第42話 夜便箱と作業台パック
翌朝、返却棚の前で段を見る癖がついた。上段が空いてると安心する。中段が揃ってると回る。下段が増えると、どこかで導線が詰まってる。
フィン、下段どう
昨日より少ない。灰札が減ってる。棚が人を調教したな
調教じゃない。楽なほうに流しただけ
ミナが帳面を開く。
返却件数、増えてます。遅延は減ってる。返却棚の段が効いてますね
ゼフが札掛けを撫でる。
番号が戻る場所が見えると、戻す。人は単純
ユハが入口を見て言う。
静か
静かな時に増やす。守りが回った今は、攻めの拡張だ。
レイナ、今日のやること短く
作業台パック試験。返却回転さらに上げる。夜便箱を設置。板は行動だけ。紙は三行に削る。箱は逆走不可に強化
夜便箱?
返却の選択肢を増やす。返却できる時間が増えると遅延が減る。遅延が減ると噂が減る。噂が減ると対象外は勝手に消える
夜便は前から灯りで角を消してたけど、返却そのものも夜に吸えると強い。昼の列に乗れない人が遅延になって、そこから噂が生まれる。噂は燃料。燃料を抜くなら、昼に来れない人を夜に吸えばいい。捕まえなくていい。追い払わなくていい。吸う導線を増やすだけ。
ミナ、紙を三行に削るって具体
用途。返却期限。破損時の申告先。貸出優先は板の横に掲示でいいです。紙は短いほど読まれる
ゼフ、夜便箱の番号管理
夜便専用の箱を四つ。番号は八百番台。箱ごと返却。箱が戻ったら札が戻る運用にする
フィンが笑う。
夜でも返せるなら、昼に並びたくない人が助かるね。俺も助かる
ユハが頷く。
灯りの角、さらに静かになる
レイナ、夜便箱の置き場所
灯りの届く角。入口から見えるが列の邪魔にならない。箱の前に線は引かない。止まる時間を短く。板は夜番が一行だけ書く枠を用意
夜番の板?
板は枠を作れば誰でも書ける。時刻、箱番号、返却者の札番号。三点だけ。名前は書かない
午前は返却優先を維持しつつ、作業台パックの試験を少量だけ始めた。作業台パックは扱いが荒くなりやすい。借りたまま戻さないのも出やすい。だから最初から箱で縛る。箱が返らないと、次の箱が出ない。次の箱が出ないと、欲が詰まる。詰まると雑になる。雑になったら板が拾える。でも拾う前に、詰まらせないのが目的だ。
作業台パック用の箱を工房から運んできて、返却棚の横に置き台を作った。箱の蓋裏に紙三行を貼る。紙は読むためじゃない。見せるため。返却期限だけ太字。用途は丸。申告先は最後に小さく。
レイナ、箱の貼り位置
蓋裏中央。開けた瞬間に期限が目に入る。破れたら交換。交換も板に一行
了解
返却が回り、貸出が少し混じっても詰まらない。窓口二つが効いてる。並び線二重も効いてる。列が短いと不満が出ない。不満が出ないと噂が出ない。噂が出ないと、対象外の居場所がない。
昼前、対象外の男が遠巻きに現れた。入口の外。昨日と同じ距離。近づけない。近づくと板が拾う。拾ったら距離が増える。距離が増えたら仕事にならない。
フィン、見えてる?
見えてる。今日は目が泳いでない。諦め気味?
諦めさせるのが仕事
ミナが小声で言う。
昨日、紙を支柱に貼ったのが効きました。あれで噂の芯が折れてます
レイナ、対象外の扱い
声は拾わない。動きだけ拾う。線越えと妨害だけ板。紙で殴らない。紙は条件、説明は最小
紙で殴らない、が大事だ。紙で殴ると逆恨みが燃える。燃えない方向に寄せるなら、紙は静かに置く。
男が動いた。昼の列には入らず、夜便箱の設置場所を見に行く。設置前の角。灯りの位置を見て、足元を見て、置けるかどうかを測ってる。夜に何かしたい目だ。
ユハが言う。
夜便、狙う
狙われるなら、先に箱で縛る
午後、夜便箱を設置した。灯りの届く角、入口から見える位置。箱は重い。持ち上げにくい。盗みにくい。箱の口は狭い。袋だけ入る。板は入らない。板を夜に動かさないためだ。夜は返却だけにする。夜に貸出が混じると、噂が燃える。
夜便箱の横に小さい板を固定した。夜番用の枠板。時刻、箱番号、札番号。三枠だけ。余白なし。余白があると噂が入る。
フィンが見て言う。
余白なし、徹底してんな
余白は燃料
ミナが頷く。
余白があると、親切で書き足す人が出ます。親切が噂を育てます
ゼフが箱を叩く。
箱は喋らない。箱は仕事する。良い
夕方、対象外の男がもう一度だけ角に近づこうとした。灯りの下、夜便箱の前。だがそこは入口から丸見えだ。しかも箱の前に立つと、自然に通行の邪魔になる。邪魔になる場所は長居できない。長居できないと何もできない。箱の勝ちだ。
男が立ち止まった瞬間、ユハが位置だけで道を消した。声は出さない。立ち位置が線になる。線になったら、男は外へ流れるしかない。
俺は板を出さない。線を越えてない。妨害もしてない。動きが弱い時は拾わない。拾わないのも燃えない。
レイナ、拾わないでいい?
拾わない。拾うと相手が燃料にする。行動が確定した時だけ拾う
了解
仕事終わり、拠点工房へ回って進捗を確認した。棚は四段が形になった。作業台の天板が乗り、内張り枠も壁に固定された。工房入口に板を一枚。出入り一行、貸出一行、返却一行、補修一行。枠の外は書けない。書けないと噂が入らない。入らないと工房はただの作業場になる。作業場は燃えにくい。
ブラントが遅れて現れて棚を見た。
夜便箱、いい。返却が増えると供給が安定する。安定すると値段が守れる。領主が嫌がらない
領主は数字で判断する。噂を嫌う。だから、噂を出さない運用は全部通る。
最後に領主の使いが来た。短い紙を渡してくる。
夜便の設置を認可。返却件数と遅延数を毎日板の写しで提出。対象外は距離で処理を継続。騒ぎは不要
俺は頷いた。板の写しは枠の中だけ。行動と数字だけ。感情語は書かない。感情語は噂の入口だ。
帰り際、夜便箱の前を通った。まだ空だ。これから夜番が一行を書くだけ。三枠だけ埋まれば、遅延はさらに減る。遅延が減れば、噂が減る。噂が減れば、対象外は自然に消える。
フィンが言う。
捕まえなくていいの、ほんと楽だな
楽にするのが勝ち
ミナが小さく笑う。
紙が短いと、世界も短く回ります
ゼフが頷く。
箱があると、人が迷わない
ユハが一言。
燃えない
レイナが即答する。
明日、作業台パックの数を一つ増やす。夜便箱の回収時刻を固定。板の写しを出す
俺は板に締めの一行だけ書いた。
紙で縛って、板で残して、箱で流す。
それで十分だ。明日も回す。




