第99話 重さは0
朝。入口は暗いまま。箱壁も返却棚も灯りも触らない。外変化0。
返却棚に落ちていた箱を数える。札穴、番号、向き。遅延なし。対象外なし。静かだ。
静かな日は、人を狙う。人がダメなら、次は感覚を狙う。目じゃない。耳でもない。重さだ。持つ係を止めれば、交代が生まれる。交代が生まれれば口が生える。口が生えれば椅子が立つ。椅子が立てば燃える。
フィン 今日、3番の重さで来るぞ。
ミナ 重い軽いは議論になりやすい。
ゼフ 重さの確認って名目で止められる。
レイナ 確認しない。重いは0。
フィン 雑すぎて逆に強い。
ミナ 紙一枚で刺すね。
レイナ 紙一枚。板一行。箱は既存。説明しない。
重さを調べ始めた瞬間に終わる。
誰が入れた、何が入ってる、危険だ、公開だ。椅子セットが揃う。
だから重さは分類しない。重いと感じたら、それは0。0は凍結。見ない。触らない。番号一致で同形を戻すだけ。
ミナが紙を一枚だけ置いた。短い条件文。理由は書かない。
3番 重さ違和感=0(凍結) 中身確認禁止 同形で差し替え 交代禁止
フィン 中身確認禁止まで書くの、強いな。
レイナ 強いほど燃えない。
ブラント 外で聞かれたら?
レイナ 条件だけ。違和感は0。以上。
ゼフ 同形の3番、予備は内側。
レイナ 内側で差し替え。外に見せない。
ユハが入口側に立って、3番の通り道に寄って止まれる角度を先に潰した。止まれる距離が消える。聞ける距離も消える。
昼。動かさない日を混ぜる。棚の前で作業をしない。入口で喋らない。窓口は短く、同文で終わらせる。
空箱便は今日も三つ。番号だけ。1、2、3。外は変えない。
違いは一つ。3番は持つ係ひとり。重いと感じたら0で寝る。確認はしない。
子供たちが寄ってくる。走りたい目。止まりたくない足。
ミナが数字だけ見せる。
ミナ 三つ。番号だけ。
子供 いち!に!さん!
レイナ さんは持つ係ひとり。床に置かない。重いは0。
子供 さんは持つ!床置かない!重いはゼロ!
フィン 呪文増えてんぞ。
ミナ 短いから残る。
レイナ 速歩き。終わり。
3番の子が抱える。抱えたら最後まで。途中交代なし。途中停止なし。
止まらないから、言葉が刺さらない。言葉が刺さらないから燃えない。
午前の半ば。嫌な静けさが混じった。
左肩が擦れた男の足音が、角の外に薄く残る。姿は出さない。手だけが雑。今日は触らせたい。止めさせたい。重さを言わせたい。
男 おい、子供に持たせるな。重いだろ。
フィン 手渡し無し。終わり。
男 重さを確認しろ!危険だ!
レイナ 確認しない。重いは0。
男 0って何だ!
レイナ 説明しない。
ミナ 理由なし。
男は声で椅子が立たないと分かると、手で重さを作る。
3番の角へ、わざと人がぶつかる位置に立つ。ぶつかった拍子に、箱の口へ小石を滑り込ませる。見えないように。音がしないように。
そして次に、わざと優しい顔で言う。ほら重くなった、危険だ、開けろ。公開だ。椅子が立つ。
3番の子が角を曲がる瞬間、箱が一瞬だけ跳ねた。
ユハが立ち位置をずらしていたから、ぶつからないはずの角度だった。なのに跳ねた。跳ねた原因は見ない。見ると椅子が生える。
持つ係の腕が少し沈む。重いという感覚だけが刺さる。
3番の子 ……ちょっと重い。
ミナ 止まらない。
レイナ 0。凍結。離れる。
フィン いいぞ。言い訳すんな。
子供 ゼロ!終わり!
重い、と言った瞬間が危険だ。そこへ説明を差し込まれたら燃える。
だから説明を置かない。代わりに動作を置く。3番はそのまま0へ。
ゼフが先回りして、凍結送りの既存箱の口を開けて待つ。待たない。待つ顔をしない。動線の中で開けているだけ。
3番の子は止まらずに、そのまま箱を滑らせるように0へ落とした。落としたら終わり。中身は見ない。確認しない。誰も覗かない。
ゼフ 0。
ミナ 数だけ。
レイナ 同形3番。内側。
フィン 差し替えも見せんなよ。
レイナ 見せない。
男が遅れて追いすがる。声を出す場所を作りたい。落とした箱の中身を見せたい。見せたら勝ちだと思ってる。
男 待て!今の重かっただろ!危険だ!開けて確認しろ!
フィン 確認って言った瞬間、椅子。ここ椅子ない。
男 じゃあ俺が開ける!
レイナ 触るな。
男 隠蔽だ!
