第7話 隊商遅延RTA 戦わずに塩を流して、街の空気を先に守る
朝。
拠点倉庫の空気は冷たい。
冷たい日は頭が回る。回る日は、余計なことをしない。
板を開く。
本日の稼働上限:6時間
現在:0時間00分
レイナの声が静かに刺さる。
今日のAは塩
塩が止まると食が止まる
食が止まると街が荒れる
荒れる前に流す
分かってる
戦闘はしないで、流すやつだな
そう
あなたの領域は物流
剣は持たない
流れを持つ
扉がノックされた。
入る!
フィンが入ってくる。今日は少し落ち着いてる。
成長してる。怖い。
市場ボード、塩が高になってました!
魚屋が朝からピリピリしてます!
ピリピリは放置すると爆発する。
爆発したら時間が死ぬ。
俺は拠点ボードを指さした。
今日の順番
A:隊商遅延の原因特定
A:塩を“先に少量”でも街へ入れる
B:中継点を仮運用
C:拠点棚を増やす
フィンが頷く。
少量でも先に!
そう
最初の一滴で空気が変わる
まず原因 遅延はだいたい三種類
ギルドに着くと、受付の女性がもう顔で分かる疲れ方をしていた。
塩の件ね?
はい
隊商どこで止まってます
東門の外
入ってこない
護衛が足りないって言ってる
あと門の検査が遅いって怒ってる
レイナが即まとめる。
遅延は三種類
1)道が詰まってる
2)手続きが詰まってる
3)怖くて動かない
全部ある
全部は直さない
最短で流す
俺は頷く。
最短で流す
だから今日は塩だけ見る
フィンに言う。
フィン
君の仕事は記録と案内
誰が何を嫌がってるか
それを短く書く
感想はいらない
はい!
東門へ向かう。
門の外は、荷車が並んでいた。
列の空気が悪い。嫌な匂いのする悪さじゃない。焦りの匂い。
並ぶ荷車の先頭に、塩樽の印が見えた。
隊商の頭らしい男が腕組みして門を睨んでいる。
俺は前に出る。
隊商の責任者は誰
男がこっちを見る。顔が険しい。
俺だ
マラ
何だ
俺は短く言う。
臨時物流監督官
塩を街に入れる
止まってる理由を三つまで言え
マラが眉をひそめた。
三つまで?
長い説明は揉める
三つまでなら直せる
マラは少し黙ってから吐き捨てるみたいに言った。
一つ
護衛が足りない
最近盗賊が増えた
二つ
門の検査が遅い
列が動かない
三つ
塩の値が上がってる
焦ってる連中に絡まれるのが嫌だ
全部揃った。
レイナが静かに言う。
よし
戦わないで解決できる
順番はこれ
1)門の列を分割
2)検査を前倒し
3)塩を先に少量だけ通す
護衛は増やさない
護衛を“集中”させる
俺は頷いた。
マラ
塩を全部一気に入れるのは今日じゃない
先に少量だけ入れる
それで市場の空気を落とす
マラが目を細める。
少量?
少量でいい
最初に塩が市場に見えるだけで
買い占めの熱が落ちる
熱が落ちれば絡まれない
マラは鼻で笑った。
理屈は分かる
でも門が動かない
動かす
ただし俺が門兵を殴るわけじゃない
流れを変える
俺は門を見た。
検査台が一つ。人が二人。荷車がでかい。
これ、詰まる。
俺はフィンに言う。
フィン
列の横に縄を張れ
塩の荷車だけ、別の細い列を作る
名前は短く
塩優先、って書け
フィンが走る。
はい!
レイナが小声。
言葉は短く
説明は後
先に形を作れ
俺は門兵の隊長らしい男に近づく。
検査、遅い
今のままだと街が荒れる
塩だけ先に通す
隊長が睨む。
勝手に決めるな
不正が増える
不正は増やさない
増やすのは流れ
検査を減らすんじゃない
検査の場所を変える
隊長が眉を上げる。
場所?
俺は指をさす。
門の中で検査してるから詰まる
門の外に“仮検査”を置く
そこで書類と荷印を見て
通す順番を決める
門の中は通すだけにする
隊長が腕組みした。
人がいない
人は増やさない
隊商から一人
ギルドから一人
門兵は今のまま
役割を分けるだけ
隊長は渋い顔をしたが、列を見てため息を吐いた。
……やる
ただし塩だけ
今日だけだ
今日だけでいい
今日だけで空気が変わる
隊長が頷いた。
よし
仮検査を作れ
塩を先に通す 最初の一滴で街が静かになる
仮検査台は、木箱を二つ並べただけ。
でも役割が分かれると、途端に機能する。
フィンが札をぶら下げた。
仮検査
書類と荷印だけ
終わった荷車は印を付ける
俺はマラに言う。
塩樽の荷車を二台だけ出せ
二台だけ
護衛はその二台に集中
マラが目を細める。
二台で足りるのか
足りる
足りないなら二台追加
一気にやると列が死ぬ
列が死ぬと誰も得しない
マラは短く息を吐いて頷いた。
分かった
二台出す
護衛の数は増えない。
でも二台に集中するだけで、怖さは減る。
仮検査が回る。
門の中は通すだけ。
列が動き始めた。
俺は門の内側に入って、すぐ市場へ向かうよう指示した。
寄り道するな
市場へ直行
塩が見えれば勝ち
塩樽を積んだ荷車が、ぎしぎし音を立てて街へ入る。
その瞬間、周りの空気が一段落ちたのが分かった。
人は見えるものに弱い。
見えたら落ち着く。
レイナが静かに言う。
今、勝った
まだ終わりじゃないけど
街の空気が先に守れた
市場に着くと、魚屋がこっちを見て目を丸くした。
塩…来たのか?
