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【1-9】恐怖と羨望

自警団にはこの小さな町に住んでいる男が所属している。

1番若くて22歳、最年長は67歳。この小さな町を守るため、昴は除いてほとんどの男性が所属する。

みな見るたびに厳しい顔をしており、眉間にしわを寄せ毎日毎日汗と血を流して壊鬼と戦っている。


身体が大きく、筋肉隆々な男性ばかりで戦うためには大きな体と大きな筋肉が必要なんだと白妙は思っていた。


それはこの国を守る軍人も当然のように同じものだ、とも信じて疑わなかった。

自警団より強いのなら体はどれくらい大きいのだろうか。どのくらい厳しい顔を、怖い顔をしているのだろうと。


「…………???」


だがあの軍人はどうだろうか。

身長は高い、あそこの梁は2mくらいだから、180cmくらいはあるように見える。

制服に隠れているだけか?あの腕も、脚も、自警団員に比べてみても全く太くなんてないしむしろ細すぎなようにも見える。

またあの表情、さきほどの佇まいも想像以上に怖いと思うような雰囲気は感じられずにむしろどこか自信がなさそうな、どこか弱弱しい、何かに怯えているのではないかとすら感じるようなものだった。


でも紛れもなくあの人はこの国を守っている軍人様。

不思議なものだ、あのような人もいるんだな、と白妙はその後辰馬と呼ばれた軍人から目を離そうとはしなかった。


「白妙、はいこれ。あとは僕1人で大丈夫だから外行ってな」


店内でぼーっとしてしまっていた時に由羅は紙袋にいれた朝食を手渡し、なぜか「まだ見ていたい」という感情に逆らいながら白妙はゆりかごを出た。


外に出ると白妙はぎょっとした。

店を出たすぐ前の階段下に広がるように町中の子供たちが集まってしまっており、一瞬思わず何事!?と驚きもしたが考えてみれば当たり前だった。

なるほど、テレビでしか見ない軍人が来れば見に来たいとも思うか、と。


「あ!白妙、こっちこっち!!」

「え、美津!昴もいる…!」


ぶつからないように子供たちを避けながら階段を降りると、唯一の友人である懐かしさを覚える美津と昴を見るとゆっくり歩いていたことも忘れて思わず駆けていってしまった。


「あんだよ、元気そうじゃん。心配して損したわ」

「何言ってんの!毎日学校帰りに白妙の部屋覗こうとしたくせに」

「ばっ……!?覗いてはねえよ、ちょっと見ただけだよちらっと!!おいそんな顔するな真に受けんな!」


「いやもう由羅に見つからなくて本当に良かったと思ってる、あの、本当に気を付けて」

「……え?」

「ま、よかったよ。私も簡単にくたばるとは思ってないから!!」


くたばるって、と一応病み上がりの相手にと思いもしたがこの会話がやっぱりあまりに心地がいい。

「ありがとう、2人とも」白妙は2人の友人に笑いかけた。


店の前で群がっている子供たちを流石に鬱陶しく思った自警団員の1人が「あっちいってろ!」と店内から怒声を浴びせたことでやっと人がまともに通れるようになった。

「ちぇー」と文句を言ってばらけているとやっと目の前に6日間も姿を消していた白妙がいることに気が付き、今度は白妙を囲むように集まってしまった。



その後ゆっくり美津達と談笑をしながら由羅に貰った朝食を食べていると、ゆりかご内では朝食が終わったのか閉まっていた店の扉が開くと中からぞろぞろと青い軍服と自警団員が出てくる。

