7 これだけは譲れない
ナックがパンケーキを頼んだので俺も〆としてバニラアイスを頼んだ、勿論大盛りで。
「お前じゃあ、ステラさんとか、リアさんとか、ロゼさん見ても美人だなぁとか思ってないってことか?」
「同僚だろ。失礼だ。警備隊は働くところだぞ」
「嫌、そうだけど、大概の人間は職場婚じゃねぇの。それか見合い」
「見合いか」
「まあ、容姿にこだわるのは良くないって俺も言ったもんな。顔で判断しちゃいけねぇな。まずは簡単なところから潰していこう。年齢は?どこからどこまでいける?」
「年齢?」
「いくつまでなら離れていい?下は、これは結婚する以上我が国の法律では十五からしかありえないんだが、年上はいくつまでいける?」
「わからん」
「嫌、わからんじゃねぇわ。自分のことだろ。十歳上までいけるとか、二十歳上までいけるとかお前が十七なんだから、三十上で四十七だぞ。四十七の人をお嫁さんにはありか?」
「わからん。想像もつかない」
「まあ、もう年はいいか。じゃああれだ。背は?お前がデカいから背の高い女性がいいよな?」
「何でだ?」
「歩いた時にあんまり身長差があるとしっくりこないだろ。腕組んで歩くのとかも難しいぞ。お前百九十だったよな?」
「ああ」
「じゃあ、お相手の女性は百七十は欲しいな」
「そうか」
「そうか、じゃねぇよ。髪は?」
「かみ?」
「髪の毛だよ。長いのがいいとか短いのがいいとか、色とか、さらさらとか、くせっ毛とか」
「別に何でも」
「ああ、そうだねー。もうお前これ何でもいいんじゃん」
「できるだけ早く結婚してもらえるなら何だっていい」
「早く?何で?」
「師匠に見せたい」
「ああ、そういうことか。まあそうだな、立派に家庭を持った姿を師匠には見せたいよな。それはいいことだと思うぜ」
「できれば今週中にしたい」
「は?お前まだ好きな子も、どういう子が好きかすらわかんないのに?」
「それは後からでもできるだろ」
「へ?」
「好きになるのは結婚してからだっていいわけだろ?」
「嫌、まあ、そういうこともあるか。うーん」
「最終的に愛する妻になってくれたらいいんだ」
「お、おう。まあ。うん、そうか」
「取りあえず、相手を見つけないといけない。何か方法はないか?」
「そうだな、職場婚が嫌なら、あれだ、結婚相談所に行くしかねぇな」
「そうか。結婚相談所か」
「そう、その道のプロが懇切丁寧に相談に乗ってくれるよ。お前金ほとんど使ってねぇんだから今度の休みに行ってみるのも悪くねぇんじゃねぇか?」
「そうか。ありがとう。行ってみる」
「お、おう。頑張れ」
「ああ。頑張る」
「あ、でもよ、結婚相談所に行く前にこれだけは譲れない相手の条件ってのを持っといた方がいいんじゃないか?」
「これだけは譲れない?」
「ああ、そうだな、そう、うーん、タバコを吸うのが嫌だとか、酒を飲むのが嫌だとか、賭け事をする人が嫌だとか、借金がないこととか、あと嘘つきも困るだろ、約束を守らないとか、人前で相手を平気で罵倒するだとか、すぐ人の悪口を言うとか、怒ったらすぐ暴力をふるうとか、いびきが五月蠅いとか、片付けられないとか、好き嫌いが多いとか」
「いっぱいあるんだな」
「そりゃいろんな人間がいるからな、見かけじゃわからないこといっぱいあるだろ。あんなに清純に見えても中身はどす黒い虚言壁とか、あんなに品行方正に見えたけど、実は人のこと陰でいじめる陰湿な人間だったとか」
「なるほど」
「まあ、一つくらい決めておきな。あとはあちらさんはプロだから」
「わかった。ありがとう」
結婚相手に望むことで譲れないもの、そんなのは本当にたった一つだ。
ルシファー召喚のため生贄になってくれること。
それ以外何も望まない。
本当に唯それだけだ。