来た
二台だけ
でも今日中に追加も入れる
落ち着け
魚屋が舌打ちしながらも、顔が緩む。
……助かる
八百屋もボードに書き換えた。
塩:高 → 普寄り
数字じゃない。
でも普寄りの一言で、買い占めの動きは鈍る。
フィンが小声で言う。
ほんとに空気が変わった…
最初の一滴
これがRTAの要
中継点 全部を運ばない、分けて回す
次はB。
中継点の仮運用。
俺たちは街の南、差し押さえ倉庫へ向かった。
昨日領主が言っていた場所だ。
中は汚い。
でも空いている。空いているだけで価値がある。
俺はマラと隊長を呼んで、短く言った。
ここを中継点にする
隊商はここまで運ぶ
市場へは小分けで流す
門で詰まらない
市場で揉めない
マラが眉をひそめる。
俺たちは直接売って金にする
中継点に置いたら、盗まれる
盗ませない
番を一人置く
ギルドの札を貼る
盗んだら街で売れなくなる形にする
売れないものは盗まれにくい
隊長が頷く。
門兵を一人回す
ただし仮だ
塩が落ち着くまで
マラが少し考えてから言った。
……分かった
でも帳面が必要だ
何が何樽、どこへ行ったか
そこでフィンだ。
フィン
帳面の型を作る
短く
書く欄は五つまで
フィンが即座に言う。
はい!
日付/樽数/行き先/受け取り人/印!
それでいい
完璧
レイナが小声。
あなたが書かない
フィンが書く
あなたは判断だけ
上限を守れてる
俺は頷いた。
中継点の札を下げる。
塩 中継点(仮)
搬入:午前/午後の2回
搬出:市場へ小分け
記録:帳面必須
これで、隊商は門前で全量を抱えなくていい。
市場も全量を一気に飲み込まなくていい。
流れが細くなるほど、止まりにくくなる。
仕上げ 怖くて動かないを、動ける形にする
最後に残るのは、隊商の怖さだ。
盗賊。絡まれ。値上がり。
でも、怖さはゼロにならない。
ゼロにしようとすると、戦闘になる。
戦闘は俺の仕事じゃない。
だから、怖さを枠に入れる。
俺はマラに言った。
護衛は増やさない
でも“護衛の見える位置”を固定する
塩の荷車は必ず先頭と最後尾に護衛を置く
それだけで、怖さが落ちる
マラが笑う。
増やさないのに、安心が増えるのか
配置だけで変わる
人の脳はそうできてる
隊長が頷いた。
門の外で揉めたら
門兵が出る
ただし中には入れない
外で片付ける
それでいい
中に持ち込むと、詰まる
レイナが静かに言う。
戦わずに勝つ
今日もできた
あなたの役目は、恐怖を管理できる大きさにすること
俺は息を吐いた。
よし
今日はここまでだ
板を見る。
稼働:5時間11分
残り:0時間49分
推奨:終了
ギリギリだけど、守れてる。
領主の呼び方が変わる でも、仕事は増やさない
帰り際、リオネルが待っていた。
相変わらず速い。
迅殿
塩が市場に出た
領主が呼んでいる
嫌な予感しかしない。
呼ばれる=仕事が増える。
レイナが即釘を刺す。
行く
でも短く
成果だけ報告
追加の依頼は受けない
上限を盾にする
了解。
領主の部屋。
机の上は相変わらず整っている。
領主が俺を見るなり言った。
迅
塩を流したな
街の空気が落ちた
はい
少量先行
中継点で分割
門前の詰まりを分けました
領主が頷く。
剣で盗賊を斬るのは誰でも思いつく
だが
盗賊がいても街が止まらない形を作るのは難しい
お前はそれをやった
俺は即答する。
俺は戦えません
でも流れは作れます
領主が短く笑った。
それでいい
今日から呼び方を変える
迅
俺の右腕だ
右腕。
重い言葉。
でも、ここで浮かれたら終わる。
俺は一拍置いて、言った。
ありがとうございます
ただし稼働は一日六時間
増やすなら、手足を増やしてください
俺は体が一つです
領主の目が細くなる。
怒ってない。むしろ、面白がってる。
よし
なら手足を増やす
ギルドから二人追加で付ける
お前は判断役に徹しろ
それは助かる。
でも、教育が必要。
教育は時間を食う。
時間は上限がある。
レイナが小声で言う。
次の章のテーマ
手足を増やす=仕組みを渡す
あなたが全部やらない世界にする
俺は領主に頷いた。
了解です
まずは教育の型を作ります
A/B/Cとテンプレで
領主が机を指で二回叩いた。
良い
明日は塩の搬入を安定させろ
そして次は
木材と鉄
街は作る段階に入る
建設が始まる。
建設が始まると、資材が詰まる。
詰まると、また俺の出番。
でも今日は終わり。
終わらせるのも仕事。
拠点倉庫に戻ると、フィンが中継点の帳面を抱えて待っていた。
これ、型どおり書けた!
樽数、行き先、受け取り人、印!
完璧
君は今日のMVPだ
フィンが照れて耳を赤くする。
えへ…!
板が最後に通知を出す。
明日の優先度A:塩搬入の安定運用(午前/午後の固定)
B:新しい手足の教育テンプレ作成
C:拠点棚増設+中継点の札整備
レイナが静かに言った。
寝ろ
右腕は寝ないと折れる
分かってる
異世界七日目、終了。




