第66話 月末箱は口を閉じる、箱は二つにしない
朝、凍結でいい。昨日までで出口と受け取り口は形になった。形になった瞬間に来るのが、数字で燃やすやつだ。横流し、無料、差額、抜き取り。言葉は強いけど、強い言葉ほど箱に落とせば痩せる。今日は月末箱。受領票を束ねて、口の逃げ道を塞ぐ。進捗は一つ。箱を増やさない。文を増やさない。説明もしない。
レイナ、今日
進捗一つ。月末箱を作る。受領票は日付束数札番号のみ。紙は束ねて月末箱へ。箱は一つ。二重底は作らない。検収日を固定。閲覧口を作らない。穴と封印札で一致
了解
検収日は七日に一回。凍結日に合わせる。口が増えない
了解
フィンが欠伸しながら言う。
月末箱って、いよいよ役所っぽくなってきたな
役所じゃない。燃えないための箱
ミナが帳面を抱えて頷く。
受領票が散ると、拾う人が増えます。拾う人が増えると、言い訳も増えます
言い訳は燃える
ユハが短く言う。
燃やさない
ゼフが木箱を叩く。
箱は一つ
箱は一つ、だけど中を二つに分ける誘惑がある。未検収と検収済み。紛らわしいから。だが分けると入口が増える。入口が増えると口が増える。口が増えると燃える。だから分けない。分けない代わりに、時間で切る。検収日は固定。固定は燃えない。
ミナ、受領票の束ね方を決める
ミナが即答する。
一週間ごとに紐で束ねます。紐色を週で変えません。変えると覚えゲーになります
覚えゲーは燃える。誰でもできる形にする
なら、穴だな
レイナが短く言う。
紐は一本。結び方固定。束は札番号順に並べない。並べると偽が混ざる。混ぜるなら検収日に箱の中でのみ触る
了解
ゼフが使ってない木箱を持ってきた。新しい箱は増やさない。既存を回す。箱の外に大きく字は書かない。外に字があると覗く口が増える。覗く口が増えると燃える。印は内側の穴だけ。穴は喋らない。
ゼフが短く言う。
内側に穴三つ
三つ?
月末箱。束ね箱二、出口箱一、受領箱一。月末は三。混ざらない
混ざらない形は強い。強い形は静かだ。
板は三行まで。月末箱も板がないと口で説明する羽目になる。口は燃える。燃やさないために板で終わらせる。
ミナが板を持ってくる。
月末箱(受領票保管)
検収は週一(凍結日)
閲覧は窓口対応のみ
窓口対応のみ、は少し強い。強い言葉は反発を呼ぶ。反発は燃える。もっと短く、もっと冷たく。
レイナ
短く
窓口でのみ
ミナが即答で書き換える。
月末箱(受領票)
検収は週一(凍結日)
閲覧は窓口でのみ
これでいい。説明がない。ないから燃えない。
箱の置き場所は工房奥、鍵の横。外から見えない。見えない箱は話題になりにくい。話題にならないなら噂が座れない。箱は机の上じゃなく棚の下。棚の下は目線が落ちる。目線が落ちると止まらない。止まらないなら勝ち。
フィンが言う。
見えない場所に置くと、逆に怪しいって言われない?
怪しいと言う口は必ず出る。だから怪しいを箱で吸う
ミナが頷く。
怪しいは、紙で吸えます。閲覧は窓口でのみ。で終わります
終わる文が正義
ここでブラントが入ってきた。手に小さい袋。中身は封印札用の薄い木片だ。ゼフが作るのを分かってて先に揃えてきた顔。
これ。封印に使え。札を増やすんじゃなく、穴で一致させるやつ
助かる
ブラントが笑う。
領主のところに行くときに、箱が勝手に開いたら終わるからな
終わらせない。開ける口を作らない
レイナが短く言う。
封印は札でなく形。紐と穴。破れば対象外。触らせない
封印は簡単にする。複雑にすると運用が燃える。紐を一周、結び方固定。結び目の上に薄木片を挟む。薄木片には穴三つ。紐の通し方は一種類。抜いたら跡が残る。跡が残ると嘘がつきにくい。嘘がつきにくいと燃えない。
ゼフが結び方を一回だけ見せる。
これ。毎回同じ
ミナが言う。
紙にしません。見せるだけでいいです
紙にすると真似が始まる。真似は燃える
ユハが短く言う。
見せない。固定だけ
午前の返却が回る。端材も束ね箱へ入る。出口箱も夕方一回。受領票も出る。出たらすぐ月末箱に入れたい衝動がある。でも衝動で動くと箱を開ける回数が増える。回数が増えると観察される。観察されると燃える。だから入れるのは検収日だけ。検収日までは受け取り箱の隅。触らない。触るほど燃える。
フィンがわざと囁く。
今、入れたいって思った?
