表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
現代の効率厨、異世界で生産と経営を回して気づいたら領主の右腕  作者: 検証中


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

19/43

第19話 拳サイズひとつ、で全部を守る

朝、砂時計を逆さにする前にレイナが言った。


今日は欠片の日

拳サイズひとつ

掘りすぎない

触りすぎない

話しすぎない


分かってる。

昨日は場所を取った。今日は欠片を取る。

一歩ずつ進むほど遅く見えるけど、結果的に一番速い。


フィンが戸を開けて顔を出す。


ギルド、朝から人が増えてる

昨日の札、効いてるけど

効いてるから余計に集まってる感じ


レイナが即答する。


集まるのはいい

走らせない仕組みがあるなら

問題は走る口実が生まれること

今日は口実を潰す


ガイルが腕を組んで言う。


欠片を取る瞬間が一番危ない

欲が正当化される

俺は入口を締める


ミナが小さな木箱を机に置いた。中に布と蝋が入っている。


封印用

欠片は匂いが強いはず

空気に晒す時間を短くします


レイナが少しだけ声を柔らかくする。


ミナ、その箱が今日の勝ち筋

欠片は石じゃない

噂の燃料

燃料は蓋をする


ラルカが短く言う。


俺は止める

お前は取る

迷ったら俺が止める


ユハが頷いた。


俺はギルドで鑑定までの道を作る

人の目を避ける

目が増えるほど火がつく


役割が揃った。

こういう日は勝てる。


レイナが最後に確認する。


今日の順番

ギルドで道を作る

鉱山で拳サイズ

すぐ封印

すぐ鑑定

結果が出るまで静か

結果が出ても静か


俺は頷いて立ち上がった。


行く


ギルド前は昨日より熱い。声が増えてる。目が増えてる。

でも昨日と違って、入口の熱が外へ流れている。札のところに人が溜まっている。走ってない。


依頼板の前で、見張りの札を見た若い冒険者が言う。


見張りなんてつまんねぇ

宝の話だろ


レイナが小さく言う。


ここで説明しない

説明すると火がつく

短く、目的だけ


俺は短く返す。


宝じゃない

調べ物だ

勝手に奥へ入るな

入ったら次は無い


若い冒険者は舌打ちしそうになって、隣の仲間に止められる。止められる程度に空気が落ち着いているのが助かる。


ユハが依頼板の横に立って、俺に言った。


鑑定師を裏口に待たせた

欠片を持ち込むなら裏から入れ

正面は人の目が多すぎる


レイナが即答する。


正解

目は情報になる

情報は火になる

裏でいい


ユハがさらに言う。


あと、依頼を一つ増やした

入口の柵作り

見張りが暇になると勝手に動く

だから手を動かさせる


良い。

走りたい連中は、暇だと走る。手が塞がると走れない。


俺は依頼板に短い札を追加した。文字数を削り、要点だけ。


旧鉱山 入口柵の補助

報酬:小

内容:縄張り、杭打ち、荷運び


レイナが満足そうに言う。


燃えやすい人ほど

体を動かす仕事が効く

言葉より効く


準備は整った。

鉱山へ向かう。


道すがら、フィンが小声で言う。


欠片ってさ

持ち帰ったら皆が見たがるよね


レイナが淡々と言う。


