第58話 穴具固定と、枠が立つ日
朝、凍結日じゃない。昨日みたいに外で紙が踊る日は、凍結で湿らせて終わらせるのが正解だった。でも湿らせただけだと、相手は次に真似をしてくる。真似は紙で来る。紙で来るなら、紙の真偽を形で切る。言葉じゃなく、穴と具で切る。
レイナ、今日
外の貼紙対策を固める。穴具固定。検査はゲージ。紙は窓口限定。外の案内は板のみ。午後は拠点工房。内張り枠の固定を一つ終わらせる。返却回転は落とさない
ゲージ?
穴の位置を言わずに確認できる形。見せても真似しにくい。具は机内固定
了解
フィンが眉を上げる。
穴の位置言わないのに確認できるって、ズルじゃね
ズルでいい。公平に燃えないのが目的だ
ミナが頷く。
説明せずに納得させる道具ですね
ゼフが嬉しそうに言う。
道具、好き
お前は本当に道具が好きだな
固定できるから
ユハが短く言う。
固定、勝ち
まず穴具固定。昨日までは角穴って言葉だけが先に走ってた。言葉が先に走ると真似が始まる。真似されても困らない形に落とすのが目的だが、追いかけっこになると仕掛けが増えて燃える。だから今日やるのは、増やすんじゃなく固定する。穴はもう使ってる。使ってるものを、漏れないように机の内側に固定するだけ。
ゼフが小さい穴あけ具を持ってきた。見た目はただのパンチ。けど位置が固定されるように、木枠に嵌めてある。嵌めたら動かない。動かない具は真似しにくい。真似しにくいと紙が燃えない。
レイナ
固定位置
ミナ机の内側右奥。具の持ち出し禁止。使用は紙担当のみ。使用回数は板に件数だけ
了解
件数だけ、が大事だ。誰が何に使ったかを書くと燃える。燃えるのは人の話。燃えないのは数。
ミナが板に枠を作った。
穴具 使用件数 午前 午後
これだけ。中身は書かない。
次にゲージ。ゲージは穴の位置を公開しないための形だ。穴が合うと通る。合わないと通らない。それだけ。説明はいらない。
ゼフが小さい木板を出した。角に切れ込みと突起がある。紙の角を差し込むと、穴が突起に通れば正規。通らなければ偽。突起の位置は外から見えないように、板の裏側に隠れてる。これなら見せても真似しにくい。真似しにくいなら燃えない。
フィンが笑う。
お前ら、もう変なパズル屋だな
パズルじゃない。確認だ。確認は燃えない
ミナが小さく言う。
確認は安心です
ユハが短く言う。
安心、静か
窓口横に出す案内は板だけに寄せる。紙は窓口の内側限定。外に貼る紙はゼロ。外に紙が出なければ、偽停止紙は効果が薄れる。薄れるなら相手は別の手に行く。別の手に行く前に、紙の真偽が切れる形を置く。
ミナが窓口横の板に二行だけ追加した。
紙の案内は窓口内のみ(角穴あり)
外の貼紙は回収箱へ(正規確認はゲージ)
ゲージの形は書かない。ゲージがある事実だけで十分。詳しく書くと真似される。真似されても困らないが、追いかけると燃える。燃やさないために詳しくは書かない。
午前の返却は普通に回る。返却が回ってる時に新しい対策を入れるのがコツだ。止まってる時に入れると改善が舞台になる。舞台になると燃える。回ってる時に入れると改善が空気になる。空気は燃えない。
ブラントが返却棚を見ながら言う。
返却回転、もう安定してきたな。次は何で稼ぐ
稼ぐって言葉を言うな。燃える
ブラントが肩をすくめる。
じゃあ増やすじゃなく、整える
整える。整えると勝手に伸びる
ここで相手が来る。左肩じゃなく、左肩の置いた餌が来る。偽停止紙の次は、偽の正規紙。角穴を真似してくるはずだ。真似をしてきた時に、こっちが騒がなければ勝ち。
案の定、窓口に一枚の紙が出た。窓口内限定のはずの紙が、外から回ってきた形。内容は倉庫枠の整理について。文面がやたら丁寧で、こっちの口調に似てる。角に穴もある。
フィンが小声で言う。
来たな、穴真似
真似は想定内。想定内は燃えない
ミナが即答する。
確認します
ミナがゲージを出して、紙の角を差し込む。通らない。突起に穴が合わない。つまり偽。
ミナは顔色一つ変えずに言う。
これは正規ではありません。紙回収箱へ
男が言う。
穴あるぞ
穴があるだけでは正規になりません。正規は窓口内のみです。外から来た時点で無効です
フィンが軽口を添える。
穴は飾りじゃねえんだよ。形ゲーだからな
男が苦笑して紙回収箱へ入れた。これで終わり。騒がない。騒がないから燃えない。
左肩は遠くで見ていた。見ているのに何も起きない。これが一番効く。相手の台本は、俺たちが怒ることで成立する。怒らなければ台本が成立しない。成立しない台本は腐る。腐った台本は燃えない。
レイナ
次の手
偽紙を増やして混乱を狙う。混乱は箱で吸う。紙回収箱を門と角に残す。回収件数は板に数だけ。本文は読まない
了解
回収箱を残すのは凍結日じゃなくても導線補修として成立する。外の紙が出るなら、外に箱があるのが自然。自然は燃えない。
