第36話 普通便に混ぜる、本命は一回だけ
朝、レイナが言った
今日は混ぜる日
目立たせない
でも止めない
止めないのが一番速い
板を見る
雑便に本命一回を混ぜる
男が近づくなら距離で切る
板セットの第一段階運用開始
領主へ数字報告
次の拠点設備の見積もりを取りに行く
フィンが眠そうに言う
本命って
香鉄石の採取分か
レイナが即答する
違う
本命は導線
導線が本命
香鉄石は中身
中身は導線の後
ギルドの小部屋で、ミナが昨日の数字をまとめていた
錬金屋の炉
失敗回数
作業時間
弟子の休憩回数
差分は四つ
四つで十分
説明が短くなる
短い説明は燃えない
ミナが言う
数字、これで出します
余計な言葉は削りました
レイナ
偉い
余計な言葉は火種
数字は火消し
領主館へ向かう途中、ギルド前の板に目を走らせる
旧鉱山は異常ゼロ
倉庫周辺整備も静か
雑便も回ってる
街の呼吸が一定になってきた
一定は強い
強いと次が取れる
レイナが小さく言った
一定は勝ちの音
一定になると人は飽きる
飽きると噂が死ぬ
領主の前に出る
報告は短く
炉内張り板の差分
失敗が減った
弟子が倒れない
工房が安定する
安定すれば採取と加工が回る
回れば街の税が増える
領主が頷く
それで
次は何が要る
レイナが即答する
拠点設備
倉庫兼工房
小さく
でも鍵と棚と作業台がある
それだけで加速する
俺は言う
今の倉庫は“守る場所”になった
次は“作る場所”を分けたい
混ざると燃える
分けると燃えない
燃えないと速い
領主は少しだけ笑った
燃える燃えないで世界を語るな
だが
分かりやすい
見積もりを出せ
許可は数字で決める
レイナ
完璧
許可は数字
数字は武器
武器は置くだけ
領主館を出たところで、フィンが呟く
領主
だいぶ慣れてきたな
お前らの箱に
レイナ
慣れたのが勝ち
慣れた相手は暴れない
暴れないなら領地は回る
次は本命の混ぜ方
雑便を三回回す
そのうち一回だけ、本命の箱を混ぜる
ただし中身は香鉄石じゃない
香鉄石は倉庫から出さない
今日は“本命の導線”を混ぜる日
本命の導線とは、膜あり袋と内張り板の受け渡し手順
見られても困らない形で動かす
動かして癖にする
ギルド運搬係の代表が言う
じゃあ今日は
工具箱二回
布束一回
その布束の回で
袋と板の受け渡しを混ぜる
レイナ
正解
布束は誰も見ない
見ない便に混ぜる
混ぜたら終わり
倉庫へ
棚は内張りで静か
空気が普通
普通は最高
ここで本物が動いても“特別感”が出にくい
ミナが帳面を開く
袋番号
板番号
受取人
返却日
それだけ
余白はない
余白がないから燃えない
ゼフが板セットを薄布で包む
包むのは隠すためじゃない
普通に見せるため
部材の束に見える
部材なら誰も嗅がない
レイナが言う
隠すと怪しい
普通にすると消える
消えた本命が最強
倉庫の外
あの男はいない
昨日切ったから当然
でも“いない”のが一番怖い
いない時に動くのがこういう手
フィンが周囲を見て言う
今日来ねえのか
諦めたか
レイナ
諦めない
諦めるなら最初から来ない
今日は距離の箱を置く
板で拾う
拾ったら終わり
距離の箱
つまり、近づけない導線をさらに固める
倉庫の扉の前に、普通便の荷が積まれる場所を作る
そこから先は担当二人だけ
他は入れない
入れないのが最強の距離
布束の便が動く
運搬係が二人
表情は普通
足取りも普通
背中に特別を背負ってない顔
それがいい
角を一つ曲がったところで、フィンが目で合図した
いた
宿通りの方
左肩が擦れた外套
片方だけ新しい靴
昨日の男
男は距離を保って歩く
近づかない
でも目が速い
荷の種類を見てる
荷の回数を数えてる
昨日の癖が抜けてない
レイナが冷たく言った
見るだけなら無害
無害は放置
放置して
板に残す
残したら次に切れる
男は布束の便に反応した
工具箱には反応しない
