表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
現代の効率厨、異世界で生産と経営を回して気づいたら領主の右腕  作者: 検証中


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

20/43

第20話 入口で勝つと、鉱山も街も勝つ

行く

止める


そう言って外に出た瞬間、冷たい空気が頬を叩いた。入口柵の向こう、石灰の線の手前で、誰かがわざと足先を線に近づけている。試す動きだ。踏めるか踏めないかじゃない。踏んだ後に何が起きるかを見てる。


見張りの声が荒くなる。


線より中に入るな!


相手は若い。冒険者の格好。道具袋を肩にかけて、笑ってる。


入らねぇよ

入るつもりなら、もう入ってる

たださ、これって誰が決めたんだ?


一番燃える形の言い方だ。正義の顔をして穴を掘る。


レイナの声が低く入る。


ここで議論しない

議論は火

言葉は短く、同じ形で

三つだけ言う


俺は息を整えて、柵の前に立つ。視線を相手の目じゃなく、足元に置く。足元を見ると、人は一歩引きにくい。踏み込むか、止まるかの二択になる。


線より中は調査班だけ

破ったらギルドから外れる

今は柵の仕事がある


若い冒険者が鼻で笑う。


調査班って誰だよ

お前の仲間か?

なあ、俺も入れてくれよ

昨日の匂い、聞いたんだよ


レイナが即答する。


入れてくれは燃料

入れるなら条件

条件は紙じゃない

目に見える印


ミナが後ろから来て、小さな布紐を二本持っていた。赤と灰。たぶん、思いついたんだ。俺が言う前に。


これ

入口仕事の人は灰

調査班は赤

腕に巻きます

誰でも見て分かる


レイナが少しだけ声を柔らかくする。


ミナ、天才

それでいい

目で分かると揉めない


俺は若い冒険者に灰の紐を見せる。


今渡せるのは灰

柵の仕事

赤は明日以降、人数を決めてから

勝手に入ったら、赤は一生無い


若い冒険者は舌打ちする寸前で止まった。灰でも“何か”が手に入ると、足は止まる。ゼロよりマシになる。


俺の後ろでガイルが腕を組んでいる。顔が怖い。あれが入口にいるだけで効く。


若い冒険者が渋々言う。


……柵、どこ運べばいい


レイナが言う。


勝ち

今は勝ちを積む

褒めない

淡々と回す


ガイルが指をさす。


杭はあっち

縄はこっち

余計なことを考える暇を与えるな


若い冒険者が動き出す。入口の空気が一つ落ち着く。


俺は見張り役に向き直る。言葉を揃える必要がある。揃ってないと穴ができる。


レイナが短く指示する。


合言葉を作る

でもヒントは要らない

言い回しを一つに統一

毎回同じ文


俺は見張り役に、短い形だけ渡す。


線より中は調査班だけ

腕に赤がないなら入れない

仕事は柵の外

破ったらギルドから外れる


見張り役がうなずく。これでいい。これ以上の言葉は要らない。余計な言葉が出ると、相手はそこを噛んでくる。


フィンが小声で言った。


今日、結構来ると思う

試しに踏む人、まだ出るよ


レイナが即答する。


出る

でも今の仕組みで薄くできる

薄くできれば勝ち

入口で勝てば、鉱山も勝つ


俺は板を持って、依頼札の横にもう一枚だけ貼る。短く、怖さを入れる。


旧鉱山 崩落注意

勝手採掘禁止

違反は依頼停止


“価値”は書かない。“危険”だけ書く。危険は人を止める。価値は人を走らせる。


昼前、ユハが戻ってきた。小さな紙を持っている。


ギルド側の公示、これで出す

旧鉱山で希少鉱が確認

崩落と虫の誘引の恐れ

領主とギルドの管理下で調査

勝手な採掘は禁止

違反は依頼停止


完璧に近い。余計な色気がない。


レイナが言う。


良い

価値を言ってない

名前も出してない

火がつきにくい


名前を出してない、は強い。香鉄石って言葉だけで走る連中は必ずいる。走る連中ほど、言葉で走る。


昼過ぎ、柵が完成した。杭が並び、縄が張られ、石灰線が柵の内側に落ちる形になった。境界が二重になる。人は“二つ越える”のを嫌がる。嫌がるだけで良い。


ゼフが木札を二枚作って持ってきた。文字は大きい。


立入禁止

調査班のみ


それを柵の要所に打ち付ける。文字があると、言い訳が減る。言い訳が減ると、怒鳴らなくて済む。


レイナが淡々と言う。


怒鳴らない仕組みが勝ち

怒鳴ると燃える

燃えると毎日が潰れる


毎日が潰れるのが一番痛い。俺は効率厨だ。効率厨は“続くこと”に勝ちがある。


夕方前、俺たちは次の仕事に移る。通り道の確認。昨日も今日も、匂いは壁一点から刺さる。あれは通り道がある匂いだ。通り道があるなら、空洞がある。空洞があるなら崩落がある。崩落があるなら“勝手掘り”が死ぬ。


