第43話 箱が夜を飲み、板が噂を噛む
投稿を始め3日目ですが読んでいただける事が嬉しすぎてドンドン投稿した結果書き貯め分が尽きそうなので勝手ながら1日1~2投稿にさせてくださいませm(_ _)m
朝いち、灯りの角に置いた夜便箱を見に行った。箱の口は狭い。袋だけ入る。板は入らない。入らないから夜は返却だけになる。夜は余計なことを混ぜないのが勝ち筋。
箱の横の枠板に、夜番の字が三つ並んでた。時刻、箱番号、札番号。三枠だけ。余白なし。余白がないから噂が入らない。
フィン、夜便動いたな
動いた。寝てる間に世界が回ってる。最高
ミナが帳面を開く。
夜返却、3件。遅延が1減ってます。数字が素直
ゼフが箱を叩く。
箱が働いた。箱は裏切らない
ユハが角を見て言う。
静か
静かなうちに一段上げる。守りが回ったら、次は許可を伸ばして供給を太くする。太くすると噂が痩せる。痩せると対象外が勝手に消える。
レイナ、今日の芯
夜便回収時刻固定。作業台パック本運用前の検品線追加。返却棚と工房棚を一本化。ギルド便の導線を一つ作る
ギルド便?
朝のうちに噂を先に潰す。今日はギルドが動く日。動く日に混ぜると燃える
フィンが首をかしげる。
レイナ、予知?
数字。昨日の夜のPV山の後は現場が動く。噂が動く前に導線を引く
こいつの即答はいつも鋭い。鋭いと現場が迷わない。迷わないと人が噂を作れない。噂は迷いから生える。
まず夜便回収時刻を固定した。夕方の閉めの前、必ず回収。回収は二人。鍵二本運用と同じ。責任が分散すると止まらない。止まらないと噂が育たない。
ミナ、夜便の紙は?
貼らない。箱の横に掲示で一枚。夜便は返却のみ、番号札を必ず同封。三行で
ゼフ、番号札同封の仕組み
袋に札を紐で結ぶ。紐は切れたら分かる結び方。切れたら補修枠へ
ユハ、夜便回収の立ち位置
角の外から見える位置で回収。人の流れを止めない
フィンが笑う。
回収って言っても、箱持って帰るだけだろ
だけだから強い。だけにすると燃えない
次に、作業台パックの検品線を追加した。作業台パックは使われ方が荒い。荒いと破損が増える。破損が増えると揉める。揉めると噂が燃える。燃やさないなら、破損を揉める前に吸収する。
返却棚の横に小さい台を置いた。検品台。見る項目は三つだけ。汚れ、欠け、札の紐。三つ以外は見ない。見ないから揉めない。
レイナ、検品の板
枠を三つ。合格、不合格、保留。理由は単語一つ。汚れ、欠け、紐切れ
単語一つが最強だ。文章にすると燃える。単語なら燃えにくい。
そこまで準備したところで、街のほうが騒がしくなった。騒がしいのは噂じゃない。足音が多い。現場が動く日だ。
ブラントが走ってきた。息が切れてるのに、口だけは回る。
来たぞ。ギルドから。緊急便。今から手配しろって
内容は
臭い対策の袋、内張り板、あと箱で搬入を揃えたい。午前中に現場入り。納品は正午まで。遅れたら依頼が他に流れる
ギルド攻略RTAだな
フィンが楽しそうに言う。こういうときの軽口は空気を軽くする。軽い空気は燃えにくい。
俺は板を出した。板は感情を書くためじゃない。動線を決めるために出す。
レイナ、ギルド便の導線
既存列に混ぜない。専用窓口一つ。箱でまとめて渡す。紙はギルド用に別。板は納品ログだけ。返却棚は止めない
ミナ、ギルド用の紙
三行でいけます。用途、納品時刻、返却期限。ギルド印を押します
ゼフ、ギルド箱
九百番台で四箱。箱ごと渡す。箱の蓋裏に紙。箱は戻らないと次出ない