見せない

見せる必要がない

見せたい気持ちが一番危ない

見せるなら結果だけ


結果だけ。

その方が強い。


鉱山入口。

今日は入口が賑やかだ。見張り札に人が付いて、柵の補助で杭が運ばれている。熱が仕事に吸い込まれてる。


ガイルが入口で腕を組んで待っていた。


今日、奥へ入るのはお前らだけだ

それ以外は線より中へ入れない

文句は俺が受ける


頼もしい。

止める筋肉が入口にいると、現場は静かになる。


支柱点検を先に済ませる。

昨日と同じ。悪化なし。

湿りの支柱③は、石灰線をほんの少し足すだけ。


レイナが短く言う。


安全確認完了

欠片は時間勝負

でも急がない

手順だけは速く


欠片採取に入る前に、ミナが木箱の蓋を開ける。布と蝋と、小さな革袋。

ゼフが工具を持ってきた。短いタガネと小槌。大きい工具はない。


ゼフが言う。


振動を減らすなら

小さく刻んで

最後は楔で割る

叩きすぎると壁が割れる


レイナが頷くみたいに言う。


ゼフの手順でいこう

叩く回数を数える

上限を決める

上限を超えたら撤収


俺は小さく息を吐く。


回数を数えるのは効率だ

やる


フィンが砂時計を入口に置いた。今日は二つだ。短いのと長いの。


短いのは採取用

落ち切ったら一回止まれ

長いのは帰還用

落ち切ったら強制撤収


レイナが低く言う。


時間を二段にするの賢い

止まるタイミングがあると

欲が入り込みにくい


採取班は最小。

俺、ラルカ、ゼフ、ミナ。

ユハは入口側で裏口の手配に走る。ガイルは入口。フィンはタイムと合図。


問題の壁一点、第二支柱手前。

甘い金属臭が、今日もそこに刺さっている。昨日より少し濃い気もする。


レイナが先に止める。


匂いが濃い

でも意味づけしない

今日は欠片

欠片だけ

匂いの強さは記録して終わり


ゼフが壁を見て、タガネの角度を決める。


ここ

亀裂の縁

まず浅く線を入れる


小槌が一回、乾いた音を立てる。


一。


二。


三。


俺は頭の中で数える。

回数を数えると、余計な一撃が減る。


五回目で、壁の表面が薄く剥がれた。灰っぽい粉が落ちる。匂いが一瞬だけ濃くなる。


ミナがすぐ布で粉を受ける。空気に散らさない。


レイナが言う。


良い

散らさない

散ると噂になる

噂はここから始まる


ゼフがタガネを少しずらす。


次は楔

叩くのは最小

割れたらすぐ布で包め


小槌が二回。

壁が小さく、ピキ、と鳴った。


その瞬間、匂いが刺さった。甘くて金属で、頭の奥に残る。


ラルカの手が上がる。


今だ

これ以上叩くな


レイナが重なる。


止める

今が一番危ない

欲が出る瞬間


ゼフが動きを止めて、指先だけで亀裂を広げる。

拳サイズより少し小さい欠片が、するりと外れた。


ミナが即座に布で包む。包んだ瞬間、匂いが半分になる。

布の上から蝋を垂らして、空気が入る隙間を塞ぐ。

革袋に入れて、木箱へ。蓋を閉める。


レイナが落ち着いて言う。


封印完了

ここまでで勝ち

次の一歩を踏むな


俺は壁を見た。もう一つ取れそうに見える。

でも見えるのは罠だ。

見えるから欲が出る。


ラルカが短く言う。


帰る


フィンの声が入口から届く。


短い砂、落ちた!


