第6話 ギルド依頼仕分けRTA 3本だけ回して、入口を整えて、仕事を増やさない
朝。
拠点倉庫の棚が一本増えただけで、頭の中のノイズが減る。
人間って単純だ。俺も単純だ。
板を開く。
本日の稼働上限:6時間
現在:0時間00分
レイナの声が落ち着いてる。
今日の目的
依頼の山をA/B/Cに仕分けて
今日やるのは3本だけ
それ以上は、あなたが死ぬ
分かってる
3本
3本だけ
扉がノックされた。
入るぞ!
フィンが入ってきた。今日は紙束を抱えてる。
腕がプルプルしてる。
これ、ギルドの依頼です!
昨日の市場の件で、みんな一気に思い出したみたいで…!
思い出すな
静かにしてくれ
でも、この山が現実だ。
現代でもそう。仕組みが回り始めると、未処理のツケがまとめて来る。
俺は机の上を空けて言った。
よし
まず、仕分け台を作る
君は紙を置く
俺はルールを決める
フィンが勢いよく頷く。
はい!
依頼仕分け台 A/B/Cを紙で殴る
俺は木箱を三つ並べた。
箱がないから、紐で区切って仮の枠でもいい。大事なのは区切り。
箱に札を貼る。
A:今日やらないと死ぬ
B:今日やらないと後で困る
C:今日やらなくてもいいけど未来が楽
フィンが目を輝かせる。
ほんとに箱なんだ…!
箱は強い
人の脳は、箱に入れると安心する
安心すると迷わない
迷わないと倒れない
レイナが小声で補足する。
あなたの脳の取り扱い説明書
箱に入れろ
拡張するな
締切を作れ
うるさい。正しい。
俺はフィンに言う。
仕分けルールは4つだけ
これで迷うな
1)期限が今日=A
2)止まる範囲が街全体=A
3)店一軒が止まる=B(ただし食と水はA寄り)
4)気分で良くなる系=C
フィンが書き写す。
期限、範囲、食と水、気分はC!
よし。
じゃあ始める。
フィンが紙を一枚ずつ読み上げる。
荷車が壊れて動けない、運搬が止まる、今日の納品が…
A
運搬が止まるはA
止まるのは連鎖する
次。
井戸の縄が切れた、汲み上げができない、近所の人が困ってる…
水はA
ただし今日は水路が回ってる
井戸が地域限定ならB
場所は?
南側の路地、十世帯くらい…
B
明日までに直せばいい
今日やると3本が崩れる
フィンが少しだけ渋い顔。
でも困ってる…
困ってる
だからB
Bは捨てるじゃない
順番を守る
次。
ギルド倉庫の札が足りない、物が探しにくい…
これはBに見えるけど、実はA寄り
ギルドが詰まると、街が詰まる
でも今日は入口を整える
セットでやる
Aに入れとく
フィンが頷く。
入口…!
次。
工房の釘が行方不明、作業が止まる、今日中に納品…
止まるのはA
今日中って書いてある
A
次。
市場在庫ボードを毎日更新してほしい、担当がいない…
B
仕組みが育つやつ
でも今やらないと枯れる
今日はBの上に置いて、今日の3本に入れるかは後で決める
フィンがメモを取る。
B上…!
仕分けは進む。
紙は箱に落ちていく。
落ちていくほど頭が軽くなる。
レイナが淡々と褒める。
仕分けは成功
あなたは今、依頼を処理してない
入口を処理してる
正しい
入口が整えば、流れが整う。
流れが整えば、俺が楽。
今日の3本 Aの中から、さらに削る
仕分けが終わると、A箱がパンパンになっていた。
これ全部やったら死ぬ。確実に死ぬ。
俺は机に紙を三枚だけ置いた。
今日の3本はこれ
1)ギルド依頼の入口整備(受付テンプレ+仕分け箱の設置)
2)工房の釘行方不明(生産停止=A)
3)運搬の荷車トラブル(物流停止=A)
フィンが目を丸くする。
入口整備もA…?
