第4話 水路テンプレ実装RTA 弟子にA/B/Cを叩き込んで、街の水を安定させる
朝の空気は冷たくて、頭がよく回る。
俺は拠点倉庫の入口で深呼吸して、半透明の板を出した。
本日の稼働上限:6時間
現在:0時間00分
レイナの声が落ち着いて響く。
今日の目的は一つ
水路を“回る仕組み”にする
見栄えじゃなく、戻らない形
分かってる
で、まずは
まずはフィンの教育
彼が動けると、あなたが倒れない
扉がコツコツ鳴った。
入っていいですか!
勢いのある声。フィンだ。
入れ
フィンが入ってきて、目を輝かせる。
おはようございます!
監督官さま!
監督官さまはやめろ
あと敬語も減らせ
俺の脳が疲れる
はい!……えっと……はい!
よし。
俺は指を三本立てた。
これが今日からの合言葉
A:今日やらないと死ぬ
B:今日やらないと後で困る
C:今日やらなくてもいいけど未来が楽
フィンが即座に復唱する。
A:死ぬ
B:困る
C:未来が楽!
言い方は雑でいい
覚えろ
覚えます!
レイナが小声で言う。
吸収が早い
ただしテンションが高い
暴走すると勝手にCを増やすタイプ
……俺と同じだな。
俺はフィンに袋を渡した。
今日のAは水路
君のAは記録と案内
やることは二つだけ
フィンが姿勢を正す。
二つだけ!
一つ目
水路点検テンプレの“現場版”を完成させる
二つ目
点検で見つけた問題を“その場で1個だけ”直す
1個だけだ
全部直そうとすると死ぬ
フィンが真剣に頷く。
1個だけ!
いい。今日の君は賢い。
取水口へ向かう道すがら、俺は頭の中でRTAの順番を並べた。
本日のRTA:水路テンプレ実装
1)取水口:毎日5分枠を作る
2)主要分岐:3日枠を作る
3)勝手水路:見つけたら“申請へ誘導”→封鎖は期限付き
4)担当:誰が見るかを固定
5)紙:誰が見ても同じ判断になる形にする
レイナが補足する。
RTAって言うと遊びに聞こえるけど
あなたの脳が迷わないための方法
迷いは最大のロス
分かってる
迷うと、余計なことして、倒れる
そう
取水口に着くと、水の音は昨日より良かった。
でも、落ち葉はもう溜まり始めている。
俺は指を鳴らすみたいに言う。
ここが一番大事
水は毎日“ちょっとずつ”死ぬ
だから毎日“ちょっとずつ”直す
フィンがメモ板を構える。
はい!
俺は現場を見ながら、口でテンプレを確定していく。
テンプレ:取水口(毎日/5分)
チェック項目:
・柵の破損
・落ち葉と枝の量
・水の勢い(昨日より弱いか)
対応:
・落ち葉が多い→その場で除去
・柵が壊れた→仮補修して報告
担当:___
期限:今日
フィンが必死に書く。
担当…期限…!
ここで重要なのは、担当と期限
書かないと、やった気になるだけ
フィンが頷く。
書かないと、やった気!
次、主要分岐。
分岐点に着くと、泥が薄く溜まっている。
致命的じゃない。けど放置すると詰まるタイプ。
ここは3日に一回でいい
毎日やると疲れる
疲れると、誰もやらなくなる
フィンが即答する。
疲れると、やらなくなる!
そう
だから“勝てる頻度”にする
テンプレ:主要分岐(3日に1回/10分)
・泥の堆積
・水の偏り
・周辺の崩れ
対応:軽い堆積→除去/崩れ→報告
担当:___
期限:次回点検日
フィンの字が少し綺麗になってきた。
集中してる時の字だ。
最後。勝手水路。
昨日締めたはずの細い引き込み。
そこだけ、縄がほどけていた。
フィンが息を呑む。
また…!