午前の終わり、回収箱には偽紙が二枚。偽停止紙じゃない。偽の正規紙。穴真似。ゲージで切れてる。切れたなら燃えない。
ミナが板に数だけ書く。
紙回収 2
それだけ。内容を書かない。内容を書くと燃える。燃やさない。
昼、領主の使者が来た。今日は顔が渋い。噂が耳に入った日だ。
使者が言う。
紙の偽造が出ていると。領主様が不快だ。印を増やせと言う
印を増やすと仕掛けが増える。仕掛けが増えると現場が迷う。迷うと燃える。燃やさないために、印を増やすんじゃなく「確認を固定する」と返す。
俺が言う。
印は増やさない。穴具固定とゲージで確認を固定した。偽紙は回収箱で吸って数だけ報告する。現場は止めない
使者が言う。
領主様は確実を好む
確実は形で出す。確実を言葉で説明すると燃える。確実はゲージで見せる
ミナがゲージを見せる。穴が通る正規紙の見本は窓口内にだけ置く。見せるのは一瞬。見せすぎない。真似が進むから。
使者が頷いた。
領主様に伝える。印を増やすより、止まらない方が良いと
止まらないのが目的じゃない。燃えないのが目的だ。でも燃えないと止まらない。結果は同じだ。
午後、拠点工房へ移る。今日の進捗は一つだけ。内張り枠の固定。枠は木枠で、内張り板のサイズを揃えるための型だ。型があると、板の品質が揃う。揃うと返却が回る。返却が回ると許可が増える。許可が増えるとまた紙が増える。紙が増えても燃えないように、箱で吸う。全部繋がってる。
拠点工房の中は木の匂いがする。棚はできた。作業台もできた。残りは枠を固定して、作業が迷わないようにするだけ。
ゼフが枠を壁に当てて言う。
ここに固定でいい。高さは肘
肘基準、好きだな
再現できる基準が強い
フィンが笑う。
爪の半分、指二本、肘。人体測定の世界か
人体は毎日持ってる。道具より強い
枠を固定する釘は、抜けない釘。床固定箱と同じ思想。抜けない形にする。枠が動くと板が歪む。歪むと返却が遅れる。遅れると文句が増える。文句が増えると燃える。燃やさないために、枠は動かさない。
ユハが短く言う。
枠、動くと困る
困るのは現場。現場が困ると口が荒れる
ミナが頷く。
口が荒れる前に固定ですね
枠固定が終わったら、枠の前に小さい箱を置く。枠前箱。内張り板の材料が不足した時、声を出して探さないための箱。足りないは燃える。足りないを箱で吸う。
フィンが眉を上げる。
また箱?
また箱。箱は喋らない
ブラントが笑う。
箱に吸わせて、工房が静かに回るなら安いもんだ
ただし今日は仕掛けを増やしすぎない。枠前箱は新規に見えるが、これは工房の導線箱の一部だ。返却レーンの箱と同じで、置き場所を決めるだけ。箱が増えるんじゃなく、箱の役が増える。役が増えても形が固定なら燃えない。
レイナ
工房の勝ち筋
枠固定で品質一定。一定で返却が速い。速いと許可が伸びる。伸びたら紙が増える。紙は穴具とゲージで切る。外は板のみ。循環が閉じる
了解
循環を閉じる。これがほのぼの拠点づくりの気持ちよさだ。敵を倒すんじゃない。循環を閉じて、敵が座れない椅子を増やすだけ。椅子がなければ噂は立ちっぱなしで疲れる。疲れた噂は消える。
ここで小さい事件。工房の枠固定を見に来た補修班の一人が言った。
その枠、うちにも欲しい
欲しいは燃える。欲しいが増えると贔屓が生まれる。贔屓は燃える。燃やさないために、許可の段階を板で返す。
ミナが即答する。
段階許可です。試験導入は一枠だけ。返却回転と破損率の数字で拡大します
補修班が言う。
数字か
数字。数字なら恨みが残らない。恨みは燃える
フィンが軽口で和らげる。
数字に勝てるのは数字だけだぞ
補修班が笑って引いた。笑って引くのは燃えない。
夕方、紙回収箱の回収。門と夜の角と窓口横。合計で偽紙が三枚。穴真似が増えた。でも燃えない。ゲージで切れてる。回収箱で吸えてる。件数だけ板に載せる。
ミナが板に一行。
紙回収 3
それだけ。本文は隔離箱。隔離箱は読まない。読まないから燃えない。
夜便の時間、夜の角の灯りは安定。貼紙は出てこなかった。出ても箱があるから舞台にならない。舞台にならないと、左肩は立てない。立てない奴は座れない。座れないなら終わる。
フィンが帰り際に言う。
今日の敵、穴で死んだな
死んでない。痩せた。痩せたら勝手に消える
ユハが短く言う。
消えるのが一番
ゼフがぽつりと言う。
釘も穴も、喋らない。喋らないのが強い
ミナが小さく笑う。
喋らない世界、落ち着きます
レイナが即答する。
次は偽ゲージが出る可能性。だからゲージは外に出さない。窓口内でのみ確認。外は板だけ。工房は枠が立った。明日は枠運用の箱を一つだけ整える。増やしすぎない
俺は板に一行だけ残した。
角穴は真似されたが、位置は言わずに切れた。枠は動かずに立った。