入口は全Aの親
ここが死ぬと、毎日死ぬ
レイナが静かに言う。
あなたが今日、領主の右腕っぽくなるのはここ
派手な解決じゃない
入口の整備
分かってる。
派手は危険。依頼が増える。
俺はフィンに指示する。
フィン
今日の仕事は二つ
1)入口整備の手伝い
2)残りの依頼をB/C箱に整列して、見える形にする
整列だけ
処理はしない
フィンが真顔で頷く。
整列だけ!
よし、ギルドへ行く。
ギルド入口整備 受付の裏を整えると街が軽くなる
ギルドは朝から人が多い。
依頼の紙を握った人、困り顔の人、怒ってる人、疲れてる人。
受付の女性が俺を見るなり言った。
来た
頼む
朝から地獄
地獄を天国にするのは無理
でも地獄を作業にするのはできる
受付が少しだけ笑う。
その言い方、嫌いじゃない
よし。
俺は受付の横に、三つの箱を置いた。
札も貼る。大きく。
A/B/C
ざわ…って空気が動いた。
受付が小声で言う。
何それ
入口の仕分け
依頼を出す人が、自分で箱に入れる
受付は、Aだけ先に見る
それ以外は後でいい
受付が眉をひそめる。
みんな、Aに入れるんじゃ
入れる
だから次の札も必要
俺はもう一枚の札を出した。
Aの条件(ここ重要)
・期限が今日
・水と食
・運搬が止まって街が詰まる
これ以外はB
受付がそれを見て、少し黙る。
……明文化って、強いな
強い
揉めが減る
揉めが減ると、受付が死なない
受付が深く頷いた。
助かる
レイナが小声で言う。
褒められた
危険
俺は咳払いして次。
受付テンプレを一枚、壁に貼った。
依頼テンプレ(5行)
1)何が止まってる
2)いつまでに必要
3)止まる範囲(自分だけ/店/街)
4)場所
5)連絡先(またはギルド経由)
受付が目を丸くする。
これ、書かせるの?
書かせる
書けない依頼は、まだ依頼になってない
まず整理してもらう
受付が息を吐く。
最高
危険。最高は危険。
でも入口が整うと、もう戻れない。良い意味で。
フィンが横で、紙と炭を配り始めていた。
勝手に動いてる。良い。暴走してない。今は。
人々が、ぶつぶつ言いながらもテンプレを埋め始める。
埋めるだけで、半分解決する依頼が混ざる。
書いてる途中で、本人が気づく。
あ、これ今日じゃなくてもいいな
これ、場所が違うな
これ、まず隣の店に聞けばいいな
受付が俺を見て小声で言う。
……依頼が、勝手に減ってる
入口の勝ち
レイナが淡々とまとめる。
依頼を解決してないのに、解決してる
これが仕組み
工房の釘行方不明 原因は盗難じゃなくて置き場
次、工房。
ヴァルドの工房に入ると、職人たちが焦っていた。
ヴァルドが俺を見て言う。
迅
釘が消えた
納品が止まる
俺は即答する。
盗難じゃない
まず置き場を見る
ヴァルドが眉を上げる。
決めつけるな
決めつけじゃない
確率の話
盗難なら他も消える
今、他は?
ヴァルドが少し黙って答える。
……他はある
釘だけだ
ほら
俺は資材棚へ向かった。
入口近くの即取り棚。
そこに釘が無い。
でも、床の隅に、同じ形の箱が一つ。
中を見ると、釘が入っていた。
俺は言う。
これ、箱が似てる
釘箱が移動してる
誰かが片付けたつもりで、奥にやった
職人の一人が顔を赤くする。
……俺だ
邪魔だと思って
奥に置いた
悪いのは人じゃない
札が弱い
俺は釘箱の正面に札を付け足した。
釘:今日使う
ここ以外に置かない
それから、棚の端に小さく書いた。
返す場所が分からないなら、ここに置く
仮置きゾーン
フィンが感心して言う。
仮置き…!
仮置きがあると、散らからない
散らからないと、探さない
探さないと、生産が止まらない
ヴァルドが腕組みして唸った。
……釘が戻っただけで
工房が静かになった
釘は小さい
でも止まるとデカい
納品は動く。
ここまで30分。
板が出る。
稼働:2時間03分
残り:3時間57分
良好
レイナが言う。
順調
次は荷車
でも、現場に行く前に確認
荷車はどこで止まってる?
