6 可愛い
俺はドリアとミックスフライ定食を平らげ、デザートにガトーショコラとベイクドチーズケーキとコーヒーを頼んだ。
俺は食うのが好きだ。
でも魔法を使っている時がもっと好きだ。
一日中働いていたい。
休みの日は好きじゃない。
「まあ、お前が結婚を望むとしてだ」
ナックは苺のパフェの苺を頬張り眉間にしわを寄せ難しい顔をする。
「結婚には相手が必要なわけで、一応聞くけどお前付き合っている人がいるのか?」
「いない」
「じゃあ、見つけなきゃなんないんだな、まずはな」
「ああ」
「まあ、お前は実家は太くないけど、アルフレッドさんっていう最強の魔法使いの後ろ盾もあるし、そもそも隊長で高給取りだし、背も高いし、足も長いし、顔も絵画から抜け出て来たみたいに美形だ。女がほっとかねぇよ。少なくとも結婚したいとお前が言ったらまあ相手はすぐに見つかるだろ、だけどな」
「だけど?」
「容姿がいいだけじゃ結婚って上手くいかないとおもうぜ、俺は」
「そうなのか?」
「見た目の良さなんてすぐ飽きるよ。その時にどんだけ本人の魅力で維持できるかだろ。大切なのは中身だよ」
「中身?」
「いい人間であることだよ。善良、優しさ、思いやり、慈悲深さ、それは容姿が優れているよりも、魔法使いとしての強さよりも武器になると思うぞ、結婚するにはな」
「そうなのか?」
「嫌な人間と四六時中一緒にいたいか?」
「別に気にならないが」
「お前はそうだろうが、相手はそうは思わんだろ」
「そうか」
「まあ結婚相手としてのお前が悪くないとして、お前はどういう女性がいいんだ?好きなタイプは?」
「好きなタイプ?」
「何かあんだろ。ざっくりでいいよ」
「ざっくり、わからん」
「ざっくりがか?」
「嫌、好きなタイプがだ」
「嫌、何でわかんねぇんだよ。自分のことだろ」
「考えたことがなかった」
「嫌、じゃあさ、あの、街歩いててどういう子見た時可愛いって思う?」
「思ったことがない」
「何でだよ。俺なんか三秒に一回思ってるぞ」
「そんなに女性ばかりが歩いているか?」
「あのなぁ。おい、ちょっと待てよ。まさか可愛いがわからんとか言わんよな?」
「可愛いの意味なら分かるぞ」
「嫌、言葉としての理解じゃなくて、実感だよ。可愛いと思ったことがないのか?女性に対して」
俺は冷静に考えた。
もう少し糖分を摂取した方がいいと考え、ミルクレープと季節のフルーツタルトを頼んだ。
真剣に考えたが過去と現在において女性に対して可愛いと思ったことがない可能性が極めて高いという結論に達した。
「ないと思う」
「おいおいおいおい、どうすんだよ。そっからかよ」
「申し訳ない」