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現代の効率厨、異世界で生産と経営を回して気づいたら領主の右腕  作者: 検証中


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第2話 工房の資材置き場を整えたら、商会と領主が動いた

目が覚めた瞬間、天井が木だった。


現代のアパートの白い天井じゃない。

板の継ぎ目があって、節があって、少しだけ樹脂の匂いがする。


ああ、異世界だ。現実だ。


俺は寝返りを打って、布団の重さを確かめた。ふわふわじゃない。しっかり重い。

脳が勝手に判断する。これは多分、安宿ランク。でも悪くない。ちゃんと寝れた。


視界の端に半透明の板が出た。


状態:疲労 軽(回復中)


レイナの声が、淡々と入る。


おはよ。睡眠時間、6時間12分。合格

体力、回復傾向。今日は無茶しなければ大丈夫


俺は起き上がりながら言った。


無茶しないの基準が難しいんだよ


あなたの場合、依頼を受けすぎること

あと、褒められると次を受けること

さらに、テンプレを配りたくなること


……全部やりそうで怖い。


俺は深呼吸して、習慣通りに頭の中を整理した。


優先度A:食べる、水分、ギルドへ顔出し

優先度B:工房の資材置き場の依頼をこなす

優先度C:昨日の成果を手順化して渡す、ついでに寝床の継続確保


レイナが補足する。


優先度S:休憩

注:Sは未来のA


うるさい。正しいから余計にうるさい。


宿の食堂で出た朝飯は、硬めのパンとスープだった。

俺は食べながら、検証ログを開いた。


検証ログ:ギルド倉庫整理

開始:混乱度 高

結果:通路確保/ゾーン分け/ラベル導入

所要:2時間

改善推定:探索時間 1/10〜1/20

副次効果:倉庫番の精神安定


精神安定までログに書くな。


でも、こういうのが数字で残ると、次の仕事がラクになる。

俺の世界でもそうだった。異世界でも同じだといい。


ギルドに着くと、受付の女性が俺を見るなり、視線を一度だけ上下に走らせた。

昨日の今日で、覚えられたっぽい。


来た


来ました

昨日言ってた工房の件、まだ生きてますか


受付は頷いて、依頼札を出した。


生きてる

指名で入ってる

工房の資材置き場、混乱

報酬:銀貨3+昼飯

期限:本日中

あと…もう一つ


もう一つ、の言い方が嫌な予感しかしない。


俺は慎重に聞いた。


もう一つって、何ですか


領主館から、ギルドに照会が来た

昨日の倉庫の件で、街の物流が改善したって

今日の午後、視察の人が来るかもしれない

あなたの顔を見たいって


俺は固まった。


……昨日の倉庫で?


受付が肩をすくめる。


倉庫は街の心臓

そこが止まってたのが動いた

そりゃ上も興味持つ

でも、逃げてもいい

無理強いはしない


逃げたい気持ちが三割。

面白そうが七割。


レイナが割り込む。


優先度Aは工房

視察はBに落とす

あなたが目立つと、依頼が増える

増えると倒れる


冷静すぎる。

でも正しい。


俺は受付に言った。


午後は、時間があれば

まず工房やります


受付は一拍置いて、少しだけ口角を上げた。


分かった

工房の場所、地図いる?


ください


地図を受け取って、俺は工房へ向かった。


街のはずれ、煙突のある一角。

金属を叩く音が鳴ってる。火の匂いと油の匂い。

いかにも工房って感じだ。


入口で、腕の太い男が腕組みして待っていた。

顔が怖い。声も低い。


お前がギルドの新入りか

倉庫を直したって?