レイナ 隠蔽は言葉。却下。
ミナ 理由なし。
ユハが一歩だけ位置を変える。0箱の前の幅が死ぬ。男が寄るほど邪魔に見える。
邪魔に見えた瞬間、周りの流れが男を押す。押されると叫びは薄くなる。薄い叫びは燃えない。
その間に、内側で差し替えが終わる。
同形の3番を、同じ位置から出す。外に見せない。整列もしない。
見える変化は0。三連は三連のまま。止まりも増えない。
レイナ 3番続行。持つ係同じ。
3番の子 さん、持つ。終わり。
フィン お前、強いな。
子供 終わり!
男はここで最後の悪あがき。重くしたのは俺じゃない、と言い張りながら、公開点検の紙を出してくる。
紙は椅子。だから箱へ落とす。読むと燃える。読まない。
ミナ 凍結送り。
レイナ 数だけ。
フィン はい終了。次の角行け。
男 おい!危険だって言ってるだろ!
レイナ 0。
そこへ帳面役の息が来る。紙束。署名。公開。安全。
今日は最高の餌だ。子供が重い箱を持った、危険だ、確認しろ、公開点検だ。
だが餌はもう0で寝た。寝た餌は燃えない。
相手 子供が危ない!公開説明を、
フィン 公開って言った瞬間、椅子。ここ椅子ない。
相手 皆のために!
レイナ 皆のためは椅子。却下。
ミナ 紙は凍結送り。
紙束は受け取られて読まれず、既存の凍結送りへ。箱は増やさない。口も増やさない。
相手の声だけが残る。声は流れで死ぬ。止まりがないから声は刺さらない。刺さらないから燃えない。
3番の子は最後まで持ったまま回し切った。
途中で置かない。途中で交代しない。途中で見ない。
重いと感じた瞬間に0へ落としたから、重さの議論が育たない。育たないから椅子が立たない。
3番の子 終わり!
ミナ えらい。重いは0。
フィン 重いって言葉、燃える前に死んだな。
レイナ 死なせた。
ほのぼのは、その後に出た。
1と2を持っていた子が、3番の子に肩を並べる。羨ましそうに言う。でも奪わない。交代しない。止まらない。
別の子供 さん、持ちたい。
ミナ 軽い方が持つ。持ったら最後まで。
別の子供 じゃあ明日、軽くなる!
フィン 軽くなるって何だよ。
レイナ 明日も条件だけ。終わり。
午後、補修班工房へ一度だけ行く。外は変えない。向こうの明るさも変えない。完成感も増やさない。
持ち込むのは形だけ。3番持つ係ひとり。重さ違和感は0。中身確認禁止。まとめ返却はそのまま。
補修班頭 3番が重いって話が出た。
レイナ 0。
補修班頭 0で済むのか。
レイナ 済む。
補修班の若いの 止まると面倒なんで。重いなら0。
フィン 飲み込み早すぎ。
ミナ 条件だけだからね。
補修班頭 ……良い。開けるな。止まるな。
若いのが3番を抱え、床に置かず、途中交代もせず、まとめ返却まで一直線。
止まらないから、外は挟めない。挟めないから噂が育たない。育たないから燃えない。
夕方、ブラントが市場から戻る。噂の内容は持ち帰らない。形だけ。
今日は重い箱、危険、隠蔽、公開点検、と言葉が膨らみかけていた。
だが重さは0に落ちる。落ちた瞬間に座れない。分類できないからだ。
ブラント 重い箱を隠したって形が回りかけました。
レイナ 0。凍結。
ミナ 紙一枚。理由なし。
フィン 外は中身って言葉が大好物だからな。
レイナ 見ない。終わり。
ブラント 重いの正体を言わせられないので、外は雑になります。
領主へは数字だけ。短く。噂が嫌いな人間は数字で切る。
領主 重い箱の噂が出ている。
ブラント 重さ違和感は0凍結で処理します。確認しません。
領主 良い。確認は口を増やす。噂は嫌いだ。
レイナ 口を増やさない。
領主 重さを理由に止まるな。
ミナ 止まりません。
夜。灯りは二基。低く地味に足元だけ。入口は照らさない。外変化0。
覗きが薄い時間だけ、ゼフが0箱の中の重い3番を、そのまま奥へ寝かせる。開けない。出さない。戻さない。
重さを作った小石は、小石のまま0に溶ける。説明の材料にはならない。材料にならないと燃えない。
翌朝。外は何も変わっていない。外変化0。
変わったのは、重いという攻め口が育たないこと。重いは0で死ぬ。死んだ言葉は椅子にならない。
相手はまた雑になる。雑は距離で死ぬ。追わない。捕まえない。燃やさない。
フィン 重さで来ても、0で寝るの強すぎ。
ミナ 確認しないから、議論が立たない。
ゼフ 同形で戻る。
ユハは無言で入口の暗がりへ戻る。止まりは今日も死んでいる。
レイナ 次も一つだけ。外変化0。
俺は板に一行だけ残した。
3番重さ違和感1を0凍結で寝かせて同形3番へ差し替え、持つ係固定のまま止まりと公開点検の椅子を作らせなかった。




