第64話 端材の出口は一つ、口も一つ
朝、凍結解除。だけど増やさない。今日の進捗は端材の出口を一つに固定する、それだけ。端材は工房が育つほど必ず増える。増えた端材が散ると、拾う口が増える。拾う口が増えると、取り分の口が増える。取り分の口が増えると燃える。燃やさないために、端材は口に渡さず箱に落とす。箱に落とした端材は、出口を一つにして出す。出口が一つだと、導線が喋らない。
レイナ、今日
進捗一つ。端材出口固定。端材は束ね箱へ。出口は夕方一回。窓口ではなく工房内。価格は決めない。譲渡先だけ固定。余計な掲示は出さない。板は三行まで
了解
譲渡先、補修班。固定で良い
補修班に流すと外が騒がない。売りは燃える
フィンが欠伸して言う。
売りは燃えるって、どの世界でも真理だな
ミナが帳面を抱えて頷く。
売りは数字が増えます。数字が増えると話が増えます
話が増えると燃える
ユハが短く言う。
燃やさない
ゼフが工房の鍵を鳴らして言う。
端材、箱
工房に入る前に、返却棚を見る。棚は回ってる。遅延札も増えてない。表示板も動いてない。動かない板が増えた分、目が楽だ。目が楽だと手が動く。手が動けば口が減る。口が減れば噂が座れない。今日も座らせない。
工房の中は木の匂いが落ち着いてきた。作業台の脚も揺れない。内張り枠も形になってきた。形になるほど、人が見に来たくなる。見に来る人が増えると、端材も欲しがられる。欲しがられる前に出口を決める。先に決めた出口は燃えない。
端材は今まで、作業台の下に投げられていた。投げると増える。増えると拾う。拾うと誰のだになる。誰のだは燃える。だから投げない。投げない仕組みを作る。
レイナ
箱の配置
束ね箱は作業台の右。内張り枠の前。歩く導線上に置く。捨てるのではなく入れる動作にする。出口箱は工房奥、鍵側。外から見えない位置。夕方当番で補修班へ一括
了解
ゼフが木箱を二つ持ってきた。新しい箱を増やしたくないから、使ってない箱を回す。中身が変わっても箱は喋らない。喋らないなら燃えない。箱の外に大きく文字は書かない。書くと欲しい口が寄る。寄ると燃える。だから印は内側だけ。
ゼフが短く言う。
内側に穴
ミナが言う。
穴で区別ですね
うん。束ね箱は二つ穴、出口箱は一つ穴。外から見えない面に
フィンが笑う。
穴教団、拡大してるな
教団じゃない。運用だ
束ね箱を作業台の右に置く。手元から近い。近いと入れる。遠いと投げる。投げると燃える。だから近い。
出口箱は奥、鍵の横。奥は静か。静かだと箱は喋らない。喋らない箱に入ると、端材が街に喋らない。
次は板。三行まで。長いと止まる。止まると見学箱みたいな椅子ができる。椅子は噂の餌。餌を作らない。
ミナが板を持ってくる。
文、これでいいですか
束ね箱へ(端材は投げない)
出口は夕方一回(補修班へ)
欲しいは窓口ではなく不明札箱
最後の一行が効く。欲しいが出た時に口で言わず箱へ落とせる。窓口に寄せないのも大事。窓口に寄せると列ができる。列は燃える。燃やさない。
レイナが即答する。
三行、良い。欲しいを箱に落とすのが勝ち筋。窓口を混ぜない
板を作業台の前、目線の高さに釘で固定する。固定は燃えない。固定が増えるほど、現場は口を使わなくて済む。口を使わない現場は強い。
ここでブラントが工房に顔を出した。匂いを嗅ぐのが早い。
端材の出口、決めたか
決めた。補修班に流す。夕方一回。売りはしない
ブラントが頷く。
正解。売りは今やると燃える。欲しいやつが増えた瞬間に値段が生まれる。値段が生まれると噂が座る
噂は座らせない。今は静かに整える
ブラントが出口箱を見て言う。
補修班に流すなら、補修班側にも同じ板が要るぞ。受け取り口がバラけると燃える
補修班の工房にも同じ出口箱を置く。受け取りは当番札で固定。今日の進捗はここまで。補修班側は明日以降
ブラントが笑う。
進捗一つ、守るな
守る。欲が出たら燃える
午前の作業が始まる。内張り板を切って、枠に合わせて、余りが出る。余りを束ね箱に入れる。入れる動作が増えると投げる動作が減る。投げないと床が綺麗になる。床が綺麗になると気分が良い。気分が良いと口が減る。口が減れば噂が痩せる。ほのぼのはこうやって作る。
フィンがわざと大げさに言う。
はい余り発生。投げたい衝動発生
投げたら当番札一日没収
フィンが目を丸くして笑う。
罰が重い
罰じゃない。燃えないための固定
ミナが淡々と言う。
投げると拾う人が増えます
拾う人が増えると分け前が増えます
分け前が増えると燃える
ユハが短く言う。
燃やさない
フィンが束ね箱に余りを入れる。
はい、入れました。俺、成長しました
成長は箱が作る
午前の途中、子供便が工房の前をうろうろし始めた。見るだけならいい。でもうろうろが増えると、誰かが声をかける。声をかけると口が増える。口が増えると燃える。燃やさないために、子供のうろうろも導線にする。叱らず吸う。
俺が言う。
子供、今日から端材便
子供が言う。
なにそれ
束ね箱がいっぱいになったら、こっそり出口箱まで運ぶ。走らない。静かに。終わったら札を返す。以上
子供が目を輝かせる。
やる!
