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タイムリープするお嬢様――二度目の婚約破棄はもう遅い。あなたが破滅する始まりです  作者: 御咲花 すゆ花
2話 クラリス・レーヴェル

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9 二度目の舞台

 そして、再びその日が訪れた。

 王立魔導研究院、発表会場。

 前回と同じ場所。

 同じ顔ぶれ。

 違うのは、ただ一つ。

 胸の奥は、不思議なほどに静かだった。


「クラリス様、本日は発表を? 楽しみにしておりますわ」


 声をかけられ、クラリスは軽く微笑んだ。


「ええ、その予定です」


 視線を巡らせる。

 エミリアを見つけた。

 今までの自分ならば、そこに浮かんでいる微笑を、自分のためのものだと信じられたが、今はもう違った。


 あの微笑は、クラリスからすべてを奪えるという自信と、その余裕から来ているものだったのだ。


「やはり、キャサリン嬢の言うとおりだったのね……」


 確信した。

 まだほんの少し、心に迷いがあったのだが、もう揺らぐことはない。

 今日ここで、エミリアを叩きのめすのだ。

 そのための餌なら、すでに撒いてあるのだから。




✿✿✿❀✿✿✿




「それでは、次の発表者――」


 進行役の声が響く。

 錚々たる顔ぶれが集う中、壇上の中央に立つ一人の少女は、みなの期待の視線を一身に浴びていた。


「本日はお集まりいただき、誠にありがとうございます」


 澄んだ声が会場に響く。

 クラリスの視線が、客席の一角へと向く。

 そこには誇らしげに腕を組む婚約者ケヴィンの姿がった。

 今にして思えば、なんとも胡散臭い態度だ。

 言葉には出さず、クラリスは小さく息を整える。


「それではこれより――」

「お待ちください」


 発表を始めようとした瞬間に、凛とした声が空気を切り裂いた。

 ざわりと会場が揺れる。

 ゆっくりと落ち着き払った態度で、クラリスは振り返る。

 自分の妹であるエミリアが立っていた。


「……。エミリア」


 小さな失望と、大きな喜びの混じり合った声音で、クラリスが名前を呼ぶ。

 クラリスのことなど気にせず、エミリアは薄い笑みを浮かべて、ゆっくりと壇上へと歩み寄って来る。


「お姉様。その発表は、代わりに私が行いますわ」

「どういうこと?」

「そのままの意味です」


 エミリアはにこやかに微笑む。


「だって、その研究は、もともと私のものですから」


 静寂。

 不自然な沈黙が会場を包む。

 だが、次の瞬間にはざわめきが爆発していた。


「何を言っているの?」


 しっかりとした声で、クラリスが問い返す。

 クラリスの態度が気に入らないようで、エミリアは少し不満げだった。

 だが、趨勢は変わらないと思いなおしたらしい。

 エミリアは威嚇するようにクラリスに迫った。


「お姉様こそ、人の研究データを勝手に盗むのはやめていただきたいものですわね」

「研究を盗む? 私が?」

「ええ、そうです。証拠もございますわ」


 差し出されたのは、分厚い研究記録。

 見覚えのある紙束だった。

 しかし、その表紙に記されてあるはずの名前は、自分のものではない。

 これもすでに知っている。


「エミリア・レーヴェルと、ここにちゃんと書いてあるでしょう?」


 クラリスが堂々と対応しているためだろう。

 どよめきはあまり広がらない。

 ただし、会場の視線は一点へと集まっていた。


「では、お願いします」


 クラリスは悠然とエミリアに場を譲った。

 釈然としないようだったが、まもなく自信に満ちた笑みを浮かべて会場に向きなおる。

 対するクラリスのもとには、婚約者のケヴィンが駆けつけていた。


「努力家だと思っていたが……他人の成果に手を出すとはな。見損なったぞ」

「……」

「このような不正を働く者を、我が家に迎えることはできないな」

「そうですか」

「ここにクラリス・レーヴェル、お前との婚約を破棄することを宣言する」


 言うだけ言って、ケヴィンが去っていった。

 妹を選ぶだなんて馬鹿な人。

 そんな小さな雑感を抱いた程度で、取り乱すことはおろか悲しむことさえクラリスはしない。


「本日は、新たな魔導理論について発表させていただきます」


 借り物の力を使ったエミリアの発表が始まった。