レイナが冷静に言う。
怒らない
怒ると隠れる
隠れると管理できない
俺は頷く。
ここは“封鎖”じゃなくて“案内”から
枠を見せる
枠があると、人は正面から来る
フィンが首をかしげる。
枠…
俺は木札を出して、その場で炭で書いた。
水路利用 申請:ギルド水路係
無許可の引き込み:期限を決めて撤去
撤去が無い場合:封鎖
フィンが目を丸くする。
いきなり封鎖じゃないんだ
期限を付ける
期限があると、相手は動く
期限がないと、相手は放置する
放置は街の敵
フィンが勢いよく頷く。
期限…!
テンプレ:勝手水路(発見時)
・新規か/既存か
・申請札が見えるか
対応:
1)札を設置
2)期限を書く(本日/明日)
3)期限超過→封鎖
担当:___
期限:___
これでテンプレの骨格は完成。
あとは“その場で1個だけ”直す。
俺は自分に言い聞かせるように言った。
今日の直す1個はここ
この勝手水路を“見える形”で閉じる
フィンが道具を差し出す。
縄と杭、あります!
いい。君の存在が今日の勝利だ。
俺たちは杭を打って縄を張った。
札を目立つ位置にぶら下げた。
封鎖ではない。期限付きの停止。
それだけで、街は少しだけ静かになる。
フィンが不思議そうに言う。
これで、揉めないんですか
揉めるよ
でも“揉め方”が変わる
殴り合いから、申請に変わる
それだけで勝ち
レイナが小声で言う。
あなたの得意技
争いを“作業”に変える
そう。
争いは、作業に落とせば終わる。
帰り道、問題はすぐ来た。
水路沿いの小道で、パン屋の若い主人が腕組みして待っていた。
顔が怒ってる。というより困ってる。
おい!監督官ってのはお前か!
うちの店の水が弱いんだが!
フィンが一瞬びくっとする。
俺は落ち着いて聞く。
まず確認
水が弱いのは今朝から?
今朝からだ!
仕込みが止まる!死ぬ!
死ぬはAだ。
パン屋が死ぬと街が荒れる。これもA。
レイナが即断する。
今日の“直す1個”はもう使った
だからここは“調査だけ”
調査して、原因をA/B/Cに落とす
現場対応は午後か明日
あなたの稼働を守る
俺は頷く。
分かった
今すぐ見る
でも今日は“原因の特定”まで
直すのは段取りしてから
パン屋は一瞬ムッとしたが、次の言葉で落ち着いた。
段取り…?
直すのは早い
でも、戻ったら意味がない
戻らない直し方をする
パン屋が唾を飲む。
……頼む
俺たちはパン屋の裏に回った。
水桶の水位が確かに低い。
俺は水路図を頭の中に作る。
上流→分岐→引き込み→店。
どこかで落ちてる。
フィンに言う。
ここでテンプレを使う
君、記録
俺、見る
フィンがうなずく。
はい!
テンプレ:住民申告(簡易)
・場所
・発生時間
・影響(どれくらい困る)
・上流側の変化(知ってるなら)
・優先度(A/B/C)
俺は最後に書く。
優先度:A
理由:営業停止=街の食が死ぬ
パン屋がびっくりする。
お、お前……話が早いな
話が早いと、助かる
水路を少し遡ると、原因はすぐ見つかった。
分岐の小さな板がずれていて、パン屋側の流れが細くなってる。
昨日の堆積掻き出しの時に、誰かが踏んだのかもしれない。
悪意じゃない。事故だ。
俺はパン屋に言う。
原因はこれ
板がずれてる
直すのは簡単
でも今日の俺の直す枠はもう使った
だから“応急”だけやる
本修理は明日、担当を付けてやる
パン屋が焦る。
応急でいい!
今日だけでも水が出れば!
俺は頷く。
分かった
応急は“3分”で終わらせる
それ以上はやらない
俺は板を戻し、石を噛ませて固定した。
水が少し増えた。パン屋の顔が明るくなる。
出た…!
出た!助かった!