思った
ミナが真顔で言う。
我慢です。回数が増えると燃えます
我慢が運用を強くする
昼前、来た。外の板が増えてる。今日は工房前じゃない。窓口の角、返却棚の角、その間に小さい紙が貼られてる。紙は貼ると止まる。止まると燃える。燃やさないために、貼られた紙を剥がさない。剥がすと正規になる。正規にしない。導線から外す。
紙にはこう書いてあった。
月末箱の中身を見せろ
見せないのは横流し
強い言葉で椅子を作りに来た。椅子は作らせない。
フィンが舌打ちする。
露骨すぎるだろ
露骨は拾いやすい。拾うのは板、終わらせるのは距離
ミナが即答する。
同文で返します
レイナが短く言う。
貼り紙は対象外。剥がすな。読むな。窓口板を一行だけ置き換え。閲覧は窓口でのみ。以上
窓口横板の三行を変えないのが基本だが、今日は一行差し替える。文を増やさない。差し替えるだけ。
閲覧は窓口でのみ、の行の下に小さく足すんじゃない。足すと四行になる。四行は止まる。だから、二行目と三行目を短く寄せて空ける。
ミナが削って整える。
月末箱(受領票)
検収は週一
閲覧は窓口でのみ
凍結日、を落とした。凍結日は内部用語だ。外には週一だけでいい。外の口は情報が少ないほど燃えにくい。燃えにくい口は座れない。
フィンが笑う。
週一だけで、どの曜日か聞かれそう
聞かれたら窓口でのみ、で終わる
終わらせる
貼り紙の周りにユハが立つ。立つだけ。指差さない。怒らない。近づかない。近づくと舞台。舞台にしない。人は止まりかけて、板を見て、流れる。流れれば貼り紙はただの紙だ。紙は喋れない。
子供便が走ってきて言う。
あの人たち、見せろって言ってた
見せない。箱は見せない
子供が言う。
なんで
見せると真似が増える。真似が増えると手が止まる。手が止まると皆が損する
子供が頷く。
損、やだ
損が嫌いな気持ちだけで十分だ。説明を増やさない。
午後、補修班から小さい伝言が来る。受領口にまた偽当番が来たらしい。今度は穴を真似してきた。穴を真似できるなら、次は形を変える?違う。形を変えるとこちらが燃える。燃やさないために、形は変えない。代わりに「紙(条件)」を一枚だけ足す。足すのは補修班側、受け取り時の条件。条件は短く、守れるものだけ。
レイナが短く言う。
穴が真似されたなら、次は時間で切れ。受領は夕方だけ。昼は受け取らない。受領時間を板に一行。増やすなら差し替え。説明しない
了解
受領を夕方だけにすると補修班が困らないか
困る。だが困りは燃えない。困りを受け入れると口が減る。口が増える方が損
ユハが短く言う。
困りは飲む
ミナが頷く。
受領が増えると紙が増えます。紙が増えると燃えます
補修班側の板は四行だった。ここに五行はダメ。差し替える。持ち帰り窓口相談、を落とすんじゃない。落とすと欲しい口が暴れる。だから束数のみ受領、の行に時間を混ぜる。混ぜると長くなるが、止まらない長さにする。
束数のみ受領(番号+穴一致/夕方のみ)
これで一行。読める。止まらない。止まらなければ燃えない。
ブラントが言う。
夕方だけにすると、偽当番が昼に来ても空振りするな
空振りさせるのが狙いだ。観察を腐らせる
レイナが短く言う。
空振りが続くと相手は雑になる。雑を板で拾って距離
夕方、端材出口を回す。補修班受領も夕方のみで一致。ここで月末箱を開けたくなるが、開けない。今日は凍結日じゃない。検収日まで触らない。触らなければ、箱は噂になりにくい。
ゼフが当番札を持って束数を数える。ミナが一行ログ。
時刻 端材出口 補修班 束数
これで足りる。足りると決めるのが強い。
そして確認箱。午前夕方二回は守る。守ると相手が焦って紙を増やす。紙が増えると見たくなる。見たくなると燃える。燃やさない。
確認箱の中は七。偽紙が三、偽札が一、紙切れが二、木片が一。紙切れの一つにこう書いてあった。
月末箱は開けるところを見せろ
もう一つにこう書いてある。
見せないなら領主に言う
フィンが言う。
脅しに入ったな
脅しは弱い。弱いから燃える。燃やさない
ミナが淡々と言う。
内容は記録しません。隔離です
レイナが短く言う。
領主に言う、は言わせろ。領主は数字を見る。数字は箱の中。箱の外の紙は対象外。距離
領主が今日来てないのが良い。来てたら舞台が立つ。舞台にしないために、領主は現場に常駐しない。数字だけで動くのが正しい。
ミナが数だけ書く。
確認箱 受領7
一行ログも短く。
時刻 不明紙3 確認箱 隔離
ゼフが木片を板回収箱へ落とす。木は喋らない。
夜、工房の棚が一段増えた気がした。増やしたわけじゃない。床が綺麗で、箱の位置が決まって、板が短いだけで、空間が広く見える。広く見えると心が軽い。軽いと口が減る。口が減ると、ほのぼのが増える。
フィンが帰り際に言う。
月末箱、覗かれそうで嫌だな
覗かれない形にした。覗きたい口は、覗けないと腐る
ユハが短く言う。
腐らせる
ミナが小さく笑う。
覗けない箱は、噂になりにくいです。噂になりにくいと、読む人も安心します
レイナが短く言う。
次の検収日が勝負。箱を開けるのは内部だけ。開ける動作を見せない。開ける前後の束数だけ板に残す。差分が出たら即説明しない。紙で条件。箱で隔離。距離
了解
俺は板に一行だけ残した。
月末箱は見せない方が燃えない。見せろの紙が増えるほど、箱が効いてる証拠で、効いてるなら同文で黙って回すだけだ。