 流れるような説明。

 整った理論。

 一見すれば、完璧に見える内容だ。

 会場の反応も上々。

 さすがに、一部が正規のものだけあって手ごたえが違う。


「おお……」

「これは興味深い」


 名のある研究者たちも熱心にうなずいている。

 実際には理解していない貴族たちも、周りの様子をうかがって、要所で感心したふりをしている。


「さすがだ、エミリア嬢」


 満足げにケヴィンが微笑んでいた。




✿✿✿❀✿✿✿




 発表が終わり、会場を拍手が包んだ。


「素晴らしい……!」

「これほどの成果とは……」

「確かに、これではクラリス嬢が横取りしたくなるのも納得ですな」


 賞賛の嵐だ。

 いやがおうにもエミリアの評価は高まっていく。

 莞爾としたエミリアの微笑み。

 当然だ。

 まるですべてがうまくいっているかのように、そう錯覚しているに違いない。

 大成功。

 だれだってそう誤解する。

 心の中で、クラリスが静かに笑った。

 用意された成功だと知っていれば、とても恥ずかしくて笑えはしない。

 これは仕組まれた偽りの勝利なのだから。


「それでは、質疑応答に移りましょう」


 司会の一言で、空気が少し引き締まった。

 壇上のエミリアは、余裕の表情を崩さない。

 彼女からすればウイニングランに等しい。


「では、私から一つ」


 一人の研究者が、手を挙げた。

 白髪の老人。

 王立研究院でも名の知れた人物だった


「この理論における、魔力循環の安定性についてなのですが……」


 穏やかな口調。

 しかし、その内容は核心を突くものだった。


「ええ、それについては――」


 エミリアが答えようと資料を見返す。

 そして、一瞬、言葉に詰まった。


「……」


 ほんのわずかな間だったが、クラリスは見逃さない。

 その違和感は老人にも伝染する。


「どうしましたかな?」

「い、いえ……問題ありませんわ」


 すぐにエミリアが取り繕う。

 笑顔を崩さなかったのは、並みの度胸ではないことの証明だろう。こんなことをしでかすくらいなのだから、その点は最初から別格だったのかもしれない。


 しかし、理解していないことは明白だ。

 あの質問の意味を、エミリアは正しく理解できていない。


「この理論では、特定条件下で魔力が逆流する危険性があると思うのですが……」


 追撃が飛ぶ。

 その質問を皮切りに研究者たちが、今一度クラリスの発表を見返しはじめた。

 別の研究者からも手が挙がる。


「その点はどのように対処されているのですか?」

「それは……」


 エミリアの指先がわずかに震えた。

 会場の空気が、少しずつ変わっていく。

 小さな波紋が、次第に大きなものへと広がっていく。


「……。問題はありませんわ」


 エミリアは言い切る。

 しかし、その声からは先ほどまでの余裕が失われていた。


「理論上、完全に制御可能です」


 白髪の研究者が目を細める。


「ほう。その制御式を説明していただけますね?」


 エミリアの口が完全に止まった。

 その顔からは血の気が引いている。

 毒を仕込ませた張本人であるキャサリンは、それを遠くから満足げに眺めていた。


 ――無理よね。だって、そこには答えがないんだもの。


 その欠陥はクラリスの手によって、意図的に仕込まれたものだ。

 表面だけをなぞった者では、決してたどり着けはしない。


「どうされたのです?」

「まさか、説明ができない……」

「この結論は嘘っぱちか?」


 ざわめきは大きくなっていく。

 疑念がちゃんとした形を持ちはじめていた。

 その中で、クラリスが静かに息を吐く。


「……ふぅ」


 計画どおりだ。

 舞台は整った。

 クラリスがキャサリンに目を向ける。


 ――終わらせてあげなさい。


 キャサリンも力強いうなずきを返す。

 クラリスがゆっくりと壇へと向かっていく。

 その先に待つ結末は、すでに決まっていた。

 コメントまでは望みませんので、お手数ですが、評価をいただけますと幸いです。この後書きは各話で共通しておりますので、以降はお読みにならなくても大丈夫です(臨時の連絡は前書きで行います)。

 次回作へのモチベーションアップにもつながりますので、なにとぞよろしくお願いいたします。(*・ω・)*_ _)ペコリ

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