フィンがメモに書く。
応急対応:板固定(3分)
本修理:担当__期限__
俺はそこに書き込む。
担当:フィン+ギルド作業員
期限:明日午前
フィンが目を見開く。
僕も…?
一人でやるな
誰かを借りろ
そして“写真”はないから、位置を図で残せ
戻るからな
フィンが真顔で頷く。
図で残す!
パン屋が頭を下げる。
ありがとう
……監督官、ってのも悪くないな
監督官さまはやめろって言ったばかりだが、今は突っ込まない。
脳死で読めるって、こういうことだ。深追いしない。
拠点倉庫に戻る。
俺は今日の成果を机の上に並べた。
・水路点検テンプレ(現場版)完成
・勝手水路:期限付き停止+申請札
・パン屋:水弱い→原因特定→応急→明日本修理へ段取り
レイナが静かに言う。
今日、良い
直す枠を守った
その代わり“段取り”で救った
あなたの勝ち方
俺は軽く笑う。
で、拠点づくりは?
Cだ
でも最低限のCは、明日のAを軽くする
だから“5分だけ”やっていい
よし。
俺は倉庫の隅に板を立てた。
ただの板。だけど、これが拠点の心臓になる。
拠点ボード(仮)
A:水路(取水口/分岐/勝手水路)
A:パン屋本修理(明日午前)
B:水路申請窓口の形を整える
C:倉庫棚を一つ作る
フィンがボードを見て、息をのむ。
これ…全部見える…
見えると、迷わない
迷わないと、疲れない
疲れないと、続く
フィンがゆっくり頷く。
続く…
ここで板が通知を出した。
稼働:5時間12分
推奨:終了準備
俺はフィンに言う。
今日はここまで
君は明日の本修理のために
ギルドで作業員を一人借りる手配だけして帰れ
それ以上はするな
フィンが敬礼みたいに言う。
はい!手配だけ!
レイナが小声で言う。
言いつけを守れるかが分岐点
守れよ、フィン。
フィンが扉に手をかけたところで、外が少し騒がしくなった。
誰かが走ってくる足音。
ギルドの使いの少年が、息を切らして入口に立つ。
臨時物流監督官さーん!
大変です!
市場で……水じゃなくて……物が止まってます!
俺は目を細めた。
物?
荷車が詰まって、道が塞がって、朝の搬入が止まってます!
魚屋と八百屋が揉めてます!
揉め事が“物”を止める。
これは俺の得意分野だ。
でも、稼働がもうギリギリ。
レイナが即断する。
今日は行かない
行くと倒れる
倒れると全部止まる
明日、朝イチで“最短で”抜く
今は段取りだけ取れ
俺は頷いて、使いに言った。
今は行けない
でも段取りは取る
明日朝、最優先で抜く
今すぐできることは一つ
揉めてる二人にこれだけ伝えろ
俺は木札に書いて渡した。
その場で“荷車を動かすだけ”
原因の話は後
動線を空けろ
空いたら、話す
使いが目を丸くする。
分かりました!
走っていった。
フィンが俺を見て言う。
行かないんですか…?
行かない
今日のAは終わった
明日のAを守るために、今は止まる
止まれるのも効率
フィンが少しだけ笑った。
止まれるのも…効率…
俺は灯りを落とし、息を吐いた。
今日の終わりは、勝ちの形だ。
全部を抱えず、仕組みに落とした。
水が回り始めた。
次は物が回る番。
そして、物が回れば、拠点づくりが本当に始まる。
板に最後の通知が出る。
明日の優先度A:市場の詰まり(動線)を抜く
B:水路申請窓口の整備
C:倉庫棚(1本)
レイナが静かに言った。
明日はあなたの得意分野
でも、油断しないで
RTAは最短で終わらせるためにやる
最短で終わらせて、寝る
分かってる
俺はベッド代わりの寝具に沈み込み、目を閉じた。
異世界四日目。
街の水が、仕組みで回り始めた。
次は、街の“物”を回す。