布束だけ
そこが面白い
本命を混ぜた回を、嗅ぎ分けた
嗅覚タイムアタックの名残みたいで気分が悪い
フィンが小声
あいつ
布に反応してる
勘がいい
レイナ
勘がいいなら
勘を殺す
勘が当たると楽しくなる
楽しくなると燃える
次は当てさせない
男が距離を詰めようとした瞬間、運搬係の代表がすっと横に出た
道を塞いだわけじゃない
ただ“同じ方向に歩く”
それだけで距離が維持される
このやり方は上手い
押さえつけない
揉めない
揉めないから燃えない
男は立ち止まる
立ち止まっても、運搬便は淡々と進む
立ち止まるほど置いていかれる
置いていかれるほど焦る
焦ると雑になる
レイナが言った
焦らせるのが正解
焦った手はミスる
ミスったら切れる理由ができる
男は追わなかった
追えば怪しまれるから
でも目で追った
目で追うだけの欲
これが一番しつこい
倉庫へ便が戻る
受け渡しは一分
袋番号照合
板番号照合
木札の微差確認
預り金処理
返却日設定
終わり
運搬係の代表が笑う
一分って
気持ちいいな
レイナ
一分は勝ち
一分なら癖になる
癖になったら誰も迷わない
迷わないなら燃えない
男は倉庫の前まで来られない
距離の箱が効いてる
扉の前には普通便の荷が積まれて人がいる
人がいると近づけない
近づけないと嗅げない
嗅げないと勘が外れる
男が一度だけ舌打ちして、宿通りへ消えた
消え方が雑だった
焦ってる
焦ってるなら次はやる
レイナが言った
次は夜
夜に動くタイプ
でも夜も箱で勝てる
板を置く
番を置くんじゃない
板
板
一行だけ書く仕組み
それがこの街の新しい防壁になってる
午後、板セットの第一段階運用を正式に始める
錬金屋に炉用内張り板を追加で二枚だけ渡す
条件は袋と同じ
番号管理
返却
記録提出
違反は剥奪
店主は渋い顔のまま言う
面倒だが
この面倒が儲けだと分かってきた
レイナ
分かったなら勝ち
分かった相手はもう燃やさない
次に見積もり
大工の工房へ行く
拠点設備の倉庫兼工房
小さく
鍵二つ
棚四段
作業台一つ
内張り板を貼れる枠
雨を避ける屋根
それだけ
大工が言う
規模はどのくらい
レイナが即答する
小さい
最初は小さい
小さい方が早い
早いと回る
回ったら増築
増築は二回目でいい
俺は大工に言う
人が三人動ける幅
棚が置けて
作業台が置ける
扉は二重
鍵は二つ
これで
大工は指を折って計算して、数字を出した
木材
金具
鍵
工賃
合計
銀貨でこのくらい
期日は何日
レイナ
期日は余裕を持つ
詰めると雑になる
雑だと燃える
燃えると全部止まる
俺は言った
急がない
でも止めない
二週間以内に形
細部は後でいい
大工が笑った
分かった
箱を先に作るんだな
レイナ
そう
箱が先
中身は後
夕方、ギルドへ戻る
板を見る
宿通りに一行
左肩の擦れた男
昼過ぎに酒場へ
短く店員と話す
すぐ出る
夜の気配
フィンが言う
酒場で人を買うか
道具を買うか
レイナ
どっちでも同じ
箱で勝つ
夜は倉庫じゃなく
倉庫周辺整備の板に拾わせる
拾ったら距離を増やす
距離は最強
ミナが静かに言う
夜の板
置きます
一行だけ
見たことを書くだけ
レイナ
それで十分
十分が一番強い
過剰は火
寝る前、レイナが言った
今日は本命を混ぜて通した
男は嗅いだ
でも近づけなかった
近づけないなら外れ続ける
外れ続けた嗅覚は
そのうち自滅する
俺は板に一行だけ書いた
明日:夜の板の結果確認 男が動いたら距離をさらに増やす(倉庫導線の固定化) 拠点設備の見積もりを領主に提出 板セットの運用を錬金屋以外に一つだけ広げる候補を探す ギルド攻略RTAの次の“稼ぎクエ”を一つ取る
灯りを落とす直前、レイナが言った
任せて
燃えない速度が上がってきた
ここからが一番楽しい
数字で街を静かにして
静かなまま強くなる
異世界三十六日目、終了




