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【1-1】白銀の少女

「由羅!玄さんにオリーブステーキね! ってまた本読んでるの?仕事中!」

「いーの!休憩中なんだから。はいはい、すぐに作るから持って行って」

「はーい」



蒼天国。

澄んだ真っ青な青い空を輝かせ、その空を守り続ける国の名。

都からはるか遠くに位置する自然豊かな小さな町の一角に、日々賑わう町唯一の料理店「ゆりかご」がこの店の名前。

もうすぐ15歳を迎える珍しい白銀の髪を持った少女【白妙】はこの「ゆりかご」の看板娘として有名でその快活な声と笑顔に町の住民はよくこの店を訪れていた。


ゆりかごの店主には同じ白い髪をした青年【由羅】がおり、何もないさびれたこの町に彩を添える存在として毎日住民の腹を満たすおいしい料理を用意していた。


この蒼天の国で【都から離れた場所にある】というのはとても重い意味を持つ。


都から離れているというだけで1つの町なんて簡単に壊れてしまうというのに、このゆりかごがあるだけでこの町にはこうして毎日賑わう声でいっぱいになる。


そんな光景を毎日忙しく店内を走り回る白妙は、とても誇りに思っていた。



「白妙!」


オリーブステーキを由羅から受け取り、玄のテーブルに持っていた時名前を呼ばれた方を見るとそこには

茶色い髪の同い年くらいの少女と、金の髪をした顔見知りの少年を見つける。


「白妙、そろそろお昼時も終わって落ち着くしそろそろあがっていいよ」

「え?でもまだお客さん沢山いるし」

「大丈夫だよ、行ってきな。自警団の方にもまだ今日は顔を出していないだろ。あとほら、これもってけ」


紙袋に3人分の軽食を雑に詰め込み、ほら、いったいった、と面倒くさそうに手を払う由羅に「ありがとう!」と使い古したエプロンを外して白妙は2人の待つ店の外へと駆け出した。



2人は唯一年の近い友人で、美津と昴という。

美津は3カ月前に15歳になった少女で、昴は17歳の園芸店の一人息子。

商業区にある中等学校がない日はこうして集まり、3人で過ごすことがほとんどだった。


「あ、これ。由羅がみんなで食えって」

「えー!?さっすが由羅さん!あんたとは比較にならないくらい気遣いの人!」

「は?う、うるせーよ」


軽食には由羅が店の裏で自家栽培をしている様々な野菜で作ったサンドウィッチがいくつも詰められていた。

ゆりかごは由羅が自ら作った野菜や果物をメインとした料理を出すということが特徴。

一応町に青果店はあるが、そこの素材を店で出したことも家の料理でも出したのは一度もない。


「自分で作れるんだから作った方が安く済むだろ」とは言っていたが、育てるための費用や労力は計り知れなく、絶対買ってきた方が安く済むし時間もかからないのでは?と思う。

しかし毎日野菜に語り掛けて水や肥料をやっている姿を見ればもうわざわざ聞くほどでもなかった。


「いつか野菜だけじゃなくて牛とか豚とかも育てそうだよな」

「この前にっこにこで提案してきたからさすがに止めてきた」


からかうように冗談を言う昴に、白妙は呆れたように溜息をつく。

これ以上やればさすがに2人の手じゃ間に合わなくなる。

反対したときの寂しそうな顔をした由羅を思い出し苦笑いが抑えられない白妙は、ちらりと由羅を軽く睨む。


「ねえねえ、そういえば由羅さんの誕生日っていつ?そういえば聞いてなかったー!ってこの前気付いてさ」


ずっとお世話になっているから贈り物がしたい、と美津は言う。

15歳になりアルバイトが出来るようになったのもある。だが美津に聞かれた白妙は数秒固まり、その後ハッとした。


「そういえば私も知らない」

「え!?なんで!!」

「なんでって言われても…。そういえば正確な年齢も分からないな」


由羅とは兄妹でもなければ血縁者でもない。

3年前。由羅が人里から離れた森の奥深くで、山菜取りをしている時に倒れている少女を見つけ保護した。その少女が白妙だった。

かすかに呼吸はしていたが、全身に大きな怪我をして大量の血を垂れ流し、ほぼ瀕死状態だったと聞く。


由羅の懸命な救命活動によりその後目を覚まし、体も見る見るうちに回復していったがその当時はおろか11歳までどうやって生きてきたのかすら覚えていないし、その頃はまともに言葉も話すことが出来なかった。


