第34話 売るのは袋、回すのは信用
朝、レイナが最初に言った
今日は初回販売
売るのは袋
売るのは安心
売れたら次の導線が太る
太った導線は燃えにくい
ギルドの小部屋に三者を揃えた
領主倉庫の担当
ギルド運搬係の代表
優先枠錬金屋の店主と職人
ミナが紙を机に置く
運搬用防臭袋 許可販売条件
三者限定
転売禁止
譲渡禁止
番号管理
返却で割引
紛失で次回不可
削り取りは依頼停止
店主が鼻で笑う
読ませるほど厳しいな
レイナが冷たい
厳しいほど燃えない
燃えないほど儲かる
儲かるほど続く
続くほど速い
俺は短く言った
今日の販売は数を絞る
袋は増やさない
回して増やす
返ってきた袋が次の袋
領主倉庫の担当が先に手を挙げる
倉庫用を三枚
運搬の試験もしたい
ギルド運搬係が続ける
運搬用を二枚
担当は固定する
帳面も二重で持つ
店主が言う
工房用を三枚
弟子の倒れるのを止めたい
レイナが即答する
固定担当
正解
担当が固定なら匂いの差分が取れる
差分が取れたら改善できる
改善できたら事故が減る
事故が減ると噂が死ぬ
ゼフが木札を並べる
灰三
茶二
黒三
番号は連番
焼印は同じ
でも本物だけ帳面に載る
ミナが淡々と書く
袋番号
用途色
受取人
返却日
支払い
預り金
店主が眉を上げた
預り金まで取るのか
レイナ
預り金は首輪
首輪があると返る
返ると回る
回ると増やさず増える
預り金は大きくしない
でも痛い額
痛い額が丁度いい
痛いと雑に扱わない
雑に扱わないと破れない
破れないと追加が要らない
支払いは静かに終えた
騒がない
袋が売れた空気を出さない
空気を出すと人が集まる
人が集まると燃える
領主倉庫の担当が袋を受け取ってすぐ言った
匂いは本当に減るのか
レイナが先に言う
見せない
見せるなら内側で
外で見せると噂が走る
だから実演は小部屋の中だけ
強い香草を一握り
膜なし袋
膜あり袋
二つに入れて机の上に置く
差はすぐ出た
膜なしは鼻が反応する
膜ありは机に近づかないと分からない
ギルド運搬係の代表が頷く
これなら荷運びの線が静かになる
見物が寄らない
店主が笑った
工房が生き返る
弟子が倒れないなら、金なんて後でいい
レイナ
そう
金は後で勝手に付いてくる
今は事故を消す
事故を消せば全部が回る
次に錬金屋へ寄って炉の内張り板の差分を回収した
職人がもう答えを持っていた顔で言う
炉が落ち着いた
熱が暴れない
匂いが刺さらない
失敗が減った
弟子が咳をしない
弟子が小さく頷く
目が赤くない
いつもなら赤い
それだけで勝ちだ
店主が帳面を叩く
材料の無駄が減った
作業時間が短くなった
客が文句を言わない
つまり金になる
レイナが即答する
金になるのは分かってる
でも今は売らない
売るのは板セット
膜そのものは売らない
正体が噂になるから
俺は店主に言った
内張り板セットを試作で渡す
炉用だけ
条件は同じ
記録提出
違反したら剥奪
次に倉庫用は領主許可が出てから
店主が渋い顔で頷いた
枠に慣れてきた顔だ
昼、倉庫へ戻る
棚の内張りの効果も見たい
袋の運搬も今日から始まる
始まる日は必ず見られる
だから見られても困らない動きを先に置く
倉庫周辺整備の新依頼を動かした
清掃
見回り
荷運び補助
全部、普通の箱だけ運ぶ
普通の箱が動くと、特別が埋もれる
埋もれると追えない
追えないと燃えない
レイナが言う
目立つ動きは一回
目立たない動きは百回
百回の中に一回を混ぜる
それが最強
そこで問題が起きた
あの男だ
左肩が擦れて、片方だけ靴が新しい
倉庫周辺整備の腕章を付けてる
真面目な顔で掃除をしてる
でも視線が倉庫の扉を数えている
フィンが小声で言う
あいつ
掃除してるふりで
開閉回数見てる
レイナ
見てるなら記録
記録したら止める
止め方は停止
騒がない
静かに切る
ミナが板に短く書かせる
時刻
男
扉の前で立ち止まり長い
視線が扉
掃除の手が止まる
書いた瞬間、処理に移れる
噂じゃない
事実の一行になる
一行は強い
長文より強い
ユハを呼ぶ
ユハは男を見て一回だけ頷いた
余計な会話をしない顔
ユハが短く言う
腕章番号
男が一瞬だけ固まって、腕章を見せる
番号は合ってる
でも動きが合ってない
ユハ
仕事は清掃と見回りと補助
扉の前で立ち止まる理由は何だ
男
迷ってました
どこから掃除すればいいか—
レイナが冷たい
嘘
迷いは足
視線は扉
嘘は火
俺は言い訳を切った
今日で終了
倉庫周辺整備から外す
停止ではない
ただ対象外
別の依頼なら受けろ
ここはもう来るな
男が食い下がろうとする
でもユハが短く重ねる
対象外
以上
以上、が強い
議論をしない
議論をすると噂が生える
噂を生やさないために、紙と板がある
男は去った
去り際の目が悔しそうだった
悔しさは次の行動の前触れ
でも次は箱で受ける
レイナが言う
切った
切ったから次が静か
静かな方が速い
速い方が勝つ
その後、袋の初運搬を一回だけ走らせた
中身は普通の工具
特別じゃない
でも運搬の経路は本番と同じ
本番と同じで、見られても困らないものを運ぶ
これで相手の観察は無駄になる
膜あり袋はやっぱり効いた
運んでる本人の鼻が楽
周りの人が寄ってこない
寄ってこないと質問が来ない
質問が来ないと噂が育たない
領主倉庫の担当が頷いた
これなら倉庫が静かになる
倉庫が静かなら守りの人員を減らせる
レイナ
減らせる人員は稼ぎに回せる
稼ぎに回せば拠点が育つ
育った拠点は次の箱になる
夕方、ギルドに戻って回収の流れを見る
旧鉱山は異常ゼロ
警告ゼロ
管理依頼は崩れてない
倉庫周辺整備は対象外処理が一件
燃えてない
燃えてないなら勝ち
ミナが帳面を閉じて言う
袋、売れました
条件も通りました
噂も出てません
レイナが即答する
噂が出てないのが最大成果
金より成果
金は後で勝手に増える
最後に、次の依頼ルートを一つ増やした
倉庫周辺整備の中に、雑便を入れる
市場から倉庫へ普通の荷物を運ぶ便
匂いも価値もない荷物
でも回数が多い
回数が多いと動きが埋もれる
埋もれると本命が守られる
レイナが言う
雑便はカモフラ
カモフラがあると本命が生きる
本命が生きるとRTAが加速する
寝る前、板に一行だけ書いた
明日:袋の運用で返却ルールを固める 内張り板セットの炉差分を数字化 雑便ルートを回して動きを埋める 対象外にした男の次の動きは板で拾う 次の稼ぎは板セットの許可範囲を決める
灯りを落とす直前、レイナが言った
今日は売れた
今日は切れた
どっちも静かにできた
だから明日はもっと速く回せる
燃えない速度で前に進む
異世界三十四日目、終了