フィンが笑う。
こっそりって言うと楽しくなるな
楽しいは燃えない燃料。口じゃなく手で回す
ゼフが小さい当番札を出した。端材便札。札は増やしすぎないが、これは子供便札の派生で、表には書かない。内側に穴一つ。子供が持つ札には穴一つで十分。外に見せないから真似も起きにくい。
レイナが即答する。
子供便で吸うのは正解。端材は欲しがりを呼ぶ前に動かす。動かす導線を子供に渡すと、外の口が減る
端材便が動き始めると、工房前のうろうろが消えた。子供は役があると止まらない。止まらない子供は燃えない。止まる大人が燃える。止まる大人を作らない。
昼前、来た。左肩じゃない。左肩の匂いだけがする男。薄い代役。代役は雑。雑は拾いやすい。男が工房の入口で言った。
端材、余ってるだろ。もったいねえ。こっちで集めてやる。楽になるぞ
集めてやるは奪う口だ。奪う口は燃える。燃やさないために、会話しない。板と箱で終わらせる。
ミナが即答する。
端材は束ね箱へ。出口は夕方一回、補修班です。個人回収は対象外
男が言う。
対象外って何だよ。もったいねえって言ってんだ
もったいないは補修班へ流して終わる。あなたが口を増やす必要はない
フィンが軽口で刺す。
もったいないの口は、箱で吸うんだよ。今ここ、箱強いからさ
男が苛っとして言う。
じゃあ補修班に俺が運ぶ
運ぶのは当番札だけ。札がないなら触らない
ユハが短く言う。
触らせない
男が言う。
なんでそこまで
燃えないため。以上
レイナが即答する。
説明しない。説明は舞台。舞台にしない
男は引いた。引くしかない。ここで怒鳴れば目立つ。目立てば損する。損するなら引く。引いたら勝ち。勝ちは追わない。追うと燃える。
昼、確認箱は開けない。即答しない。今日は端材の出口ができた日だ。相手は必ず紙を入れてくる。紙は開けると舞台。舞台にしない。
フィンが言う。
端材って、地味に危ねえな
地味が危ない。地味が積もると燃える
ミナが頷く。
地味は誰の仕事かが曖昧になります
曖昧は燃える。だから当番札と箱と板
ユハが短く言う。
固定
午後、束ね箱はいっぱいになる。いっぱいになったら、子供便が静かに奥へ運ぶ。出口箱へ落とす。落としたら箱は喋らない。喋らないなら外の口が増えない。増えないなら燃えない。
ここで一回、危ない揺れが来た。工房の外、道の角に、小さな木箱が置かれていた。札は端材無料。無料は燃える言葉。無料の箱は列を作る。列は噂の椅子。椅子を作らせない。
フィンが見て舌打ちした。
来たな。無料箱。最悪
ミナが言う。
触りません。板で返します
レイナが即答する。
無料箱は舞台。触ると正規になる。正規にしない。端材の出口は工房内。外の箱は対象外。導線を外す
俺は走らない。走ると舞台が立つ。立つと燃える。燃やさないために、先に板で返す。
ミナ、窓口横板に一行追加
ミナが即答する。
外の無料箱は対象外。端材は工房内の束ね箱へ
これで十分。怒らない。責めない。入れた人も悪くない。悪くないと言うだけで火は消える。火を出してないけど、揉めの芽は消える。
次に導線を外す。無料箱の前を通る導線を作らない。工房へ入る人は工房の入口へ。返却棚へ行く人は返却棚へ。間に止まる場所を作らない。止まる場所がなければ箱は木になる。木は喋らない。
ユハが無言で立つ。線を作る。跨がせない線じゃない。迷う理由を消す線。
俺が言う。
