第65話 受け取り口は一つ、受け取り言葉も一つ
朝、凍結日でいい。昨日、端材の出口を作った日だ。出口を作った翌日は、運用を固める日になる。固める日は静かで、静かな日は観察が空振りする。空振りした観察は、最後に無茶をする。無茶を拾うのは板で、終わらせるのは距離。
レイナ、今日
凍結日。補修班側の受け取り板を同文化。受領の紙は最小。束数だけ。番号と穴で一致。外の対象外板も短文化。新しい箱は増やさない。確認箱は午前夕方二回
了解
フィンが欠伸しながら言う。
凍結日なのにやること多くね
多く見えるだけ。板二枚。紙一枚。箱は増えない
ミナが帳面を抱えて頷く。
板二枚なら燃えません。言葉が増えないからです
ゼフが当番札箱を指で弾く。
札は増やさない
ユハが短く言う。
増やさない。固定
補修班の工房は、街の端の方にある。うちの拠点ほど整ってないけど、道具が多い。道具が多い場所は口が増えやすい。口が増えると、端材の出口が勝手に増える。出口が増えると欲しいが増える。欲しいが増えると燃える。燃やさないために、受け取り口を一つに固定し、受け取り言葉も一つにする。
歩きながらレイナが短く言う。
敵は受け取り口で燃やす。受け取り側は弱い。弱いから口が出る。口が出る前に板
了解
補修班の工房に着くと、親方が腕組みして待ってた。ブラント経由で話が回ってるんだろう。親方が言う。
昨日の端材、助かった。でもな、うちの連中が言うんだよ。端材ってことは余りだろ。余りが毎日来たら、勝手に持って帰るやつが出るって
出る。出るのが普通。普通を燃やさない形にする
親方が眉を上げる。
燃やさないって、何の話だ
揉めないって意味だ。揉めないなら仕事が回る
親方が笑った。
現場の言葉に直してくれ。揉めない。いいな
ミナがすぐ板を出す。板は口を減らす。口が減れば揉めない。
受け取り口はここだけ
端材は束数のみ受領
持ち帰りは窓口相談
三行。三行が短い。短いと読んで終わる。読んで終わると止まらない。止まらなければ噂が座れない。
親方が板を見て言う。
束数だけってのは分かる。だが窓口相談ってどこだ
窓口はうち。補修班側に窓口は作らない。作ると列ができる
フィンが軽口を入れる。
列ができると、だいたい揉めるんだよ。人間は列で強くなるからな
親方が鼻で笑う。
強くなるってか、口が悪くなる
そう。口が悪くなる前に箱に落とす
ゼフが受け取り口の位置を決める。工房奥、出入口から見えにくい場所。見えにくいと欲しい口が寄らない。寄らないなら勝ち。
ゼフが短く言う。
奥。鍵横。外から見えない
親方が言う。
奥に置くと運ぶの面倒だろ
面倒が燃えない。楽は燃える
フィンが笑う。
楽は燃える、は名言だな。便利箱の時もそうだったし
ミナが真面目に言う。
楽は説明が増えます。説明は燃えます
親方が肩をすくめた。
分かった。奥だ
受け取り口に箱を一つ置く。新しい箱じゃない。補修班の中で使ってない木箱を流用。外に大きく字は書かない。印は内側の穴だけ。うちと同じ。穴の数で役が分かる。口で説明しなくて済む。
レイナが短く言う。
穴は共通化。束ね箱二穴。出口箱一穴。受け取り箱一穴。混ぜない
了解
次は紙(条件)だ。紙は増やしたくない。でも受領の証拠が無いと、後で口が増える。口が増えると燃える。だから紙は最小で一枚だけ。束数だけ。誰が持ってきたかは当番札の番号で十分。番号と穴で一致させる。
ミナが小さな紙片を出して言う。
受領票、これでいいですか
日付
束数
当番札番号
以上。三行だけ。署名も不要。署名があると偽名が生まれる。偽名が生まれると燃える。
親方が言う。
署名いらんのか
署名が無い方が揉めない。番号は嘘をつきにくい
親方が紙を見て頷く。
番号ね。分かった。番号なら俺も好きだ
ユハが短く言う。
受領票は箱へ
そう。紙は箱に入れる。机に置くと口が寄る。箱に入れると喋れない。喋れないと燃えない。
受領票箱も新しくは作らない。受け取り箱の内側に小さい仕切りを入れて、紙だけ入る隅を作る。それで十分。
作業は終わった。板一枚、箱一つ、紙一つ。凍結日でもちゃんと進んだ。進みすぎないのが大事。進みすぎると欲が出る。欲は燃える。
帰り道でフィンが言う。
これで端材の受け取り、揉めにくくなったな
揉めにくい、じゃ足りない。揉めない形にする
ミナが頷く。
揉めない形は、同じ文が並ぶことです
同文。そう。工房側と補修班側で板の文が違うと、そこが口になる。口は燃える。燃やさないために同文。
拠点に戻ると、返却棚は回っていた。表示板も動いてない。穴と釘は強い。強い仕組みは静かだ。
ゼフが棚を見て言う。
差し替え、無理