ユハ、専用窓口の線
入口の外側、列を切らない位置。通路を塞がない。立ち位置で作る
フィン、ギルド担当の空気
任せろ。相手が急いでても焦らせない。焦らせると燃える
ギルド便窓口を作った。返却棚の列とは交差しない。交差しないから揉めない。箱を四つ並べる。袋と板を箱にセットする。紙は三行。板には納品の一行だけ。
納品。箱九〇一。袋×、板×。時刻。担当印
それだけ。噂が入り込む余地がない。
ギルドの使いが来た。硬い顔。時間に追われてる顔。
時間ない。今すぐ出せるか
出せる。箱で出す。紙はこれ。返却期限は太字
ミナが紙を差し出す。短い。読める。読む前に反論できない。
ギルドの使いが紙を見て、すぐ頷く。
返却期限、三日後。破損申告はここ。分かった
ブラントが横から口を挟む。
箱が戻ったら次も出せる。戻らないなら出ない。それだけだ。値段は据え置き。揉めたくないだろ
揉めたくない
じゃあ回せ
ブラントの商談は短い。短いほど燃えない。
箱が動き出した。ギルド便が箱で流れる。返却棚は止まらない。止まらないから噂が育たない。ここまでは完璧だった。
昼前、嫌な予感が当たった。灯りの角、夜便箱の前に、妙な袋が一つ置かれていた。番号札の紐がない。結びがない。箱の口から入れたくせに、横に置いてある。つまり、箱に入れられない何かがあるか、入れると困る何かがあるか。
フィンが顔をしかめる。
これ、くさいな。匂いのほうじゃなくて人のほう
ミナが即座に言う。
番号札がない返却は受け取らない運用にしました。だからこれは返却じゃない。置き去り
ゼフが袋を覗かずに言う。
覗くと燃える。板に拾う?
ユハが短く言う。
拾わない。動かすだけ
レイナ、どうする
触れない。箱で回避。置き去り箱を別に置く。紙で告知。板は一行だけ、置き去り発生。噂文は禁止
了解
燃えない処理は、見ない、語らない、動かす。俺たちは袋を開けない。中身に興味を持たない。興味は燃料だ。
夜便箱の横に、もう一つ空箱を置いた。置き去り用。蓋は閉める。口はない。勝手に入れられない。箱の上に紙を貼る。三行だけ。
番号札なし返却は受付不可
不明物はここ
中身確認は管轄へ
そして板に一行だけ書いた。
時刻 置き去り発生 箱へ移送
それだけ。誰がやったかは書かない。特徴も書かない。書くと噂の餌になる。餌を与えない。
フィンが小声で言う。
あいつだろ。左肩
分かっても書かない。燃えない
ユハが入口の外を見て言う。
距離、効いてる。見えない
見えないのが勝ち。見えないと燃やせない。
それでも相手は最後にもう一手打つ。噂で燃やせないなら、数字を壊そうとする。返却が狂ってるように見せれば、領主が嫌がる。領主は噂が嫌いだから、数字が汚れるのも嫌いだ。だから数字を汚そうとする。
だが、数字は板の枠で守れる。枠の外を書かせないだけで、数字は綺麗に残る。
ちょうどそのタイミングで、領主の使いじゃなく領主本人が来た。護衛は少ない。目が数字しか見てない。噂を嫌う顔だ。
領主が返却棚を一瞥して言う。
遅延が減っている
ミナが帳面を見せる。言葉は少なく。
はい。夜便箱の3件分で、遅延が1減りました
領主は頷き、次に検品台を見る。
これは
作業台パックの検品線です。三項目だけ。単語一つで板に残します
領主が板の枠を見て、少しだけ口角を上げた。
余白がないのは良い。余白は噂の住処だ