はい

天城迅です

資材置き場、見せてください


男は名乗った。名前はヴァルド。工房主らしい。


案内する

覚悟しろ

うちの置き場は魔境だ


魔境って言うな。怖いだろ。


扉が開いた瞬間、俺は理解した。


昨日の倉庫が可愛く見える。


鉄材、木材、皮、布、釘、歯車、壊れた道具、半端な部品。

全部が同じ空間に詰め込まれてる。

作業台の周りに積まれて、通路がなくて、足元に釘が落ちてる。踏んだら終わる。


職人が三人、青い顔で同じものを探していた。


ヴァルドが吐き捨てる。


何がどこにあるか分からん

探す時間が無駄

でも整理する時間も無い

だから、ずっと無駄


俺は一歩だけ中に入って、板を開いた。


レイナ

チェックリスト


即時生成

優先度A:危険排除(釘・刃物・通路)/分類ゾーン決定

優先度B:使用頻度で配置/ラベル/在庫の見える化

優先度C:入出庫ルール/作業前後の5分整頓/担当交代でも回る仕組み


ヴァルドに言った。


まず、怪我しないようにします

釘と刃物を集めます

その間、使う資材を三つだけ教えてください

今日よく使うやつ


ヴァルドが眉をひそめた。


今日使うのは…鉄板、釘、革

あと、歯車の小さいやつ


了解です

それを最短で取れる場所に作ります


職人の一人がぼそっと言った。


そんなの無理だ

ここは呪われてる


呪いはだいたい、ルールが無いだけだ。


俺は時間圧縮を意識した。

体が軽い。次の動きが自然に繋がる。


釘を拾う。刃物を集める。

通路を一本作る。

資材を寄せる。

箱を作る。ラベルを作る。

この世界の文字は読める。ありがたい。


そして、試しに自動実行枠を使った。


条件設定:同じ形の部品を同じ箱へ

工程:分類→箱詰め→所定位置へ

開始


周辺の小さな作業が勝手に進む感覚。

俺が動くたびに、置き場が少しずつ正気に戻っていく。


職人たちの顔が変わった。


え、なんで

さっきまで足場無かったのに

通れる


ヴァルドが低い声で言った。


お前、魔法使いか


違います

段取りです


段取りが魔法みたいなもんだろ、と職人が言って笑った。

その笑いが出る時点で、もう半分解決してる。


一時間後。


置き場の中央に通路が通り、左右にゾーンができた。

鉄材ゾーン。木材ゾーン。革と布ゾーン。小物パーツゾーン。危険物ゾーン。

そして入口付近に今日使う三つをまとめた即取り棚。


俺はヴァルドに言った。


鉄板、釘、革、歯車

全部この棚に寄せました

探す時間がゼロになります

代わりに、戻す場所を固定します


ヴァルドは棚を見て、無言で鉄板を取った。

一歩で取れる。

釘も取れる。

革も取れる。


……そのまま、また無言で置き場全体を見回した。


職人が口を開く。


親方

これ、作業速くなるぞ

探す時間が無い

すぐ叩ける


ヴァルドが小さく唸った。


……銀貨3じゃ安いな

ギルドに文句言う


やめて。俺の報酬が上がりそうで嬉しいけど、依頼が増えそうで怖い。


レイナが冷静に刺してくる。


今、あなたが喜んだ

危険


俺は咳払いして、次の段階に入った。


ここからが、生産と経営の核心だ。

整理は気持ちいいだけじゃない。金になる。


俺は板を見せずに、ヴァルドへ提案する。


一つだけ、追加でやりたい

資材の置き方を、使用頻度で分けましょう

毎日使うものは入口近く

週に数回は奥

月一のものはさらに奥


ヴァルドが腕組みした。


なるほど

でも、どれが毎日かなんて分からん


分かります

今から聞きます

職人さん、それぞれ

昨日使ったもの、三つだけ言ってください


職人たちは一瞬戸惑って、でもすぐ答えた。

鉄板、釘、革、油、歯車、紐、木材、布。


俺はそれを頭の中で集計して、棚に場所を割り振った。

毎日ゾーンができる。

奥に眠っていたレア資材は、奥へ追いやられる。


さらに、検証ログを開いて、数字を作る。


作業前:探し時間 1回あたり平均5分(推定)

作業後:探し時間 30秒以内(固定棚)

1日20回探すなら、80分が10分になる

差分70分

70分あれば、品物が一つ余計に作れる

つまり銀貨が増える


俺はそのまま言った。


この置き場だけで、毎日一時間近く増えます

増えた時間で、一つ余計に作れます

それが毎日積み上がります


ヴァルドは目を細めた。


……お前、職人じゃなくて商人だろ


現代だと、こういうのは当たり前なんです

作るだけじゃなく、回すのが大事なんで


レイナが小声で付け足す。


迅は回すのが得意

回しすぎるのが弱点


黙ってくれ。


そこへ、工房の扉が開いた。


派手なマントの男が入ってきた。

装飾の多い指輪。柔らかい靴。

商会の人間だと一発で分かる。


ヴァルド、納品の話だ

……ん? 何だこの置き場

別の工房かと思った


ヴァルドが顎で俺を示した。


こいつが直した

今日来た新入りだ


商会の男が俺をまじまじ見る。


お前、何者だ

整理屋か?