無理だと分かると、相手は外で舞台を作る。外の箱。外の板。外の声。外は弱い。弱いから燃えやすい。でも燃やさない。
その兆しはすぐ来た。子供便が走ってきた。今日は息が荒い。息が荒い日は外に椅子がある。
子供が言う。
工房の前に板がある。端材は無料って。持ち帰り自由って。人が止まってる
無料。持ち帰り自由。椅子の脚が太い言葉だ。止まる。止まると燃える。燃やさないために、怒らない。責めない。対象外にして導線を外す。
レイナが短く言う。
外板。次は板で燃やす。燃えない返し。短文化。対象外。欲しいは箱へ
了解
工房前に行く。走らない。走ると舞台が立つ。舞台にしない。
工房の道の角に板が立っていた。大きい字で。
端材無料
持ち帰り自由
早い者勝ち
早い者勝ち。これが一番燃える。争いの合図だ。争いが始まると止めるために声が増える。声が増えると噂が座る。座った噂は長い。長い噂は損。損は嫌だ。
俺は板を見ない。見て言い返すと会話になる。会話は燃える。燃やさないために、こちらの板だけ出す。
ミナ、窓口横板に一行、工房手前板に一行
ミナが即答する。
書きます
窓口横板は短く。
端材は工房内のみ(外の無料板は対象外)
工房手前板も短く。
外の板に止まらない
端材は束ね箱へ
欲しいは不明札箱へ
三行。これ以上増やさない。増やすと読む時間が増える。読む時間が増えると止まる。止まると燃える。燃えないために短い。
ユハが無言で立つ。線を作る。跨がせない線じゃない。止まる理由を消す線。
フィンが軽口で人を動かす。
早い者勝ちって書いてあると、急に遅くなるんだよな。みんな止まって読むから
婆さんが言う。
無料なら欲しいけどねえ
欲しいは悪くない。でも欲しいを外でやると燃える。中に落とす
ミナが淡々と言う。
端材は束ね箱へ。必要なら窓口で相談です。外の板は対象外
婆さんが頷く。
じゃあ相談ね
それでいい。相談は窓口で板が受ける。口が受けない。口が受けると燃える。
問題は、外板が立ってること自体じゃない。立ってても誰も止まらなければ木だ。木は喋らない。喋らないなら舞台は育たない。
止まってる人を減らす。減らすのは子供便。
子供、お願い
子供が言う。
なに
板見てねって言って回って。怒らない。案内だけ
子供が頷く。
わかった。板見てねーって言う
子供の声は軽い。軽い声は燃えにくい。燃えにくい声で導線が戻る。戻れば外板はただの木になる。
外板の周りが静かに痩せた。痩せた瞬間、左肩が見えた。遠い位置。わざと見える。見て欲しい。会話を始めたい。会話は燃える。燃やさないために見ない。
フィンが小声で言う。
いるな
いる。いるだけ。触れない。触れないなら距離
レイナが短く言う。
次は受領で割る。無料で釣れないなら、補修班の受領で揉ませる。受領票を狙う。紙は箱に入れろ
了解
戻る。戻る時に外板は触らない。触ると舞台。舞台にしない。導線から外せば勝ちだ。
午後、補修班から使者が来た。親方じゃない。若い衆。顔が固い。固い顔は燃える前兆だ。
若い衆が言う。
親方が言ってた受領口のことなんだけどよ、さっき変なやつが来た。端材を受け取りに来たって。うちの札を持ってるって
札を持ってる?
ゼフが眉を寄せた。
札は増やしてない
若い衆が言う。
札っていうか、木札みたいなのを見せた。番号もあるって
番号。番号があるなら偽りやすい。だから穴も使う。穴は真似しにくい。真似しにくいなら燃えない。
レイナが即答する。
偽当番。番号だけの札は偽れる。穴位置で切れ。補修班側の板に追加一行。穴が合わない札は対象外。受領しない
了解
ミナがすぐ板を作る。補修班側の受け取り板に一行追加だ。三行を四行にしたくない。でもここは追加が一番燃えない。燃えないように一行を差し替える。文を増やすんじゃなく、文を置き換える。
受け取り口はここだけ
束数のみ受領(番号+穴一致)
穴が合わない札は対象外
持ち帰りは窓口相談
四行。でも一行あたりは短い。短いなら止まらない。止まらないなら燃えない。
フィンが言う。
穴が合わない札ってなんだよ、って聞かれそうだな
聞かれたら同文で返す。説明しない。実物を見せない
ユハが短く言う。
見せない
見せない。見せると真似が始まる。真似が始まると追いかけっこ。追いかけっこは燃える。
若い衆が頷く。
分かった。穴だな。穴見せろって言われたらどうする
見せない。板を指す。以上
若い衆が笑った。
強いな、それ
補修班側の板差し替えは、今日の進捗一つを超える。でもこれは火消しじゃない。火を作らせないための最小だ。最小なら燃えない。欲は出さない。
ここで、ブラントが顔を出す。顔が真面目だ。商談じゃない。情報だ。
領主が動いた。今日の外板、耳に入ったらしい
領主が?