「あっちいけ」といわれながらそう簡単に言うことを聞くはずもない子供たちはやっと出てきた軍人たちを前にするとあからさまに興奮状態に切り替わる。

きらきらと輝く笑顔に、「かっこいー!」と声をあげる女の子、「やべえええ!あの武器かっけーー!」と声を荒げる男の子。


店内のことなど完全に忘れていた白妙だったが、子供たちの熱狂にさすがに釣られてしまった結果視線を移してしまった。


あの軍人様、どこにいるのかな

無意識に1番若くて、縦に大きいがどこか弱弱しいあの目を引く軍人を探した。


「(あ、いた)」


誰よりも大荷物を担いで列の一番最後、ゆっくりゆりかごの扉を閉めたあの軍人様。

あの人はどんな戦い方をするのだろう、戦うときはどんな顔をするのだろう。

そんなことを考えながら真っすぐと眺めていたら、ピタリとあの緑色の目と目が合ってしまった。


その瞬間だった。


「っ!? ……え…」



全身が何かに押さえつけられたかのように硬直し動けない。

ずっと見つめていたことがバレてしまったんじゃないか、という羞恥ではない。これは、これは……。



———怖い。

あまりにもあの人が、恐い。



だが合った目をあちらから逸らされると耳に届いていなかった喧騒が再び戻ってきて、先ほどまで動かなかった体が簡単に意思のとおりに動き出した。

しかもなぜだろう、恐いと思っていたはずなのに今はなぜそんなことを思ったんだろうと不思議に思うほどに激しく動いた心音が落ち着いた。


なんだったんだろう。

もう1度真っすぐ彼の姿を目に、脳に焼き付けようとした。今度は先ほどのような恐怖は感じられない。だがもう彼から目を離すことなんて自分からは出来なかった。

恐怖ではない。これは明らかな羨望。

初めて自警団を目にした時も感じなかった恐怖を与えたあの人を。



ああ、あれがこの国を守る軍人様なんだ。


白妙の羨望はこの場にいる誰よりも強く、あの1人の綺麗な緑色の目をした『辰馬』という男だけに注がれていった。




この町に訪れた軍人は総勢6名という小さな部隊。

朝食を終えた彼らはいくつかの班に分かれ町周辺の巡回を行う者、周囲の壊鬼の形跡の調査を行う者、物資の点検をする者など複数に渡った。

自警団員はもれなく全員参加していたが、勿論白妙は参加の対象ではない。


道すがらに聞く自警団員の軍人相手に教授してもらうことに対する抑えきれない感嘆には、やはりどうしても羨ましい以外の感情は抱くことが出来なかった。


「(出来ることなら、出来ることなら!私も仲間にいれてほしい)」



切実に思うがもちろん叶うものでもない。

途中から若干自警団員に対して嫉妬心を飛び越えて憎悪を抱きかねなかったが、くいくいっと裾を引いてきた子供たちの「一緒にあそぼ!」という無垢すぎる誘いを受けてなんとかどす黒い憎しみを持たずにいられた。


いつもは女の子はおままごとやお裁縫、男の子は木刀で競い合ったり虫を捕まえて女の子を怖がらせるなどの遊びで2極化することが多かったが、今日だけは違ったようでみんな口を揃えて【軍人ごっこ】なるものをやりはじめる。


ひげを蓄えた軍の総監、国民に人気のある壊鬼狩りと名高い軍務隊長、御伽噺の中のような存在である竜に跨って戦う青龍軍、彼ら軍人が守る国民や英王一族。


テレビや本で蓄えた知識を総動員して子供たちは役割を考えてい分に当てはめていき、家の中から小道具を持ってくるなど意外と本格的。


「意外と本格的にやるのな…」と驚きを隠せない昴は先ほどまで面倒くさそうにしていたのに関わらず、

「昴兄ちゃんは青龍軍の軍人さんね!」と言われるとあからさまに顔色を変えて普段は持ちもしない木刀を離すまいと握りしめた。


「ねね、私は誰役をやろうか?あ、この朱雀軍の女性の軍人さん空いてるなら私が…」

せっかくやるのならはりきっていこうとした白妙は、紙に書かれた名前を指さして立候補しようと提案をしてみたが、

「だめ!それ私がやるから!ほら、かわいいお洋服持ってきたの!」

とすでに立候補者がいたらしく手を下げる他なかった。


じゃあこの新兵さんを、と言えば「僕がやるの!」と言われ。

じゃあこの悪徳警備官を、と言えば「それはこの人形にやらせて倒すからだめ!」と言われ。

え、えっとじゃあ自警団役はいる?と聞くと「いない」と却下され。


「……な、なるほど私は国民、ね! あ、え、と。お、おたすけー…!」


最終的に最後まで残った普通の国民役になってしまった。

守る者がいれば守られるものも必要だよね!と理解はしているし、なにもただのごっこ遊びだ。

別になんてことはないのだが、なぜか美津は翠が演じる英皇女の姉になるわ、昴は青龍軍の軍人になるわでごっこ遊びといえど少しばかりあの2人に妬みを覚えた。



「白妙ねえちゃんは自警団なのに一緒にお仕事しなくていいの?」


ごっこ遊びの最中、50mほど先で決闘をしている子供たちを眺めていたら軍人役の男の子に話しかけられる。

ちらっと遠くの方を見てみると資材を運んでいる自警団員や、武具の手入れをしている姿を見つけた。

自分はと言えば土の上に座り込んでいる。


なかなか面と向かって言われると手厳しい。

そういえばもう何度言われたか分からないが、昴や美津にも言われたことがある気がする。

「いつまで自警団なんてやってるの?」と。

悪気はないのは知っているが、自警団に入っていなければ美津達のように学校に行っている可能性だってあっただろうし、もっと由羅の店に本腰を入れることだって出来たかもしれない。


6日間ずっと寝込んだり、団長に怒られたり、武具も持てないしただの資材運びも武具の磨きだってさせてもらえないけど。


「…んー、そうだよね。自警団なんだからみんなの役に立たないといけないんだよね」


まだ何もできないし、何もさせてもらえないような名前だけの自警団。

でもそんな私でも団長は例外的に名前だけはいれてくれたし、会議にだって参加させてくれる。

本部倉庫の掃除だって、備蓄庫の補充だってさせてもらえる。


焦っちゃいけない。1個ずつ、1個ずつ。


風に靡いた柔らかい小さな頭に手を乗せて少しくしゃりと髪を乱れさせる。


「お姉ちゃんはまだ頑張ってる途中なの。

今はただの国民でも頑張っていけばあそこの決闘に参加して勝てちゃうくらいに強くなれるんだから」


この小さな命を守る。


私が自警団になったのはこの町のみんなを守るためだ。

それがわたしのやりたいことだから。



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