4 誓う
「カノン、俺が言いたいことがわかるか?」
「はい。俺が結婚して、その妻を生贄に捧げ、ルシファーを召喚するんですね」
「その通りだ。お前は賢い子だよ」
「わかりました。師匠の期待に絶対に応えてみせます」
「俺はもう長くはない。生きている間にルシファーが見たい」
「頑張ります」
「できるか?」
「できるじゃなく、やるんです」
「そうだな。お前は強い子だ。俺にはできない」
「してほしくないです。それに師匠はできないと思います」
「そうだな。俺は弱いからな」
「師匠は強いです。俺は妻を生贄にするのを何とも思わない人間です。俺は悲しむということができないんです。だからきっとルシファーを召喚できると思います」
「カノン、お前一つ忘れてるぞ」
「何ですか?」
「ルシファーには愛する妻を生贄にしなければならないんだぞ。お前が結婚したとして妻となった女性を愛せるか?」
「できないと思います」
「即答かよ。何でだ?」
「俺にはそんな人並みの当たり前に備わっているような感情が欠けているんです。俺は魔法以外何もできないんです。魔法が使えなかったら唯の大飯ぐらいの役立たずです」
「そんなことないぞ。お前は背が高いからな。高い所のものが脚立に乗らずにとれるじゃないか。立派な才能だよ」
「そんな人間五万といますし、背が高くて人を愛せる人も沢山いると思います。俺は不完全です」
「当たり前だろう。まだ十七じゃないか。これから知るんだよ」
「そうでしょうか」
「俺の言うことに間違いがあるか?」
「ないです」
「大丈夫。お前はきっと誰かを愛し、誰かに愛される人になれるよ」
「想像もつきません」
「愛することは難しいことじゃない。でも簡単でもない。ただ素晴らしいことだ。それはきっと魔法よりもずっといいことだ」
「魔法よりもですか?」
「そうだよ」
「最高の魔法使いである師匠のお言葉とは思えません」
「だから俺は全ての時の中で最高になれなかったんだ」
「なれますよ」
「嫌、なれないよ。俺はまあ、もう残りの人生ずっと寝てても、まあ明日隠居しても大賢者になれるだろう。だけど、未来永劫最高の魔法使いにはなれないだろう。それはお前がなれ。全ての時の中で最高と言われろ。それが俺の最後の望みだ」
「師匠」
「さっきルシファーが見たいと言ったが、正確には違う。お前がルシファーを召喚するところが見たい。
それが出来たらお前は間違いなく最高だ。俺にその姿を見せてくれ」
「師匠」
「取りあえず、飯を食っていきなさい」
「はい」
師匠の奥さんがハンバーグとグラタンと大きなオムレツと白身魚のフライを作ってくれたので有り難くご馳走になった。
師匠の奥さんは昔からずっと美味しいものをいつもたらふく食べさせてくれる。
奥さんがお土産と言ってスイートポテトを持たせてくれたので宿舎に戻って風呂上がりに食った。
ベッドに潜り込み目を閉じると師匠と奥さんと食事した今夜と過去の楽しい時間を思い出し、この二人に報いるためにも俺は何としても妻を愛し、ルシファーを召喚してみせると誓った。