噂が嫌いだからな。噂の椅子が立つと潰しに来る。だが潰し方を間違えると燃える
燃やさない。壊さない。対象外で距離
ブラントが頷く。
それを領主にも分からせろ。数字で
数字。領主は数字が好きだ。数字で示すなら、こちらの強みは板(1行ログ)だ。板は燃えない証拠になる。証拠があると、力を使う必要がない。力を使うと燃える。燃やさない。
夕方前、領主が来た。護衛は少ない。現場を見に来る。現場が動いてるかを見に来る。動いてる現場は噂に勝つ。
領主が言う。
端材無料の板が立ったと聞いた
立ちました。対象外。触ってません。導線で外しました
領主が眉を上げる。
触ってないのか。なぜ
触ると正規になります。正規にしない。止まらせない方が早い
ミナが帳面を開いて、短く数字だけ出す。
端材束ね箱稼働。出口は夕方一回。補修班受領は束数のみ。受領票は日付・束数・当番番号だけ。確認箱は午前夕方二回、同文
領主が頷く。
良い。だが偽当番が出たと聞いた
出ました。穴一致で切ります。穴が合わない札は対象外
領主が短く笑う。
穴。お前、穴が好きだな
穴は喋らないから好きです
レイナが短く言う。
穴は形の条件。紙より燃えない
領主が板を見て言う。
板が短いのは良い。だが四行になったぞ
必要最小です。これ以上は増やしません。増やすと止まります
領主が頷いた。
止まらせるな。それが一番だ
領主は外板を見に行く素振りを見せたが、行かなかった。行くと舞台になるのを理解した顔だ。理解してくれると現場は楽だ。楽は燃えると言ったけど、ここで言う楽は違う。口が減る楽だ。口が減る楽は燃えない。
夕方、補修班への端材出口を回す。今日は凍結日だから、出口は同じ一回。昨日と同じ。変えない。変えると観察される。観察されると相手が賢くなる。賢くなると燃える。燃やさないために、相手を賢くしない。
ゼフが当番札を持って出口箱を開ける。束数を数える。数えるだけ。説明しない。値段を生まない。
ミナが板(1行ログ)に一行だけ。
時刻 端材出口 補修班 束数
これだけ。これで領主にも示せる。燃えない。
補修班の若い衆が受け取りに来る。今日は板の四行を指して、何も言わない。言わないのが強い。言わないと口が育たない。育たない口は燃えない。
若い衆が言う。
穴、一致。受領票、書いた。箱に入れた
それでいい。以上
確認箱を開ける。午前夕方二回。ここだけは守る。守ると相手の観察が空振りする。空振りが続くと相手は紙で喋らせようとする。喋らない。
確認箱の中は六。偽紙が二、偽札が一、紙切れが二、木片が一。紙切れの片方にはこう書いてあった。
補修班が横流ししてる
もう片方にはこう書いてある。
無料にしないと街は回らない
燃える言葉を二つ並べた。横流しと無料。どっちも口を増やす。口が増えると燃える。燃やさない。
ミナが淡々と言う。
内容は記録しません。隔離です
フィンが言う。
横流しって言葉、強いな。燃やしに来てる
燃えない。数字がある。束数と受領票が箱にある。穴一致もある
レイナが短く言う。
返答しない。横流しは証拠が必要。証拠は箱の中。箱の外の紙は対象外。距離
領主が一瞬だけ紙を見て、すぐ視線を外した。
噂は嫌いだ。証拠で言え
証拠は箱の中です。受領票は束数だけ。穴一致。板(1行ログ)もあります
領主が頷く。
良い。噂は潰すな。痩せさせろ。お前はそれが得意だ
ミナが板に数だけ書く。
確認箱 受領6
一行ログも短く。
時刻 不明紙2 確認箱 隔離
内容は書かない。書くと紙が舞台になる。舞台にしないために、数だけ。
夜、工房の床は昨日よりさらに綺麗だった。束ね箱に入れる動作が手に馴染んでる。馴染むと迷いが減る。迷いが減ると声が減る。声が減ると、ほのぼのが増える。
フィンが帰り際に言う。
横流しとか無料とか、燃えそうな紙が増えてきたな
増えるほど効いてる。効いてるから焦ってる
ユハが短く言う。
焦り、拾う
ゼフがぽつりと言う。
穴で切った。気持ちいい
ミナが小さく笑う。
気持ちいいのが続くと、読み手も安心します
レイナが短く言う。
次は補修班側の受領票を一枚束ねて月末箱へ。だが進捗は一つ。明日は凍結で良い。外板は触らない。触らせない。距離
了解
俺は板に一行だけ残した。
無料と横流しの紙は来たが、受け取り口が一つなら燃えない。箱が喋らない限り、噂は座れない。




