ありふれた日常と潜む諸悪
この話を以て、序章は終わりです。長い空き期間はできてしまったけど、なんとか書き切りました。
『悪性アバター』が突如として不具合を起こし、その後に機能を失ったかのように動かなくなった。
どうやら、この間のナノマシンによる発作の影響だろう。持ち主はそれによって死んだと思われる。『悪性アバター』が消えかけたタイミングで、ナノマシンが起動したのだ。
動かない『悪性アバター』を見ていると、3人が合流してきた。
「そっちも終わった?」
「えぇ、件の『アバター』を追い詰めたけど、動かなくなったわ」
3人は動かなくなった『悪性アバター』を眺める。それを見て、例のナノマシンのことを思い出したみたいだ。
「動かないな。まさかと思うが、あのナノマシンか?」
「おそらくそうでしょうね。それに、こいつはロシアのハッカーだと言ってたわ」
私の言葉に、アリスは何か思い当たる節を感じる。
「ロシア? これもロシアが絡んでるの?」
「ロシアのハッカーなら、相当厄介ね。あの国は今、サイバー関係に力を入れていると聞くわ」
美生の言葉に、私たちは美生の方向に振り返る。ホワイトハッカーをやっている彼女なら、何か思い当たる節があるのだろう。
「何かあるのか?」
「あの国は近年ランサムウェアによる他国企業の機密情報の漏洩を国がらみでやっているらしいのよ。今回のこともそう。でも、偶然その場に私たちがいたからどうにかなったけど、もしいなかったと思うと、ゾッとするわよ」
「その間に、多くの日本企業が被害を受けていたのでしょう。だけど、なぜロシアはこう言うことを?」
私の質問に、アリスは答える。
「理由は簡単だよ。今のネットワークの導入が西側よりも遅かったんだよ。だから旧来のネットワークでできた事ができなくなった以上、自分たちよりも今のネットワークの導入が早かった日本とかをサーバー攻撃しているんだ。アメリカでも、その手段で被害を受けているわけだし」
「あのナノマシンも、ロシアが開発したの?」
「おそらくそうだよ。ナノマシンを媒介に、人間と『アバター』を擬似的にリンクさせる。そして、『アバター』が消滅の危機に瀕したら、持ち主の人間を心臓発作で死に至らしめる。昔流行ったフェンタニルよりも薬物のリスクがない優れものだよ」
「そう聞くと冗談じゃないな。ともかく問題は山積みってわけだ。アメリカとロシア、それにEUの動向も怪しい。例の党が影響力を増していると聞くが、その辺はCIAは把握済みなのか?」
香里奈はアリスに質問する。私たちよりも早く『ブレイバー』として活動している彼女は、私たちがまだ知り得ない情報を持っているみたいだ。
「CIAは動向を追っているよ。まだ小さな党の割に、資金が潤沢すぎる点で怪しんでいるそうよ」
「そうなると、いよいよ私らは踏み入れていけない領域とやらに踏み込んだみたいだ」
3人は混迷とする事態を考察し合う。しかし私は、事態がそう簡単じゃないものだと悟る。
「アメリカ、EU、ロシア。これらの国々には何か裏があるんでしょう。でも、その細部に潜む諸悪があることは確かだと思うわ」
「美羽? それはどう言うこと?」
「側から見たら、私たちは特殊な人種だと思う。でも、それ故に気が付いてはいけない何かに触れている気がする。私たちは触れてはいけない何かに手を出そうとしている。だけど、これを放置すると世界はまた大きな戦争に発展する。それだけは食い止めなければいけない。私たちはそれを止める義務がある。それから逃げることは許されない。いや、逃げてはいけないんだと思う。その先に、大切な人たちとの平穏な日常があるのなら、私は喜んでそれを請け負うわ」
私の言葉に、香里奈は食い気味に質問する。
「私らは引き返せない領域にいるってわけか」
「そうよ。それを裏で操っている奴は、手段を問わない方法で私たちを消そうとする。それを追い払う覚悟はできている。私たち『ブレイバー』は、その諸悪を倒す使命がある。絶対に、戦争なんて起こさせないわ」
私の言葉に、3人は頷く。みんなも、考えていることは一緒のようだ。
「まぁ、元からそのつもりだし、大船に乗った気分で着いていくわ」
「あぁ、テメェの勝手で住む場所を追われちゃ話にならねぇしな。なら食い止めてやるぜ」
「私も祖国を思う者として、一枚噛んであげる。祖国がこんなことをしてるなんて、許さないんだから」
「ありがとう。それだけで充分嬉しいわ」
私は3人に感謝をする。そうしていると、そろそろ時刻が7時になる。
「時間切れみたいね」
私が時間切れと悟ると、3人はそれぞれ消えていく。どうやら、『電脳世界』からログアウトしたそうだ。私も目を閉じ、『電脳世界』からログアウトする。電子の光に包まれながら、視界は黒く染まっていった。
そこから少しして、目を開ける。霞んでいる視界が晴れてくると、いつもの自分の部屋の天井だった。
時刻は午前7時。あの出来事が、わずか7時間の間に起こっていたことに驚きを隠せないでいた。辺りを見渡していると、ドアをノックする音が聞こえる。どうやら、彩葉がいつものように起こしにきたみたいだ。
「お姉ちゃん。朝だよ」
その声を共に、ドアを開ける。こうして、私の日常はまた始まっていくのだった。
それがまだ、あの超大国の腐敗によってできたものとは、この時の私は知る由もなかった。
ここまでご拝読いただきありがとうございました!
この長さではありますが、まだ序章です。次回からは第一章が始まります。
投稿時期については4月〜5月中になるかと思います。一応ですが、前編と後編に分けて投稿する予定です。
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