8 感じのいい男からもたらされる
ナックに相談した結果、結婚相談所に行こうと決意したまでは良かったが、よく考えてみると俺は妻になる女性にルシファー召喚のため生贄になってもらわなければならないので、それを相談員に正直に話したら、その時点でいくら王立警備隊隊長であっても追い出されるんじゃないだろうか。
だってその時点で花嫁は幸せになれないわけで、でもこちらの事情を話さず結婚できたとして、結婚後正直に話したら結婚詐欺として訴えられるんじゃないか。
騙してるんだし。
俺が訴えられるとか、不名誉なことになったら、師匠にもとばっちりが行くかもしれない。
俺だけならどうでもいいが、師匠に迷惑をかけることだけは避けたい。
結婚相談所はなしだ。
一夜にして振出しに戻ってしまった。
俺はまだ始まってすらいない。
不甲斐ない。
昼休みに食堂に行くとナックに声をかけられ、ナックとナックの部下のカイルと飯を食うことになった。
「で、どうなったよ」
席に着き、水を飲むと向かいの席に座ったナックが頬杖を突き俺に言った。
「どうもなっていない。昨日の今日だ」
「まあそうだよな」
「カノンの結婚の話ですか?」
ナックの隣の席に座ったカイルがいつものニコニコした顔でこちらを見ている。
年は俺より五つ上だが童顔なので十代にしか見えない。
物腰が柔らかく親切で誰からも好かれる男だ。
感じがいいというのはこういう男を言うんだろうと思う。
見た目も声も相手に不信感を与えるものが何もない。
きっと結婚相談所に行けば一番人気が出るタイプに違いない。
「別にナイショじゃねぇんだろ?」
「ああ。結婚したら宿舎からも出るし、どうせばれる。でも次の非番に結婚相談所に行くのは辞めにした。せっかく考えてくれたのに済まない」
「嫌そんなのはいいけどよ」
「カノンは優しいし、素直だから本気になって探せばきっといい相手が見つかると思うよ」
「俺が優しい?」
「うん。だってカノンは悪いと思ったらすぐに謝れるでしょ。そういうの凄くいいと思うよ」
「そうだろうか」
「まあ、取りあえず食おうぜ」
「ああ」
ミートソースとほうれん草とベーコンのキッシュを食べ終えると、俺はプリンとアップルパイを頼み、ナックはチョコレートパフェ、カイルはシフォンケーキを頼んだ。
「そういえばこんな手紙が届いているんです」
カイルは俺に一通の手紙を差し出した。
それは白い紙に書かれていた。
あて名は警備隊事務局。
送り主の名はない。
読んでみると、もうすぐシース村の娘が人食い城の生贄にされるので魔法使い様に助けていただきたいと
いうことだった。
シース村というのは行ったことはないが王都からだいぶ離れたとても寂しい村だったはずだ。