俺は正直に言った。


効率厨です


意味が通じたのか通じてないのか、男は一拍置いて笑った。


面白い

なあヴァルド

ここの生産、上がるぞ

納期短縮できる

値段、上げられるな


ヴァルドが目を細める。


値段を上げる話は好きだ


俺の知らないところで経営の話が回っていく。

怖い。でも、楽しい。


商会の男が俺に言った。


お前、他でもやれるか

倉庫も直したそうだな

街は今、詰まってる

詰まりを抜ける奴は、金になる


レイナが即座に警告する。


依頼が増える

あなたは増えると死ぬ


俺は笑顔のまま、逃げ道を作った。


まずはギルド経由でお願いします

俺、まだ新人なんで

順番守ります


商会の男は肩をすくめた。


賢い

じゃあ、ギルドに話を通す

名はケイン

覚えとけ


ケイン。商会。

こういう名前が出てくると、一気に世界が動き始める。


ヴァルドが俺の肩を叩いた。重い。


お前、昼飯食ってけ

あと、これ持ってけ


銀貨が一枚、追加で手のひらに乗った。


……報酬増えてる。


俺は反射で言った。


ありがとうございます


レイナが即ツッコミ。


喜びすぎ


嬉しいんだよ。しょうがないだろ。


工房を出ると、ギルドから使いの少年が走ってきた。息が上がっている。


天城迅さん!

ギルドから! 今すぐ!


俺は嫌な予感とワクワクが半々になった。


ギルドに戻ると、受付の女性が珍しく真面目な顔をしていた。


来た

早い


工房、終わりました

何かありました?


受付は紙を差し出した。封がされている。紋章入り。


領主館から

視察じゃない

招待状

今日の夕方、領主館に来てほしい

内容は…街の物流改善の件で話を聞きたい、だって


俺は封を見て、喉が鳴った。


昨日の倉庫と、今日の工房で、もう領主?


早い。早すぎる。


レイナが淡々と整理する。


優先度A:領主館に行く準備(失礼がない服、時間厳守)

優先度B:話す内容をテンプレ化(成果、手順、再現性)

優先度C:断り方も用意(依頼増やされないため)


断り方まで用意するな。

でも、必要そうなのが嫌だ。


俺は受付に聞いた。


断っても大丈夫ですか


受付は正直に答えた。


断れる

でも、断ると今後やりにくい

行って、軽く話して、帰ってくるのが一番無難


無難。

異世界にも無難があるんだな。


俺は頷いた。


分かりました

行きます


受付は少しだけ安心した顔をして、追加で言った。


あと

商会のケインが、あなたの依頼を買い取ろうとしてる

個人契約はやめとけ

ギルドを通せ

揉める


分かりました

ギルド通します


よし


受付は珍しく、ほんの少しだけ笑った。


あなた、変な人だけど

役に立つ


褒められた。危険だ。

俺の中の次を受けたいがうずく。


レイナが釘を刺す。


今日は領主

これ以上増やすな

増やすと、あなたが寝込む

寝込むと、全部止まる


俺は素直に頷いた。


分かった

今日は増やさない


本当に?


……努力する


それでいい


俺はギルドを出て、宿へ戻った。

服を整えて、靴を拭いて、髪を整える。

現代の俺が一番苦手な分野だ。


レイナが優しく助けてくる。


礼儀はテンプレ

挨拶、感謝、簡潔

あなたは余計なことを言いがちだから、短く


分かった

短くね


領主館へ行く道すがら、俺はふと思った。


現代では、時間が無くて全部が後回しだった。

異世界では、時間を増やすスキルがある。

だから、やることが前に出てくる。しかも勝手に増える。


望んだ通りだ。

でも、望んだ以上に忙しい。


門が見えた。領主館。思ったより大きい。

守衛がいて、招待状を見せると通された。


中庭は整っていて、兵士がいて、使用人が静かに動いている。

空気が違う。ここは街の上層だ。


案内役の男が現れた。黒い服。姿勢が真っすぐ。目が鋭い。


天城迅殿だな

私は領主付きの書記官、リオネル

本日はお越しいただき感謝する


俺は言われた通り、短く返した。


お招きありがとうございます

お話を伺います


リオネルは俺の顔をじっと見て、少しだけ笑った。


噂通り、無駄がない

嫌いではない


それ、褒め言葉か?


レイナが小声で囁く。


相手はあなたのタイプ

仕事人間

でも油断しないで


俺は心の中で優先度を再確認した。


優先度A:失礼なく帰る

優先度B:成果を伝える

優先度C:依頼を増やされない


案内の扉が開く。

その先に、領主がいる。


そして俺は、まだ知らない。


俺の得意な段取りが、街ひとつの運命を動かすことになるのを。

そして、気づいたら領主の右腕、の意味が今日ここで現実になるのを。


リオネルが一歩前に出て言った。


では、入っていただこう

領主が待っている


俺は息を吸って、扉の向こうへ踏み出した。


異世界二日目。

いきなり最終面接みたいになってきた。

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