レイナが先に言う。


今日は中に入らない

外から確認

安く

速く

危険を増やさない


ミナが布袋を持ってきた。中身は粉。灰じゃない、白い粉だ。


小麦粉です

風が出てるなら、ここで舞います

舞い方で流れが分かる

安いです


安い、は正義だ。


レイナが言う。


それでいい

粉は目で見える

見えたら迷いが減る


フィンが小さな香草束を持ってきた。火をつけると、軽い煙が出る。


これ、ギルドの薬草屋で安かった

煙で流れ見よう


匂いの話をしてるのに、煙は一番わかりやすい。皮肉だ。


入口柵の内側、壁一点の手前までは調査班だけで入る。赤紐。ラルカが前に立つ。止め役。ユハも来てる。ギルドの目線で見てくれる。ガイルは柵の外。見張りの空気を締める。


壁一点の前で、俺は香草の煙を少しだけ流した。すぐに吸い込まれていく。煙が壁の継ぎ目に吸われ、消える。


レイナが低く言う。


吸い込みが強い

空洞が近い

でも広げない

今日は確定だけ


ミナが小麦粉をほんのひとつまみ落とす。粉が舞って、同じ継ぎ目へ吸われる。風が一定だ。つまり、通り道が“呼吸”してる。外気が出入りしてる。


ユハが短く言う。


奥に空洞

通路か、古い坑道か

ここを掘り広げたら

風が変わって、虫も人も集まる


虫の話が出ると、現場の目が変わる。虫はみんな嫌いだ。嫌いは抑止力になる。


レイナが即座にまとめる。


結論

通り道あり

空洞あり

だから採取は最小

入口は厳密

明日は空洞の位置を外から当てる

中に入らない


外から当てる。どうやって。俺が考える前に、レイナが言葉を続けた。


風の向きを取る

三点で取る

外周の地面も取る

安い方法で

歩いて当てる


三点。好きなやつだ。A・B・Cの延長。


俺は頷いて、ミナの札に追加で書かせる。


煙:吸い込み強

粉:同地点へ吸われる

風:一定

推定:奥に空洞


これで十分。今日はこれ以上要らない。今日欲張ると明日が壊れる。


柵の外に出ると、ブラントが立っていた。笑っている。


右腕殿

面白い匂いを隠してるらしいな

運搬の話、いつくれる?


レイナが先に刺す。


今は渡さない

渡すと自慢する

自慢は火

火は損


俺は短く言う。


鑑定は済んだ

でも扱いはまだ決めてない

運搬は“決めた後”

決める前に動くと燃える


ブラントが肩をすくめる。


燃える燃えるって

お前、燃えたことある顔だな


ある。現代で何度もある。だから今、こうしてる。


レイナが淡々と言う。


燃えたことがある人は強い

燃やさない手が先に出る


ブラントが一歩だけ近づいて、声を落とした。


錬金屋が来てる

香鉄石って聞いた

欲しがるぞ

街の外からも来る


レイナが即答する。


来る

だから先に箱

箱は人の役割

役割を決めてから会う

決めずに会うと主導権を取られる


俺はブラントに言った。


錬金屋はギルドに回す

領主とギルドの同席

俺は一人で会わない

勝手に場所も言わない


ブラントが笑った。


賢い

じゃあ俺は運搬を待つ

その代わり、余計な噂は止めとく

止めた方が俺も得だ


噂を止めるのは無理。でも薄くすることはできる。薄くできれば勝ち。


夜、拠点に戻ると、フィンが言った。


入口、今日だけで三人試しに来た

でも赤紐見て引いた

灰紐も欲しがって、柵の仕事やってった


レイナが静かに言う。


今日の勝利

勝手掘りを出さなかった

怒鳴らなくて済んだ

柵が完成した

通り道を確定した

全部、明日に繋がる


ミナが帳面を閉じる。


明日の候補

外周で風の出入り点を探す

それと、見張りの言い回し

全員分、札にして貼る


ラルカが短く言う。


明日はもっと来る

火が弱いうちに

箱を固める


ユハが頷く。


領主に報告して

領主印を柵に付ける

印があると、手が出にくい

ギルドの処分だけより効く


レイナが、少しだけ強い声で言う。


領主印は強い

“個人の線”じゃなくなる

個人の線だと試される

公の線だと避けられる


俺は板に一行だけ書いた。


明日:外周の風三点取り 領主印 錬金屋は同席面談


寝る前、レイナが最後に言う。


今日の終わり方、良い

余力を残した

余力があると

明日、焦らない

焦らないと

燃えない


俺は小さく笑って、灯りを落とした。


異世界二十日目、終了。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