外の箱は正規じゃない。入れた人は責めない。端材は工房内。欲しいなら不明札箱へ
婆さんが言う。
端材、もらえるのかと思った
もらえないとは言わない。もらう口が増えると燃えるから。代わりに出口を固定する。
補修班に回す。必要なら窓口で相談
婆さんが頷く。
じゃあ窓口ね
そう。窓口。列を作らない窓口。板で終わる窓口
無料箱の周りは静かに痩せた。誰も止まらない。止まらなければ無料箱はただの木。木は喋らない。喋らないなら舞台は育たない。
ここで左肩が遠くに見えた。見える位置。わざと見える。見て欲しい。見て欲しいは会話の入口。会話は燃える。燃やさないために、見ない。俺は板を見る。箱を見る。人を見ない。
フィンが小声で言う。
あいつ、悔しそうだな
悔しさは燃料。燃やさなければ腐る
ユハが短く言う。
腐らせる
ミナが小さく笑う。
腐らせる間に、こちらは整える。静かで気持ちいいです
夕方、今日の出口を回す。出口は夕方一回。これが大事。一回に固定すると、欲しい口が待てなくなる。待てない口は勝手に燃える。でもこちらは燃やさない。燃えた口は対象外にして距離。
ゼフが当番札を持って出口箱を開ける。中身は束ねられた端材。束ねられてると数えやすい。数えやすいと喋らなくて済む。喋らないと燃えない。
ミナが板(1行ログ)に一行だけ書く。
時刻 端材出口 補修班 束数のみ
束数だけ。量の細かい説明はしない。細かいと値段が生まれる。値段が生まれると燃える。燃やさない。
補修班の人間が受け取りに来る。受け取り口も工房の奥、鍵の横。外から見えない。見えないなら欲しい口が寄らない。寄らないなら燃えない。
補修班の男が言う。
助かる。端材、いつも散って拾うのに口が荒れてた
口が荒れる前に箱に落とした
補修班の男が笑う。
箱、強いな
箱は喋らないから強い
ここで確認箱を開ける。午前夕方の二回は守る。守ると相手の観察が空振りする。空振りは腐る。
確認箱の中は五。偽紙が二、偽札が一、紙切れが一、そして小さい木片が一つ。紙切れには短く書いてある。
端材、無料の方が人が喜ぶ
喜ぶ。喜ぶを餌にして燃やしたい。燃やさない。
ミナが淡々と言う。
内容は記録しません。隔離です
フィンが言う。
無料の方が喜ぶって、悪くない理屈なのが腹立つな
悪くない理屈ほど燃える。燃える理屈は箱に落とす
レイナが即答する。
無料は椅子を作る。椅子が噂を育てる。育つ前に出口固定で潰した。正しい
ミナが板に数だけ書く。
確認箱 受領5
一行ログも短く。
時刻 不明紙1 確認箱 隔離
木片は板回収箱へ。木は喋らない。
夜、工房の床は綺麗だった。投げない、束ねる、出口一つ。たったこれだけで空気が変わる。空気が変わると会話が減る。会話が減ると燃えない。燃えないと、ほのぼのが増える。
フィンが帰り際に言う。
端材、地味にデカい勝ちだったな
地味が積もると街が強くなる
ユハが短く言う。
強い
ゼフがぽつりと言う。
束ねると気持ちいい
ミナが笑う。
気持ちいいは続きます。続くと読者もついてきます
レイナが即答する。
次は補修班側の受け取り板を同文で揃える。進捗一つ。無料箱の再来に備えて、外の対象外板も短文化。だが欲を出さない。明日は凍結日で良い
了解
俺は板に一行だけ残した。
端材の出口を一つにしたら、無料箱は木に戻った。箱が喋らない世界では、喋らせようとする口ほど静かに距離がついた。




