第8話 手足増やしRTA 教育テンプレで戦力化して、塩を“日課”に落とす
朝。
拠点倉庫の棚が二本になった。
ほんの少しだけ、部屋が“仕事場”っぽくなる。
仕事場っぽくなると、脳が勝手に切り替わる。
板を開く。
本日の稼働上限:6時間
現在:0時間00分
レイナが淡々と言う。
今日の目的は二つ
1)塩搬入を日課に固定
2)新しい手足を最短で戦力化
派手な成果は要らない
回る形を作る
分かってる
今日は“回す日”だな
そう
あなたが右腕っぽくなる日は
だいたい地味
扉がノックされた。
入るぞ!
フィンが入ってくる。
その後ろに、見慣れない二人。
……来た。手足。
フィンが小声で言う。
ギルドから来た新人です!
二人のうち、背の高い男が言った。
ガイル
運搬係です
もう一人、帽子を被った小柄な女が言った。
ミナ
書類と帳面が得意
良い。
運搬と帳面。役割が分かれてる。
レイナが即評価する。
当たり
ただし新人は“善意”で暴走する
最初に枠を渡して止めろ
俺は頷いて、まず言う。
最初に約束
俺の稼働は一日6時間
俺に聞くのは“判断だけ”
作業は君たちがやる
いいな
ガイルが頷く。
了解
ミナも頷く。
了解です
次。
俺は机の上に一枚の紙を置いた。
教育テンプレ(初日)
1)合言葉:A/B/C
2)あなたの役割:何を“しない”か
3)報告の型:3行
4)今日のルート:中継点→市場→門
5)禁止:勝手に仕事を増やす
フィンが少し嬉しそうに言う。
テンプレ…!
ミナが興味深そうに覗き込む。
禁止が書いてあるの、いいですね
普通はやれやれって書くのに
やることより
やらないことのほうが大事
やると死ぬから
ガイルが少し笑った。
分かりやすい
1)A/B/Cを叩き込む 今日やるのは“塩”だけ
俺は指を三本立てる。
A:今日やらないと死ぬ
B:今日やらないと後で困る
C:今日やらなくてもいいけど未来が楽
ガイルが復唱する。
A、B、C
ミナも復唱する。
A、B、C
フィンは誇らしげ。
もう覚えてる!
次。俺は二人に役割を渡す。
ガイル
今日の役割:塩搬入の“運搬”
やること:中継点から市場へ小分け
やらないこと:交渉、揉め事、判断
ミナ
今日の役割:塩の“帳面”と“札”
やること:樽数、行き先、受け取り人、印
やらないこと:現場で勝手にルール変更
ミナが即答する。
ルールは勝手に変えない
ガイルも頷く。
交渉しない
揉めない
よし。
レイナが小声で言う。
最初の一日は
“できること”より“越えてはいけない線”
これが全て
分かってる。
2)報告は3行 長文は事故る
俺は紙に書く。
報告は3行
1)結果:何がどうなった
2)問題:何が詰まった
3)次:誰がいつまでに
ミナが目を輝かせる。
最高
帳面と相性いいです
ガイルも頷く。
短いの助かる
フィンはなぜか背筋が伸びた。
僕も3行で言います!
頼む。
感想禁止だ。
3)塩搬入を日課に固定 午前/午後の2回だけ
中継点。
昨日の札が下がっている。
でも“仮”のままだ。仮は長いと腐る。
俺は札を一枚増やした。
塩搬入 日課(固定)
午前:門→中継点→市場
午後:門→中継点→市場
例外:なし(例外はAのみ)
ミナが言う。
例外なしって書くと反発しません?
反発する
でも“例外が多い方が”もっと死ぬ
例外はAだけ
それを“例外カード”にする
フィンが言う。
例外カード?
俺は木札を一枚見せた。
例外Aカード
これが出た時だけ、日課を崩す
カードを出した人が責任者
ガイルが笑った。
責任者が見えるの、強いな
強い
責任が見えると、例外が減る
例外が減ると、日課が守れる
レイナが静かに言う。
あなたの街は
例外で死ぬ
だから例外を可視化する
中継点は回り始める。
ガイルが樽を数えて、荷車を組む。
二台。三台。小分け。
市場へ流す。
ミナが帳面に書く。
日付/樽数/行き先/受け取り人/印
フィンは札の位置を整える。
邪魔にならない高さ。見える角度。
細部が効く。
俺は手を出さない。
口だけ出す。判断だけ。
これが理想。
4)市場での暴走を止める “買い占め”は空気で起きる
市場へ塩が届くと、人が寄ってくる。
寄ってくるのは自然。
自然を止めるな。枠に入れろ。
俺は昨日の市場ボードを見た。
塩:普寄り
ここを守る。
守れれば、勝ち。
魚屋が近づいてくる。
お、今日は多いな
全部買っていいか?