フィンがすぐ答える。
北門側です!
朝の納品の列が…!
よし。行く。
荷車トラブル 直すのは車輪じゃなくて列
北門は、荷車が列を作っていた。
一台が斜めに止まり、後ろが全部詰まってる。
現代の渋滞と同じ。
一台が止まると、百台が止まる。
俺はまず、止まっている荷車の御者に聞く。
何が止まった
車輪が鳴る!回らん!
でも押せば少し動く!
回らないんじゃなく、噛んでるだけだ。
そして、直すべきは車輪だけじゃない。列だ。
レイナが短く言う。
最短手順
1)退避ゾーン
2)列を分割
3)故障車は最後に回す
俺はフィンに指示。
フィン
さっき市場で使った縄
あれで退避ゾーン作れ
道の脇に寄せる場所
ここからここまで
フィンが走る。
はい!
俺は列の前に立って、声を張る。
今から列を二つに分ける
急ぎの食料だけ先に通す
木材と石は後ろ
文句は後
まず動かす
御者たちがざわつく。
でも、止まったままが一番嫌だから、動く。
食料の荷車が前へ。
木材の荷車が後ろへ。
列が分割されるだけで、圧が減る。
退避ゾーンが完成した。
俺は故障車の御者に言う。
ここに寄せる
列から外す
外したら、みんなが動ける
御者が焦る。
でも俺の荷が…
今すぐ直す
ただし列を止めたまま直すな
列を守るのが先
列が動けば、あなたも助かる
御者が唾を飲んで頷いた。
……分かった
数人で押して、故障車を退避ゾーンへ寄せる。
列が一気に動き出した。
周りが、目に見えて楽になる。
さっきまで怒ってた人間が、急に静かになる。
人間って単純だ。二回目。
俺は故障車の車輪を見る。
泥と小石が詰まって、軸が噛んでるだけだった。
棒で掻き出す。油を少し差す。
回る。
御者が目を見開く。
回った…!
回った
でも次から止めないために
軸点検をテンプレにする
ギルドで配る
御者が頷く。
配ってくれ…頼む…
これで今日の3本、完了。
板が出る。
稼働:4時間46分
残り:1時間14分
推奨:終了準備
レイナが即座に締める。
ここで帰る
余力を残して終わる
明日のあなたを救う
分かってる。今日は勝ち逃げ。
仕組みは拠点に持ち帰って固定する
拠点倉庫に戻ると、フィンが紙束を棚に整列していた。
B箱、C箱がちゃんと見える。
勝手に処理してない。えらい。
フィンが言う。
整列だけ、守った!
合格
今日から君の評価は上がった
フィンが嬉しそうに笑う。
やった!
俺は机に座って、今日作ったものを三枚にまとめた。
1)ギルド依頼テンプレ
2)工房:仮置きゾーン札
3)荷車:退避ゾーン+列分割手順
これを明日、ギルドに貼る。
貼るだけで、同じ事故が減る。
レイナが静かに言う。
今日、あなたは三つ直した
でも実際は
入口と流れを直した
これが積み上がる
俺は頷く。
で、明日のAは?
板が答えるみたいに通知する。
新規:塩が不足
原因:隊商が遅延
市場価格:上昇傾向
……来た。
市場を落ち着かせた直後に、塩不足。
塩は街のAだ。食が死ぬ。
レイナが即断する。
明日のAは隊商
ただし戦闘はしない
中継点と分割で勝つ
あなたの領域
俺は小さく笑った。
戦わずに勝つやつか
そう
あなたの得意技
フィンがボードを見て言う。
隊商…僕も行く?
行く
でも仕事は分ける
君は記録と案内
俺は段取りと合意
戦うのは護衛
フィンが真面目に頷く。
記録と案内…!
俺は灯りを落とした。
今日の終わりは、気持ちいい。
派手じゃない。
でも街が軽くなってるのが分かる。
そして次は、塩。
塩が止まると、街の空気が荒れる。
荒れる前に、動かす。
優先度A:隊商遅延の解消(分割・中継点)
優先度B:荷車点検テンプレ配布
優先度C:棚2本目
レイナが最後に言った。
寝ろ
勝ちは寝た人間が持っていく
分かってる
異世界六日目、終了。