完璧な合図。

止まるための合図。

これがあると戻れる。


俺は頷いて背を向けた。


撤収


入口へ戻ると、見張りの連中が目を向けてくる。木箱が見える。

見せたい気持ちが湧く。

湧くけど、ここで見せたら負ける。


レイナが釘を刺す。


目が増えた

今ここで開けたら終わる

言葉も短く


俺は木箱を抱えたまま、見張り役にだけ言う。


今日は終わり

奥は封じる

仕事に戻れ


不満の顔が少し出る。

でも柵の杭が手元にある。

手が動けば足は止まる。

ユハの作った流れが効いてる。


ギルドへ戻る道は、正面を避ける。裏口へ。

ユハが待っていた。鑑定師もいる。年配の男で、目が細い。


鑑定師が言う。


欠片はどこだ


俺は木箱を差し出す。

ミナが蝋の封を指で示す。


空気に触れると匂いが強いです

開封は室内で

窓は閉めて


鑑定師が小さく笑う。


匂いで人が集まるのは面倒だな

よし、こっちだ


奥の小部屋。窓は閉められ、布が垂れている。

鑑定師が箱を開ける。布をほどく。

一瞬、甘い金属の匂いが部屋に刺さった。


鑑定師の表情が変わる。

驚きじゃない。確信の顔だ。


これは……香鉄の類

いや、正確には香鉄石だ

精錬前の鉱石で、匂いが出るのは揮発成分が混ざってる証拠

加工すると匂いは薄れるが

触媒としては価値がある

錬金術師が喉から手が出る


フィンが息を呑むのが分かる。

俺も内心で頷いた。だから匂いが刺さる。


鑑定師が続ける。


ただし厄介だ

匂いがあるってことは、周辺に空洞や通り道がある可能性が高い

変に掘ると、匂いの通路が広がって

人も虫も集まる

あと、支柱が緩む


レイナが即座に結論を出す。


つまり

大量採取は危険

少量で管理

現場優先


俺は鑑定師に聞く。


価値は


鑑定師が指を二本立てた。


普通の鉄鉱の二十倍は堅い

ただし流通量が増えたら下がる

それと、錬金用途は加工者が限られる

売り方を間違えると燃える


燃える。

それが一番怖い言葉だ。


レイナが淡々と言う。


売り方を間違えると燃える

燃えると鉱山が死ぬ

鉱山が死ぬと街が死ぬ

だから扱いを先に決める


鑑定師が頷く。


お前の後ろの声、賢いな

これを個人で回そうとすると揉める

領主に預けろ

ギルドは鑑定結果だけ公示する

現物の場所は伏せろ


ユハが言う。


公示って言っても

言い方を選ぶ

希少の名前だけ出すと走る


レイナがすぐ返す。


名前だけ出すと走る

だから内容を短くする

価値は言わない

危険だけ言う

危険があると人は勝手に動きにくい


俺は頷いた。


公示は

旧鉱山で希少鉱が確認された

ただし危険があり、勝手な採掘は禁止

領主とギルドの管理下で調査を進める

これだけ


鑑定師が笑う。


それでいい

価値を言うのは最後だ

最初に価値を言うと街が壊れる


木箱はそのまま領主倉庫へ。

ユハが手配してくれた。裏口から運んで、目を避ける。

ブラントは運搬として呼ばない。呼ぶと匂いが増える。まずは静かに預ける。


レイナが言う。


ブラントは後で

今呼ぶと

自慢したくなる

自慢は火


その通りだ。


夕方。拠点に戻ると、入口の柵が半分できていた。見張りの連中が疲れて静かになっている。

走る元気が削れてる。これは勝ちだ。


フィンが言う。


欠片、取れたのに

皆に見せないの、すごいね


すごくない。怖いだけだ。


レイナが淡々と言う。


見せないのは強い

でも今夜は一つだけ

味方には言っていい

場所は言わない

結果だけ言う


ミナが帳面を開く。


鑑定結果

香鉄石

危険:空洞の可能性、掘りすぎで崩落と虫の誘引

対応:少量採取、管理下調査


ラルカが短く言う。


明日からは

入口を固める

勝手掘りは許さない


ガイルが言う。


俺は入口で殴らないで済むようにしてくれ

殴るのは後が面倒だ


殴らないで済むようにするのが俺の仕事だ。

俺は板に一行だけ書いた。


香鉄石 管理下調査

入口柵 完成

採取は拳サイズまで

次は通り道の確認


レイナが最後に言う。


今日の勝利

欠片を取った

燃やさなかった

鉱山を揺らさなかった

明日の仕事は

通り道の確認

でも深追いしない

深追いしないために

先に道具と人を決める


俺は頷いた。


明日も一歩だけ


その時、外で小さな騒ぎが起きた。

入口柵の向こう側。見張りの声。


誰だ、おい

線より中に入るな!


空気が一瞬だけ尖る。

俺の背中が冷える。


レイナが低く言う。


来た

勝手掘りじゃない

でも試しに踏む人が出た

明日は柵を完成させる

そして見張りの言葉を統一する

言葉がバラバラだと

穴ができる


穴ができる。穴があれば人は入る。


俺は立ち上がった。


行く

止める


異世界十九日目、まだ終わってない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