第30話 朝一で採って、匂いを箱に閉じる
朝、まだ暗いのにレイナが起こした
今日が週次採取の初日
朝一で終わらせる
人が集まる前に終える
終えたら噂が追いつけない
板を見る
採取 拳サイズ一つ
運搬 護衛+ギルド一名
鑑定 数える
記録 ミナ
箱 ゼフ
鍵 二つ
封蝋 跡が残る
フィンが眠そうに欠伸する
朝早すぎだろ
レイナが即答する
早いのが正義
眠いのは後で返せる
燃えたら返せない
旧鉱山に着く頃、空は少しだけ白い
柵の外に人影がある
でも距離がある
近づけない距離
距離があると口が小さくなる
見張り小屋の担当が板を出す
時刻
来た人
異常
今はゼロ
ユハが短く言う
赤木札、二名
出せ
調査班の二人が裏で腕章を下げる
番号が見える
見えるけど見せびらかさない
それだけで静かになる
レイナが言う
見せびらかすと武器になる
武器にしない
今日は作業
鑑定師が布袋を三つ出した
中身は空
でも一つだけ違う
内側にAの膜が貼ってある
薄く
均一に
雑じゃない
職人の仕事が早い
鑑定師が淡々と言う
膜あり
膜なし
もう一つは革
運搬の匂い差を見る
結果で次を決める
レイナ
いい
運搬で匂いが暴れなければ
入口が静かになる
入口が静かなら経営が回る
採取は中心点じゃない
今日は領主が決めた採取点
箱の中の箱
誰も知らない場所じゃない
でも誰も触れない場所
護衛が前に立つ
ギルドの係が帳面を持つ
ミナが紙を押さえる
ゼフが木箱を抱える
封蝋の道具もある
掘るのは赤木札の二名だけ
動きは速い
無駄がない
練習したみたいに短い
拳サイズ一つ
出た瞬間、あの甘い刺さりが来る
周りの空気が一度だけ跳ねる
フィンが鼻を押さえそうになって耐えた
レイナが先に言う
吸うな
見るだけ
今日は判断しない
今日は箱に入れるだけ
石はすぐ布袋へ
膜ありの袋に入れた瞬間、匂いが一段落ちた
落ち方が急だ
鼻が楽になる
フィンが思わず言う
今の
分かる
薄くなった
レイナ
分かるなら勝ち
分かる差は管理できる
管理できたら燃えない
鑑定師がその場で数える
拳サイズ一つ
欠け無し
記録良好
ミナが書く
時刻
採取量
担当番号
袋種別
封蝋番号
ゼフが木箱を開ける
中にはさらに小箱
番号がある
蓋に焼印
封蝋の溝
布袋ごと小箱へ
小箱を木箱へ
木箱を閉めて封蝋
封蝋が固まるまで誰も触らない
触らない空気が出来ると勝つ
レイナが言う
箱は手を止める
手が止まると心も止まる
止まった心は走らない
終わった
採取は短い
だから強い
柵の外の人影がざわつく
何をしたか分からない
分からないのが効く
分からないと噂が育ちにくい
ユハが声を出す
今日は以上
管理依頼の作業に戻れ
戻れ、が強い
“見物”を“仕事”に押し戻す
倉庫へ運ぶ
護衛とギルド係が左右
俺は少し後ろ
ミナは紙
ゼフは箱
鑑定師は鍵
道中で袋の匂い差が出た
膜ありは、近づかないと分からない
膜なしは、少し離れても刺さる
革は匂いは抑えるが、汗と混ざって嫌な感じが残る
フィンがぼそっと言う
膜あり一択だな
これ、守りが楽になる
レイナ
一択は早い
早いと勝つ
でも数字も取る
次からは
袋の匂い差を紙で残す
倉庫に着く
鍵は二つ
護衛と鑑定師が同時に回す
開ける動作が遅い
遅いのが正しい
速いと雑になる
雑だと燃える
領主が立ち会った
顔は硬い
でも目が落ち着いてる
落ち着きは箱が作る
俺が報告する
採取一回目
拳サイズ一つ
封蝋番号
袋は膜ありが有利
運搬の匂いが弱い
周りの反応も小さい
領主が頷く
よし
これなら続けられる
レイナが言う
続けられるが最強
一発の儲けより
継続の儲け
継続は街を太らせる
鑑定師が提案した
倉庫の棚にも膜を貼る
箱の内側にも薄く貼る
匂いをさらに落とす
人が気づきにくくなる
ゼフが即答する
出来る
薄板に貼って棚板にする
高くない
時間もかからない
レイナ
やる
匂いを落とすのは
火を落とすのと同じ
火が落ちれば稼ぎが伸びる
その場で決まった
倉庫棚の内張り
運搬袋の内張り
錬金屋の炉の内張り
Aの膜は売らない
まず守りに使う
店主が後から来て渋い顔をする
売りはまだか
俺が短く言う
まだ
安全が先
事故が減れば量が回る
量が回れば利益が増える
順番だ
職人が頷いた
順番でいい
俺は膜を工房に使う
匂いが減れば弟子が倒れない
倒れない工房が勝つ
レイナ
弟子が倒れない
それが本当の利益
利益は金だけじゃない
時間と人も利益
ギルドに戻ると、管理依頼の板が騒がしい
増枠してくれ
待機札が溜まってる
皆、仕事を欲しがってる
ユハが俺を見る
増やすか
レイナが即答する
増やす
でも一段だけ
一気は崩れる
崩れたら守りに戻る
戻ったら稼げない
俺は数字で決めた
今日の記録
異常ゼロ
警告ゼロ
作業遅延ゼロ
だから明日だけ増枠
外周巡回を二組増やす
見張り記録は増やさない
記録は増やすと書けなくなる
ミナが頷く
書けなくなったら終わりです
だから増やしません
レイナ
ミナが正しい
記録が死ぬと管理が死ぬ
管理が死ぬと火が生きる
待機札の列に声をかける
明日、番号順で呼ぶ
今日暴れたら最後尾
それだけ
それだけで列が静かになる
未来を渡すと人は落ち着く
夕方、回収
赤木札も灰腕章も紛失なし
見張り板も異常ゼロ
採取も無事故
封蝋も割れてない
フィンが帰り道で笑う
今日さ
勝った感じするわ
殴ってないのに
レイナ
殴るのは遅い
仕組みは速い
速いのがあなたの好き
寝る前、板に一行だけ書いた
明日:膜あり袋の量産準備 倉庫棚の内張り開始 管理依頼の増枠初日確認 錬金屋の炉内張り試験開始
灯りを落とす直前、レイナが言った
任せて
今日は採って箱に閉じた
明日は膜で匂いを潰す
潰せば街が静か
静かなら稼ぎが伸びる
異世界三十日目、終了