分かってる。だからこそ、領主が乗る。噂を嫌う権力者は、余白のない運用に強い味方になる。
領主が次に夜便箱を見た。
夜に返却させるのは良い。だが悪用はある
もう出ました。不明物は置き去り箱へ移送。板は一行のみ。中身は管轄へ
領主の目が鋭くなる。
誰が置いた
分かりません。分かっても書きません。燃えるので
一瞬、空気が凍るかと思ったが、領主はむしろ頷いた。
よい。分かっても噂にしない。板を汚さない。数字は私の仕事だ
ブラントが横で小さく笑う。
領主様、数字が綺麗だと市場も綺麗です
領主は短く返す。
市場の噂も嫌いだ
ここで領主の判断が降りた。噂を嫌う領主が、運用を褒めるのは珍しい。褒める時は許可が伸びる。
領主が言う。
倉庫パックの許可を一段上げる。補修班にも箱を与えよ。ただし板の写しを毎日出せ。感情語は禁止。行動と数字だけ
レイナ、即答
許可拡大、箱番台を分ける。補修は三百番台。倉庫は二百番台維持。写しは枠のまま。提出は夕方固定
領主がその即答を聞いて、満足げに頷いた。
それでよい。私の右腕は、噂ではなく数字を持つ
フィンがあとで絶対に茶化すやつだと思ったが、今は茶化さない。茶化すと燃える。燃やさない。
領主が去ったあと、現場は軽くなった。許可が伸びると、みんなの目が前向きになる。前向きは燃えにくい。陰口は後ろ向きから出る。
ミナが帳面を抱えて言う。
毎日写し提出、作業は増えますけど、枠があるから増えませんね
増えない。枠の中の単純作業だから
ゼフが嬉しそうに言う。
補修箱、作れる。番号が増えるの最高
ユハが短く言う。
余白なし
フィンがやっと軽口を出す。
右腕って呼ばれたぞ。片腕増えたな
増えたのは腕じゃない。箱だ
午後、ギルド便は予定通り正午前に出た。RTA成功。成功しても騒がない。騒ぐと噂が育つ。成功は淡々と板に残して終わり。
納品完了。箱九〇一〜九〇四。時刻。担当印
それだけ。
拠点工房も進めた。工房棚を返却棚と思想で一本化する。返却→検品→補修→再貸。流れが一本になると、迷いが消える。迷いが消えると噂が消える。
レイナ、工房の導線
入口で箱を受ける。検品台は入口右。補修箱は奥。未使用棚は左。逆走不可に棚の向きを固定
了解
ゼフが棚の向きを変えながら言う。
棚の向きで人は曲がる。曲がると迷わない
ミナが紙を貼る。
棚にも紙は三行。用途、期限、申告先。余計は書かない
フィンが作業台を叩く。
作業台パック、これで荒れない?
荒れても燃えない。荒れは単語で吸う。汚れ、欠け、紐切れ。それだけ
ユハが言う。
殴らない
殴らない。捕まえない。距離と導線で終わらせる
夕方、夜便箱の回収をやった。二人で箱を持つ。枠板の三行を写す。箱の中は番号札付きの袋だけだった。置き去りは置き去り箱に封じたまま。中身は見ない。見ないから燃えない。管轄に渡すまでただの箱だ。
フィンが言う。
見ないって、強いな
見ないのは逃げじゃない。燃料を断つ方法
ミナが頷く。
燃料がなければ火はつかない
ゼフが箱を抱えて言う。
箱は黙る。黙るのが勝ち
ユハが角を見て言う。
対象外、今日も見えない
見えないまま、距離で消える。これが理想の終わり方だ。
レイナ、明日の芯
明日は動かない日を混ぜる。貸出は午前止める。観察を空振り。夜便は継続。写し提出は夕方固定
了解。マンネリ回避、主役は板。拾う基準を一段厳しくする
俺は最後に板へ一行だけ書いた。
箱が夜を飲んだ。板が噂を噛んだ。紙は短く、世界は燃えない。