買い占めは“気持ち”で起きる。
気持ちを否定すると揉める。
だから枠を出す。
俺は短く言う。
一人あたり上限
今日は店単位で樽1/4まで
残りは午後便を見て増やす
魚屋が眉をひそめる。
上限?
上限があると安心する
午後も来るから
今全部取る必要がない
魚屋が舌打ちするが、ボードを見て落ち着く。
午後も来るのか
来る
日課だから
八百屋が口を挟む。
その上限、誰が決める
俺が決めない
“日課”が決める
午前が少ないから上限
午後が多いなら上限緩める
それだけ
ミナが小声で感心する。
上限を“状況”で決めてるのに
ルールに見える…
ルールは人を落ち着かせるための道具だ
完璧じゃなくていい
運用できれば勝ち
ガイルが荷を下ろしている間、誰も揉めない。
たったそれだけで、市場の空気が静かになる。
レイナが小声で言う。
静かは勝ち
あなたは静かを作れる
5)門の詰まりを“先に”抜く 列は分割で守る
門へ戻る。
午前の列は昨日より短い。
理由は単純。流れができたから。
でも、列は油断すると戻る。
戻る前に、型にする。
俺は門の外に札を下げた。
仮検査(固定)
・書類と荷印だけ
・印が付いた荷車は門へ
・印なしは列の後ろへ
門兵の隊長が俺を見て言う。
今日もやるのか
やる
日課にする
門を詰まらせない
隊長は息を吐いた。
助かる
でも、人が足りない
足りないなら“手順”で補う
ガイル、仮検査の台に立て
荷印だけ見て、印を押す
判断しない
見るだけ
ガイルが頷く。
見るだけ
ミナ
印の番号を帳面に控える
後で揉めた時に追える
ミナが即答。
番号控えます
門兵は検査を続ける。
でも門の中で詰まらない。
外でふるい分けるから。
フィンが小声で言う。
昨日より…静かだ…
日課の勝ち
まとめ 右腕は“全部できる人”じゃない
昼前。拠点倉庫に戻る。
板が出た。
稼働:4時間58分
残り:1時間02分
推奨:終了準備
ここで欲張らない。
欲張るとCを増やす。
Cが増えると死ぬ。
俺は三人に言う。
報告は3行
今、ここで言え
ガイルが言う。
結果:午前便、塩樽6を中継点→市場へ搬入
問題:門外で一台、書類不足で止まった
次:午後便で書類不足は最後尾、門兵に伝達済み
ミナが言う。
結果:帳面記録、樽数と受け取り印、全て揃い
問題:市場で上限を知らない店が混乱
次:市場ボードに上限欄を追加、午後までに札作成
フィンが言う。
結果:札の位置調整、仮検査と中継点の導線が見える化
問題:札が風で揺れて見えない箇所
次:紐を二重にして固定、今日中にやる
完璧。
これが俺の欲しかった世界だ。
俺が全部やらない世界。
レイナが静かに言う。
あなたは今
右腕に見える
でも実態は
仕組みの中心
仕組みの中心でいい。
剣の中心じゃなくて。
ここで、リオネルが入ってきた。
迅殿
領主から
次の詰まりが来た
嫌な予感がする。
いや、予感というより確定。
リオネルが紙を渡す。
木材と鉄
建設が始まる
資材が足りない
そして…値が上がってる
来た。
塩の次は資材。
街が“作る段階”に入ると、必ずここで詰まる。
レイナが即断する。
明日のA
資材
でも今日と同じ
先に少量を流す
価格を落とす
中継点を拡張しない
塩の形をコピーする
俺は頷いた。
塩の形をコピー
それなら早い
フィンが目を輝かせる。
コピー…!
ガイルが笑う。
塩のRTA、資材でもやるのか
やる
ただし今日より短く
俺は寝たい
ミナが冷静に言う。
型があるなら早いですね
帳面もそのまま流用できます
そう
型は財産
板が最後に通知を出す。
明日の優先度A:木材と鉄の“少量先行”で空気を落とす
B:市場ボードに上限欄追加(運用固定)
C:棚3本目
レイナが言う。
今日は終わり
右腕は
長く動ける方が勝つ
分かってる
異世界八日目、終了。