だが孤児はあまり珍しいことでもなく、言葉が話せないというのも決して多くはないが一定数はいるような国だ。

他に家族がなく1人だった由羅は少女を保護し、名前がない子に髪の色から「白妙」と名付け言葉を教えた。


11歳というのは唯一の所持品だという銀のペンダントに出生日のような日付が刻まれていたからであって本当に11歳なのか、そして誕生日が8月4日であるかは不明。


由羅曰く「まあ、見た目11歳くらいだし11歳ってことでいいか」ということらしく、ならまあ今は14歳くらいでしょ、という状態だ。

特にそこに悲劇の一つも感じないし、今はこうして毎日おいしいごはんを食べられるし、こうして友人とも話せるから何の曇りもなく幸せだった。


「誕生日なら今日の夜にでも聞いてみるよ」

「よっしゃ頼んだ!それまでちゃんと貯金するんだぁ。ふふふ、予定では5年後くらいにあんたの姉になるつもりだから用意しておいてね!」


ぐふふ、とサンドウィッチにかぶりつきながらやっと落ち着いた店内を眺める美津の後ろで溜息をつく。


「美津のやつまだ諦めてないのかよ…。この前振られたばっかだろ」

「あなたもさっさと告白して意識くらいさせればいいんじゃない?」

「…振られる前提でいうんじゃねえよ」


食べ終わったサンドウィッチの包み紙を紙袋に詰め込み、ゴミ箱に入れる。


「そろそろ自警団の方に行ってくる。またあとでね」

「おー」



町の自警団は閉ざされた町の入り口のすぐ隣に建っている一番大きい建物。

そこには鍛錬を重ねた町の多くの男性が所属しており、いくつもの武器が所蔵されており、時には避難所に、時には備蓄庫のような存在にもなっている場所だった。



この蒼天国は数10年ほど前から突如増えたある不特定な存在に脅かされている。

その存在をこの国では【壊鬼】と呼んでいる。


一定の姿を持たない壊鬼は人を見つけると容赦なく襲い掛かってくるような攻撃性の高い存在でありながら、国のほとんどの人間はその姿すら認識が基本的に出来ない。


よって知らないうちに狙われ、気が付いた時にはもう命を奪われている。



そんな壊鬼から国、国民を守るのが英王軍、軍人だ。

彼らは一般の人間よりも強い【印】を持つことで壊鬼の姿を見ることが出来、殺すことが出来る存在だ。


この国は軍の力がないと生きていられない。

生きていられないが、現状軍人が守れているのは蒼天の頂点である【英王】がいる英都と、人口が多く重要施設が多い都のみ。

それ以外の小さな町は軍人の力を得られずに生きていかなければならない。



そこでこの町が立ち上げたのが【自警団】

軍には力こそ及ばないが自警団に所属する全員、壊鬼を認識することが出来る程の強い印を持っているし、今町が壊れずにいられるのはこの自警団のおかげだった。

居住区に壊鬼を入れないように結界を作り出して、他の町への道を巡回し守っているのも自警団。

この町にとっては軍なんかより自警団の方が圧倒的に頼りになるし、信頼できる相手だった。


そんな自警団に唯一の女性で、唯一の子供として所属しているのがこの白妙だった。

とはいっても戦うほどの力はなく、町の外にもほとんど出たこともない仮所属といった状態だが、一応名簿に名前は載っている。


本来は戦う力もない人物が自警団に入ることなどないが、白妙は他の誰よりも壊鬼に早く気が付くことが出来た。

そのおかげで何度も外からの壊鬼の襲撃に備えることが出来たため、その特性1本で所属することが出来ている。



「おう、今日の巡回はどうだった?」

「東の丘のところに壊鬼がいたからやってきた。最近多いからな、もう少し範囲を広げたほうがいいのかもしれない」

「今日の報告会で言っといたほうがいいな」


ちょうど巡回を終えた自警団員に挨拶をし、その後姿を見つめる。



【早く壊鬼を殺せるようになりたい】


武器を持つ屈強なその姿を見て白妙は思う。


今のままではただの発見器。

もっと言えば壊鬼の発見器のような道具は国がもうすでに作っているし、一般人でさえも買えるような安価な物。

異なる点といえば少し早く壊鬼に気が付くことが出来るだけで、発見器と違う機能は自発的に喋れることだけ。


「このままじゃだめだな」



手にあるのはただの武器。鉄製の刃をもった簡易的な武器で、自警団が使うような壊鬼を殺すための印で加工された武器ではない。

まだ自警団でもない白妙は持つことを許されてはおらず、人は殺せても一番殺したい壊鬼だけは倒せない玩具を握りしめるしかなかった。


だが、そんなこと言ってはいられない。


ぐっとナイフを握りしめて、いつも向かう町の奥に捨てられた廃屋を目指す。

何度も何度もナイフで切り刻み傷がついた廃材、想像で作成したいくつもの布を重ねて不規則な動きをする壊鬼を真似た人形。

今は鍛錬を重ねるしかない。

強くなれば、力を付ければ自警団に正式に入ることが出来る。


「大丈夫、うまくやれば、大丈夫」


そうすれば自警団のみんなのように私も、由羅や美津、昴達、町のみんなを守ることが出来る。

強くなれば誰にも邪魔されず、———壊鬼が殺せる。


ぐっと力を込めて風に揺れた人形を避け、ナイフを突き立てた瞬間だった。




———壊鬼が、いる。


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