいたのは、やはり彼女だった。
「キャサリン嬢……。おかげさまで」
いつものように、優雅にキャサリンが微笑んでいる。
自然と、クラリスの口元にも笑みがこぼれた。
「ようやく、自分の足で立てている気がします」
「それは結構。もう私の出番はありませんわね」
「そんな……」
思わず、言葉が口をついた。
「私……まだ、あなたに何もお返しできていません」
本当に何一つ。
キャサリンからは与えられてばかりだった。
「ふむ、そうですね……。何も要求しないというのも、かえって不気味かもしれませんわね」
「は、はい……」
素直に同意してよいのかわからない口ぶりに、クラリスは苦笑しながら肯定する。
「では、こうしましょう」
「……ッ」
キャサリンの声音にクラリスは身構えた。
今しがた自分のした選択を、わずかに悔やむほどだった。
「私とお友達になってくださるかしら? 今後、私が窮地に陥ったとき、あなたに力を貸してほしいのです」
「そんなことであれば全然、喜んで!」
もっとハイリスクな要求をされると思っていたクラリスからすれば、それはほとんど何も求められていないに等しい提案だった。
「うれしいわ」
にこやかにうなずいたキャサリンが、話はそれまでだと言いたげに足を動かしはじめる。
「キャサリン嬢はどちらに?」
「少し確かめてみたいことがありますの」
振り向きもせずに、キャサリンはそう告げる。
深く尋ねてはいけないことだろうと、クラリスはそれ以上聞くのをやめる。
「そうそう。クラリス嬢?」
「なんでしょう?」
もう話しかけられないとばかり思っていたクラリスは、少しだけ驚きながらキャサリンのほうを見た。
「もし今後、あなたのような境遇の方を見かけたら、教えてくださるかしら?」
かつての自分と同じ。
理不尽に奪われ、声も上げられない誰か。
それをきっとキャサリンはまた救おうとしているのだろう。
「……。はい、必ず」
迷いなくうなずいていた。
「ありがとう……」
キャサリンは満足げにほほ笑んだが、後ろを向いていたためにクラリスからは見えなかった。
「行くわよ、エマ」
「はい、お嬢様」
キャサリンは歩む足を止めない。
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